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六角ボディの傑作 カランダッシュ「エクリドール」

なぜ六角形なのか

 日本では、カランダッシュを漠然と高級ブランドだと思っている人が多い。ひょっとすると、高級ライターのメーカーだと勘違いしている人もいるかもしれない。もちろんライターも作ってはいるが、カランダッシュは、第一義的には文具メーカーである。それも、スイス人なら誰でも知っている、文句なしのトップメーカーだ。スイスと言えば、世界で唯一の永世中立国。『アルプスの少女ハイジ』のおじいさんの無口で頑固なイメージも手伝って、なんとなく“こだわり”の多いお国柄という印象がある。そんな国で圧倒的なマーケットシェアを獲得できるのはなぜか。それは、小学校から大学まで、スクール・マーケットをがっちり押さえているから。鉛筆や消しゴムをはじめ、あらゆる学童用品をスイス中の学校に納入しているのが、カランダッシュなのだ。
 1915年に設立された「エクリドール鉛筆製造所」を買収し、24年に「カランダッシュスイス鉛筆製造所」としてスタート。「エクリドール」の「ecri」は筆記を意味し、「カランダッシュ」はロシア語の「鉛筆」。世界ではじめて水溶性色鉛筆(水で濡らすと、水彩画のような表現ができる色鉛筆)を作った。要するに、根っからの筆記具メーカーだ。ちなみに、ロシアの言葉を社名に戴くが、ロシアの会社ではない。創業当時に活躍していたロシア生まれのフランス人風刺画家、エマニュエル・ポワレ氏のペンネーム「Caran d’Ache」の響きの良さに惹かれての命名である。

 さて今日、鉛筆軸の形状は、ほとんどが六角形か丸軸。丸軸しかなかった時代に、六角形の鉛筆を作ろうと最初に考えたのが、実はカランダッシュだった(発売はドイツのファーバーカステル社が先行)。なぜ六角形だったのか。
「第一の理由は、子どもにとっての使いやすさ。第二が、他メーカーとの差別化です」(カランダッシュジャパン株式会社代表取締役社長・アンジェロ・ポンツェッタ氏)
 使いやすさとは、書きやすさ、削りやすさのこと。丸軸だと、転がりやすいうえ、滑って持ちにくい。子どもが携帯用の鉛筆削りに鉛筆を差し込んで回す時、たしかに、丸い鉛筆では滑ってしまって、うまく削れないだろう。
 書きやすさについては、若干回りくどい説明が必要だ。私たちは、鉛筆に限らず筆記具を、3本の指で持つ。そのため、最近の子ども向け「かきかた」鉛筆には、三角軸の物が増えている。カランダッシュも、スイスやドイツでは三角軸の子ども用万年筆を販売している。なぜ子どものための筆記具が三角軸なのかと言えば、3面のそれぞれを、親指、人差し指、中指の3本の指で支えると、自然に正しい持ち方になるから。その応用で考えていただくとわかりやすいと思うが、六角軸だと、6面のうちの1つおきの3面を、3本の指で支えることになる。安定感があり、適度に力が入る。だから、書きやすくなる、というわけだ。

 おっと、このコラムのタイトルは「魅惑の万年筆」だった。意外なことに、カランダッシュが万年筆の発売を開始したのは、1970年と比較的遅い。今回ご紹介する「エクリドール」コレクションに万年筆が登場したのは、なんと1999年。たった10年ほどで人気を得ているのは、カランダッシュの鉛筆やボールペンの使いやすさが既に広く知られていたから、としか考えられない。そして、もう1つの要因は、アイコンとも言える六角ボディ。カランダッシュの六角鉛筆で育った子どもは、大人になると、カランダッシュの六角万年筆を、まるで吸い寄せられるように買ってしまうのだ。


カランダッシュ公式ウェブサイト
carandache.com

文:渡辺麻実

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