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「不完全な法治国家」中国で法ビジネスに携わる日本人

中国法案件の増加で興味が

アンダーソン毛利・友常・法律事務所 弁護士 石黒昭吉氏

 アンダーソン毛利・友常・法律事務所の石黒昭吉弁護士は、大学時代、見解や前例を文献で調べて問題解決を図る法学の面白みにのめり込んだ。「実際に弁護士業を始めると、クライアントやその関係者への対応など人間的な力が要求され、合格してからも毎日が勉強です」。
 石黒氏が弁護士業を開始した02年当時は、企業の中国進出が盛んな時期とも重なり、中国法案件が増えていた。次第に中国法への思いが高まり、05年に北京師範大学に留学する。「毎日語学力が向上し、コミュニケーションできるようになっていく実感がありました。中国語上達の秘訣は、ある程度まとまった時間をとって集中的に勉強し、それに加え、実際に話したり聞いたりすることですね」。
 留学時代には、歴史遺産が豊富な都市、自然環境に恵まれた都市などさまざまな場所を旅し、その多様性と各都市の独自性に魅力されたという。最も印象深かったのはシルクロードの要所であった新疆ウイグル自治区のカシュガル。
「新疆は中国でも最も西部に位置し中央アジアに隣接する地域ですが、カシュガルはその中でも西の端に位置し、まさに西の最果てです。現地に多いウイグル族は、肌は白く目はブルーで、使っている文字も違います。それでもちゃんと中国語で会話できることに非常に新鮮な印象を受けました。中国といえば北京・上海など沿岸部の都市に目が行きますが、中国の全く違う一面を見た思いでした」。

変化の早い中国ビジネス社会に注意

天安門広場の西側、人民大会堂そばに07年9月に完成した国立劇場、中国国家大劇院。仏ポール・アンドリューが設計した。開場記念事業には小澤征爾指揮による中国交響楽団のコンサートなどが行われた

 中国のWTO加盟以降、製造業を中心に多くの日本企業が中国に進出したが、成功例は少ない。法律的な側面から、石黒氏は中国ビジネスにおける注意点をふたつ挙げた。
(1)制度や政策が変わるスピードが日本とは比べられないほど速い。
(2)労働契約法や独占禁止法など、ビジネスに大きく影響する法令が続々と出てきている。
「少し前には当たり前に通用したことが数年後には全く通用しない、ということが今後は頻繁に出てくると思います。同時にこうした法制度の変化は、盛んになりつつある環境ビジネスのように、高い技術とノウハウを持つ日本企業にとっては新たなビジネスチャンスの側面もあり、常に最新の情報に関心を持つ必要があると思います」。
 中国は法治国家としてまだ未整備で、人治国家的側面が残っている。「中国ではまだ法より人に左右される部分は大きいと思います。許認可の取得にしても、組織の責任者が交代すると、条件を満たしていなかったなどの理由で一旦出た許可が取り消されたりするようです」。また、ビジネスのプロセスにおいて、日本的な押し付けではなく、現地スタッフに気を配り、中国人の面子を立てることが重要だそうだ。
 制度上、未整備な部分は多いながらも、豊かさを求めて大きく前進している中国は、その不完全さが魅力ともなる国だ。石黒氏は「これからも日本人弁護士として、できる限り幅広くきめ細かい仕事をすることを心掛け、将来は日本人・中国人どちらにも満足される仕事がしたい」と夢を語る。

中国からの逆流の時代が来る

 石黒氏は日本人にもっと中国に関心を持ってほしいと願う。中国の経済発展に伴い、中国企業が日本に進出してくるようになると石黒氏は予測する。実際に中国政府は国内企業の海外進出を促進している。「今後、個人レベルで中国といかに付き合い、取り込んでいくかが課題となると思います」。
 筆者は石黒氏と留学時代を共にした。石黒氏は「努力に勝る天才なし」の言葉通りの人並み外れた努力家である。また中国に対する愛着を人一倍抱き、日本と中国における懸け橋を築こうとしている。
 石黒氏の予測するような、日本から中国への企業の流れが逆流する時代がもうすぐやって来るのだろうか。日本・中国・韓国の東アジア経済圏はますます相互に影響し合い、人・モノ・情報の行き来はますます盛んになることは間違いない。読者もぜひ中国に関心を持ち、現地を見て肌で感じてほしい。


仲 智行(なか・ともゆき)

東京大学経済学部卒業後、ソロモンブラザーズアジア証券(現日興シティグループ証券)入社。事業法人70社余りにB/S、P/Lの改善のためのコンサルティング営業に従事。そこで不良債権処理、証券化、デリバティブを用いたリスクヘッジ案件に数多く携わる。その後、中国留学を経て、中国不動産投資ファンド会社にて、本部長として北京オフィス証券化ファンド、PEファンドを手がける。現在、日中双方向での投資・ビジネスコンサルティングを行うZENパートナーズ(株)代表取締役社長

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