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二大政党制の実験、民主党政権と金融市場

二大政党制の実験、民主党政権と金融市場

鳩山民主党政権の誕生は金融市場にどのような影響をもたらすのか、注目だ(Photo:Getty Images/アフロ)

鳩山民主党政権の誕生は金融市場にどのような影響をもたらすのか、注目だ(Photo:Getty Images/アフロ)

二大政党制の実験、
既得権益の破壊

 今回の自民党から民主党への政権交代の意義は、従来の既得権益擁護の政治を見直す大きなチャンスであると共に、日本初の二大政党制がどう機能していくのかという実験でもある。欧米の市場関係者からは、日本の動向には関心があるものの、たとえ民主党新政権になったところで、日本の構造的問題の根は深く、政治も経済も生活も大して変わらないだろうという冷めた意見が聞かれる。
 日本市場への投資収益は海外投資家の期待を長年裏切り続けてきたし、民主党のマニュフェストはいまひとつ実現性に疑問があり、党自体のパワー構造が旧態依然ということになれば無理もない話である。加えて、日本発の一部の懐疑的な論調にも少なからず影響を受けているようである。
 欧米人から見れば、日本が54年に及ぶ(93年8月から10カ月間を除く)一党独裁制から二大政党制へと、何はともあれ移行できたことは民主主義国家としては喜ばしいことに違いない。だが、彼らは当然ながら二大政党制の問題点もよく知っている。
 鳩山新政権に対する国民の支持率は非常に高く、街頭インタビューなどからも、多くの日本人が新政権に対して実力以上に前向な期待を寄せていることが伺える。それは、長い間の自民党政権の呪縛から解かれた国民が、経済成長率から成長戦略を捉えるのでなく、子育て・医療・雇用といった国民生活福祉向上を通じた消費向上という視点から政策を進めようとする政党を欲しているからに他ならない。新政権が約束した政策の実行が、何よりも自分たちの仕事や生活、そして将来の子供たちの安全に直接かかわることだからだ。

二大政党制の英国は
政治家と官僚の関係を制限

 欧米、特に英国の二大政党政治の例を見ると、国家戦略会議のあり方、政治家と官僚の関係が法律によって明確に規定されている。政治家と官僚の定例ミーティングの制限、情報交換の方法論についての制限など、二大政党制ビギナーの日本が学ぶ点は多い。事実、今回副総理兼国家戦略担当相となった菅直人代表代行はこうした点を研究するためロンドンに飛んでいる。
 実際ロンドン・ビッグベンの国会中継を見ると、日本の国会とは違い、格段の迫力がある。トーリー(保守党)とレーバー(労働党)が片側5列で向かい合ったベンチ(あらゆる議論が聞こえるように増幅マイク付き)と呼ばれる議場で、お互い至近距離から、原稿に頼らず、長時間にわたり激しく議論する。私にとって一番印象的だったのが、少し時代が古くなるが、いかにも草食系のヤギさん顔のメージャー首相でさえ(90-97年保守党政権の首相)この時ばかりは肉食獣に豹変していたことである。労組をつぶし、規制改革、民営化を進め、人頭税導入も提案した鉄の女サッチャー(79-90年首相)の答弁の貫録と迫力は言うまでもない。議員はいくら興奮しても両ベンチの間に引かれた赤い二本線(19世紀以来お互い剣を抜いても刺せない距離に線が引かれた)を越えることはできないのだが、ひとたび議事が終わるとメージャー首相もまたヤギさんに戻り、敵と握手を交わすのである。大人の議会である。
 政権交代は二大政党政治の大前提ではあるが、かつて万年野党(18年間)の座に甘んじていた労働党のトニー・ブレア(97年首相に就任)は、一段高いレベルから、時にレトリックなどを駆使して、政権復活戦略を進め(自民党議員も一度英国に留学してここら辺をじっくり学ぶことをぜひお勧めしたい)、その後政権を奪取するとイングランド銀行への金融政策決定権の移管、IRAとの停戦協定、対人地雷の禁止などの新政策を矢継ぎ早に実施していった。

民主党政権と金融市場

 金融市場では、まだ新政権が発足したばかりで、様子見か市場政策を観察している向きが強いが、現在の金融市場を概観すると、世界的な低金利継続(アメリカゼロ金利、日本コールレート0.1%)と緩やかなドル安(1ドル89円台)が進行中である。さらに、オバマ新政権の米国金融経済救済策の巨額の財政資金投入で、市場に多少の安心感が現れて、世界の過剰流動性(余剰資金)が再びリスク選好に転じて、株式市場や規制の緩い商品・コモディティ市場に資金が流れている。ニューヨーク株価は年初高値を更新、原油価格も1バレル70ドルを越えた。1万円をつけた日経平均も、民主党の推進する環境政策関連銘柄の今後に期待するところである。さらに、ドルの値動きと逆相関する金の価格も1トロイオンス=1,000ドルの値をつけた。国際金融危機と前後して、世界の政治経済の潮流も米国一国主義から多国間主義へと、行き過ぎたグローバル化から再び地域主義へと変容している感がある。そうした状況で、鳩山政権は、米国から少し距離を置いた行動を考えているようだが、それは日本のドル中心の資産運用にも変化をもたらす可能性がある。ドル中心は、中国、ロシア、中東も同じだが、日本の資産運用・貿易構造がドル中心である以上、どうしても安定した強いドルを求めることになる。軍事安全保障についても条約で米国の傘の下にある日本は政治経済の安全保障でも対米関係を重視せざるを得ない。この点で、鳩山政権は、過去に見られたような50兆円を超す巨額の外貨準備資金を投入して外為替市場に介入するだろうか。新政権や日銀から、すでに円高を容認するという発言が聞かれる状況からして、今後緩やかに円高に移行していくであろう、と考えられる。円高は日本に購買力をつけ、金融トレーダーから見ればどちらに動こうと市場変動率が高いことは収益機会が多いことを意味する一方、輸出主導の日本製造業にとっては、原材料価格上昇につながる足元のコモディティ市場の投機的な価格上昇とともに、今後の円高傾向は試練となるだろう。
 こうした円高への対策として、輸出企業の海外への製造・販売拠点のシフトが一層進めば、現在統計データで5.7%を越えた失業率が一段と悪化して国内的にはさらに雇用が失われることになる。人口の減少とも関連し、将来外国人労働者が増加が考えられ、国内の労働市場では雇用が減少する可能性が高い。最も、少子化対策が子供を増やすという文字通りの意義を越えて、個人消費の喚起、すなわち余裕ができた家計部門の消費支出増加をもたらす方向はポジティブに考えたい。
 既得権益を破壊していくことで固定された経済を柔軟にし、年金問題に関する国民の不安や不信感が解消され、定率減税導入、2012年高速道路無料化で減少する車販売に歯止めを掛け、総合的な消費促進につながる可能性を考えれば、輸出依存型の経済モデルを脱却し内需拡大につなげる等、マクロ経済に対する波及効果として期待できる。
 ここでの問題点として、欧州の社会民主主義的政策に近い社会政策を実行するのであれば、欧州が直面した財源の問題に当然突き当たる。所得の再分配分以外に、経済活性化で国民経済を浮揚させ、税収を増やさねばならない。2011年から12年に、新たに必要と予想される資金は12兆円。法人税は、国際競争力の観点から上げられない。消費税は二桁台の欧米に比べて低いが、これを上げないとすれば、個人の所得税率上昇につながることも考えねばならない。また、東京をシンガポールや香港のような国際金融センターに育てあげるのであれば、市場規制、税インフラ、地価などのビジネスコストの競争力は維持しなければならないだろう。
 こう考えると、民主党のそれぞれのミクロ政策は内需拡大というマクロ政策につながるように思われる。仮に、13億人の人口を有する中国が内需を拡大しても、エコノミストの試算ではほぼ中国の生産増で賄われる。消費が低迷する米国も現状では貯蓄率が上がっている。従って、日本の成長戦略としては自国で内需を開拓し新市場を開拓するしかない。新政権の金融市場へのリスクとして懸念されるのが、鳩山首相やその閣僚、財務省、日本銀行等の、経済政策や通貨政策に関する不用意な発言が極めて瞬時に市場や投資家の行動に影響を及ぼすことである。閣僚の中にもすでに足並みの揃わない発言が散見される。かつてないほど能力の高いといわれる鳩山民主党政権ではあるが、民主党の歴史は寄せ集めの繰り返しであり、しかも今回は国民新党、社民党との連立を組んでいる。生まれたての政権の決して一枚岩とは言えない閣僚たちが、支払い猶予など夫々の使命感に熱くなって肩を怒らせているような危なっかしさを感じるのは私だけだろうか。言うまでもないが、新政権の使命は極めて重要である。既得権益で硬直した経済や所得格差に切り込む大胆な行動力とともに、世界に連動した金融市場に対する繊細でクレバーな言動を期待したい。


文:西村訓仁 構成:羽田祥子(編集部)

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