ホーム / Lifestyle / 伝統 / 京友禅 ―京都のほんまもん「京友禅」に出合う―
京友禅 ―京都のほんまもん「京友禅」に出合う―

京友禅 ―京都のほんまもん「京友禅」に出合う―

 色鮮やかな模様に金刺繍。きものの代名詞ともいえる日本の名品「京友禅」。京友禅の製作工程は少なくとも17はあると言われ、分業制になっている。それぞれの工程で名工が腕を振るう。京友禅は職人技が積み重なって出来上がるのだ。自らの仕事を完璧に仕上げながらも、次の職人が仕事をしやすいようにと気を配る。つながっているのは1本の反物だけではない。職人の心も、順につながっていく。
 鴨川で行われる「友禅流し」をテレビなどで見た人は多いだろうが、他の工程を目にする機会はめったにない。今回は技を究めた伝統工芸士の職人たちを訪ね、「ほんまもん」の技と心を探った。

京手描友禅の制作工程

全体染匠

田村康浩さん

 きもののいわゆるプロデューサーが染匠だ。依頼主の希望を聞き、適切な職人を選び、依頼主の思い描く完成形に近づくよう、すべての工程を采配する。特に職人さんの得手不得手を把握していないと、思ったような仕上がりにはならない。染匠歴45年田村康浩さんは「着る人が思い描いているイメージをどれだけ視覚的に見せられるかが大事です。頼まれる方は私がどんなものを作るか分かって頼みに来られるので、信用を裏切ることはできませんし、最初の話し合いが重要なんです」と語る。各職人さんへの心配りも重要な仕事。「ただ、反物を職人さんから職人さんへ持って行ってるだけやったら、相手にされません。自分が作りたいもんをちゃんと伝えて、かつ職人さんにも気ぃよく仕事してもらわないと」。

1.下絵
下絵
 手描き友禅の最初の工程。白生地に露草から作った青花で絵を描いていく。完成品に青花は残らないが、完成品の図柄を描く大切な工程だ。尾崎武司さんは、芸術大学で日本画を学び、呉服屋の図案部からこの道へ入った。「絵を描くのは難しいことやないです。構図を決めるんが難しい。下絵羽iしてたらまだ分かりやすいですけど、反物やったら、どこの部分が着た時に表に出るとか、きちんと分かって描かんといかんからね。合口iiの部分をきちんと描いとかんと、次の糊置きの人が困るわね」。尾崎さんの下絵は「痩せない」と評価されるという。「量感があるというか、筆使いに感情が表れてるんでしょうね。同じモチーフを描くんでも、毎回実物を見に行きますし」。作図の基本は省略と誇張なのだとか。「この前ミュシャiiiの絵を見てアールヌーボー調な図を描いてみたんですよ」とまだまだ勉強熱心だ。
2.糊置き
糊置き
 友禅とは「染物」である。色無地も柄があるものも元は白生地。地色を染める際に、柄まで染まってしまわないようにするのが糊置きだ。糊が染料を防ぐので、糊が乗っている部分は染まらない。下絵の線に糊を置き、友禅挿ivの後、塗った部分にまた糊を置くv。糊の原料はもち米と糠、塩。伝統工芸士の他、京の名工でもある駒井富士雄さんは言う。「高くても国産の米を使います。粘り気が違う。各材料の配合は職人ごと違いますね」。現在ではゴムを使用するゴム糊置きという技法もある。「糊置きは基礎工事みたいなもんです。糊の線は残るんで、糊を下手に置いたら、いくら下絵が良くても台なしになる。線の強弱も絵の表情には必要なんで、思った通りの線が描けるようにならんとあきませんね」。見ていると至極簡単そうに見えるが、糊に粘りがあるので均一に絞り出すだけでも相当技量が必要な作業。
3.挿友禅
挿友禅
 色鮮やかな友禅の色を“挿す”工程。最も華やかに見える工程だ。化学染料を焚いて色を作っていく。基本色はだいたい7~10色。大抵3、4色を混ぜて色を作るため、できる色の種類は天文学的数になる。40年間、色を作り見続けた鹿間鴨水さんは言う。「色は後工程の蒸しで変化するから、どう変わるかっていうのは経験を積まなんと分からんね。一番難しいのは地色にどう合わせるか。地色に引っ張られたり、負けたりして、これもまた色が変わるから」。1枚のきものに使う色は1色、2色ではない。反物ごとに作る色見本の束も相当な数。「はみ出さんように塗るとかは、慣れたらできるのよ。着る人が主役やから、色・柄が出過ぎん色を選ぶいうんが難しいね。きものが歩いてる感じじゃまずいでしょ(笑)」。見た目の美しさだけでなく、考えるべきことは想像以上に多い。
4.引染め
引染め
 地染めとも言われ、地色を染める工程。刷毛で均一に染めたり、ぼかして染めたりする。
師匠の木村輝男さんの下で染め始めて30年の小嶋さんに引染めのポイントを聞いた。「とにかく早く手を動かすことですね。すぐ乾いてしまうので、色斑ができてしまいますから」。
 13~16mほどの反物を一気に染める。引染めの前には地入れという作業があり、これをしないと色がきれいに染まらないのだという。「ぼかしをする場合は、ぼかしたい部分に先に霧を吹き付けておきます。こうすると薄く染まるんです」(小嶋)。挿友禅と同様、色の変化に関しては経験がものをいう。「同じ色で染めても、生地の織り方やったり、種類やったりで染まり方が違います。最近は人手のこともありますから、できるところから任せようという感じですが、昔は一人前まで10年と言いました」(木村)。
5.蒸し・水元
蒸し・水元
 染料は蒸すことによって生地に定着するため、蒸しの工程は引染め、友禅など色を入れた後に必ず通る工程だ。100℃の蒸気で蒸すのだが、生地が含む水分の調整が大事だと株式会社広海の藤井紳一郎さんは言う。「蒸気が気体から液体になり、この水分に溶解した染料が水分によってふやけた糸の中に入っていくんです」。30分の先蒸しの後、薄地で50分、濃地では数回本蒸しを行う。「先蒸しと本蒸しの間に一旦生地を冷まし、挽粉viをまぶして水分調整をします」。染料の濃度によって、蒸す回数や時間が変わるという。他の工程と比べ、機械化されているものの、手作業の部分も多く残る。蒸しで定着させた後、余分な染料を洗い流す工程が水元だ。鴨川で行われる友禅流しはこの工程。しかし現在は環境保護のため自然の川での水元は行われていない。「京都の地下には琵琶湖ほどの大きさの水源があると言われています。その水を汲み上げて使っています。京都の水は世界でも類を見ない良質の軟水です。京都で染物が発展した一因ですね」。
6.金彩
金彩
きらびやかな菊や、キラキラ光る波形。京友禅の豪華さを演出するのは金彩だ。井上恒次さんは金彩の第一人者。「一番大事な資本は手彫りの型紙なんです。多彩なデザインを持っていればいるだけ、多様な仕事に対応できますから」。型紙を使っていても、練り金と呼ばれる金を均等に塗る技術は簡単ではない。「均等でないと型どおりに模様が出ません」。「金箔を扱う道具も竹で手作りします」。金箔をかけない部分にはマスキングをするが、模様に合わせて切り抜く技術も、細かさ、力加減の絶妙さなど、驚きの技術だ。「ほぼ最後の工程ですから、緊張感はあります。それまでの職人さんの仕事が台なしですから」。井上さんは箔の光沢だけで濃淡をつける技法などオリジナルで編み出したりしている。最近では、きもの以外でも仏具やホテルのインテリアなど、高度な技術を生かし、金彩の裾野を広げている。
7.刺繍
刺繍
 金彩に並び、京友禅に華やかさを際立たせる刺繍。柄の外枠を強調するもの、柄に膨らみを持たせるもの、柄を埋めるものなどその技巧は多種多様。加えて刺繍糸の色は、友禅に匹敵するほどの数。微妙に違った色の糸が所狭しと並ぶ工房。杉下平兵衛さん(本名:陽子さん)は東京でも刺繍教室を持つ工芸士だ。「お嫁に来て、子どもがちょっと大きくなった頃から見よう見まねで始めました」。同じく伝統工芸士のお舅さんと旦那さんは「教えてくれなかった」とか。「はじめは『なんて綺麗なお仕事』って思ってましたけど、大変ですね(笑)。1針で1mmも進まないんですよ」。技法や色選びも重要だが、入れる・入れないの判断も重要だ。「友禅の具合によって刺繍を入れないほうがいいこともあります。逆に友禅挿の方が刺繍が入るだろうと、あえて色を入れない場合もあります。友禅の方と打ち合わせをすることはありませんけど、自然とコラボレーションが行われてるんです」。
8.地直し
地直し
「きもののお医者さん」と言われるのが地直しの職人だ。製造の各工程で起こったトラブルを解決する。下絵を間違えたり、染料が飛んでしまったり、柄以外のところに糊がついてしまったり、生地難による色溜りができたり。ミスや不可抗力を問わず、さまざまな問題が起こる。「各工程で起きた問題を、次の工程に行く前に直すのが役割です。すべての工程に関わるので、どういう作業をされるのか、どんな材料を使うのか、分かってんとできませんね。なぜその難が起きたのか、原因を見極めないと、また起こりますから。改善を提案もします」。多くの薬品を使用するため、座学も必要。現在は検定試験があるそうだ。問屋へ納められる前に、製品の最終検品を行うのも大事な仕事だ。「最後に見て、正しく補うのが役割やね」。最近はシミ抜きなど一般客のアフターケアも請け負う。「シミを取ることによってお祖母さんのきものをお孫さんが着てくれたらいいですよね」。
i 反物を裁断してきものの形に縫合したもの ii 表柄がつながる縫いしろの部分 iii オーストリアの画家 iv 色彩のこと v これを伏せ糊という vi おが屑の細かいもの。他の生地に糊がつくのを防いだり、水分調整を行う

文:川口奈津子(編集部) 撮影:橋本雅嗣(雨音Graphics)

Scroll To Top