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【金融多論】 FRB政策に揺れる金融市場

【金融多論】 FRB政策に揺れる金融市場

資本流出防止政策で対抗する中国

 中国の事情もここにきて急変しているように思われる。まずもって人民元はドルに連動して動くので、放っておくとドル高につられて上昇する。8月に中国人民銀行は、人民元・ドル相場の基準値(オンショアレート、上下2%の変動幅で決定する)がその範囲の上限まで切り下げ、ドル高・元安方向に設定した(1ドル=6.2298元)。
 景気刺激と輸出促進策、対外資本流出(流出額約85兆円で30%流出)への牽制か、それとも中国のSDR入りをにらんだ動きか、様々な解釈がある。しかし、中国については、金融要因だけではない、相場を巡る政治の駆け引きや権力闘争も考えられる。
 年率8%のGDP成長率がないと13億人余の人口を有する経済生活を支えられないといわれた中国は、2012年の7.7%からさらに7%、そして直近6.8%といわれる水準にまで低下している。ワシントンの中国専門家に言わせると、この数値の低迷は、国民の不満につながり、国内の暴動、内乱が起こる指数とも読み取れるという。
 8月の同国の製造業PMIは、47.8と下方修正され、中国貿易統計(7月)では輸出も前年比8.9%ダウンである。外貨準備もピーク時の480兆円から8月には430兆円弱に減少している。
 銀座やパリで見られる中国人の高級免税品、健康用品、白物家電などの“爆買い”はいずれ衰えるとしても、いまだ勢いがあるようだ。中国経済を支える要因は、個人消費よりも世界の工場からの輸出であり、現況の景気の減速はこの輸出の後退によるところが大きい。従って、この輸出競争力の源泉を、上昇する賃金カーブ抑制ではなく、為替政策変更に求めたと考えることができそうだ。
 上海株式市場も個人投資家が主体だが、乱高下を繰り返し、世界のリスク要因を高めている。市場に政府が介入するが株式の売りの趨勢を政府が意図するようには抑え込めない。これは一般的な市場の需給の論理とは異なる動きである。
 中国への日系企業の直接投資も前年比で20%以上の減少をたどり、中国バブル崩壊とともに、賃金上昇、外国企業に対する労働関連法規の遵守要請など政府の外資多国籍企業への規制力に拍車がかかる。
 中国政府(中国共産党と国務院)は9月17日の深夜に公文書で、おそらくFRBの金利政策転換(金利上昇)の可能性を意識してか、中国投資を促す自由貿易特区、市場開放促進政策を打ち上げた。これは、中国からの資本流出を止め、より外国からの投資を増加させたいという考えの反映であろう。同時に、中国国内企業の海外進出と海外投資を促進すべきことを表明した。
 中国はこのような宣言的な効果を狙って、自国の改革・開放、経済構造の調整、経済発展が新常態(いわゆるニュー・ノーマル)に入ったことを世界に向けて印象づけ、さらなる資本流出を抑制しようとしていると思われる。

その他の新興国への影響

 このような市場変動率の増大で新興国の資産が売り込まれ、急速な新興国通貨安が巻き起こった。その先行きには、懸案の米国の金利上昇と米国通貨買いで、さらなるダウンサイドのリスクが見込まれる。
 先述の中国人民元の再度の切り下げ観測も考えられよう。中国経済の停滞は、アジアから遠く離れた欧米の投資家には、中国にとどまらず、個別の国情を考慮せずに東南アジアを含めたアジア全体の売りにつながっている感もある。
新興国株式売り、通貨売りは、資本の流出を招き、マレーシア政府も公的資金で株価維持に努めたものの、外国人投資家はFRBの政策見送りを材料に、一斉に売りを浴びせた模様である。同国通貨は年初から20%に迫る下落である。
 インドネシアも急激なルピア安に見舞われている。インドはなかなか進まぬ規制緩和・構造改革を進め、通貨売りに歯止めをかけている。ウクライナ問題(対ロシア経済・金融制裁)と原油安を抱えるロシアのルーブルも不安定だ。
 中国に鉄鉱石など資源輸出の8割を依存するオーストラリアも通貨・経済が停滞する。資源輸出国としてのカナダも、中国への傾斜が高く影響を受けやすい国である。ブラジルは政界の汚職、経済改革が進まず経済がさらに停滞、レアルも1994年以来の安値対ドルで4.05を記録している。これらの国々は通貨下落を止めるために金利を上げる政策が必要だが、国内景気・財政を配慮するとその政策の矛盾に陥る。

市場は年内説が濃厚だが政策金利を今の低インフレ化でなぜ上昇させるか

 FRBのイエレン議長、地区連銀総裁ら17人のうち13人は年内利上げを予想した。このような状況で、FRBは米国景気がおだやかに拡大しているという見方を維持し、重視する雇用環境もさらに改善がみられ(失業率5.1%)、物価の上昇率(2%目標)に自信が持て、海外経済の要因が安定すれば10月も含めた年内に政策転換を実施する可能性もあるとする。
 だが、こうした数値を見ると、完全雇用に近い形で米国の雇用も達成され、物価も安定しているのだから、このまま、金利を上げる必要がないのではないか、という議論も出ている。なぜあえて、FRBが金利を上げようとする行動に出るかは、FRBの意義の再考と金融システムや米国金融・銀行業界との結びつきなどを多角的に検討する必要もあろうか。
 いずれにしろ、市場の憶測と不安を引きずりながら2016年を迎える可能性もないとは言えないのが現状である。FRBなど主要国の金融政策もグローバル化しており、中国経済動向による国際金融市場の混乱も政策決定の要因である。
 こうした中、日本銀行は、さる9月15日の金融政策決定会合では現状を維持を発表したが、混迷する国内情勢(GDP縮小と集団的自衛権を容認する安保諸法制成立)の中で、政治的な要請と相まって追加緩和の実施も考えられ、それが10月も含め、いつ、どのような手法で実施されるかも注目したい。


IMG_2390西村 訓仁(にしむら・くによし)
米国、フランスの国立銀行、ドイツ系金融機関等で主に国際金融業務、ファイナンスに従事。ロンドンなど欧州駐在では、汎欧州の金融ビジネスを経験。現在は、ロンドンに株式を上場している世界的なネットワークを有するインフォーマグループの金融市場・国際政治経済の分析会社「インフォーマ・グローバル・マーケット(株)」の代表取締役。大学院では国際政治経済学を専攻。

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