ホーム / Column / 「本」電子書籍の普及で未来はどうなる? / オンデマンド出版から読む本の価値

オンデマンド出版から読む本の価値

photo: ロイター/アフロ

photo: ロイター/アフロ

オンデマンド出版とは?

 オンデマンド出版とは、デジタル化された書籍データを基に、注文に応じて印刷・製本・販売する出版形態のこと。電子書籍は書籍データをそのまま販売するもので、データを出力していわゆる本の体裁にして販売するのが、オンデマンド出版だ。
「厳密に言いますと、出版社が在庫を持たずにコンテンツをデジタル化して、受注の時に1冊単位で作っていくケース。それから、例えば大学の教科書に採用された場合など、出版社サイドで200部、300部といった小ロットで在庫を持っている必要があるケース。この2つがあります」(株式会社デジタルパブリッシングサービス(以下DPSと省略)代表取締役副社長・古谷宜男氏)
 どういう本がオンデマンド出版されているかというと「マスでは売れない、けれどもユーザーから必要とされているコンテンツ」(DPS代表取締役社長・鵜澤吉記氏)。ファッションの世界にイメージを借りれば、通常の本がプレタポルテで、オンデマンドの本がオートクチュール。数は少なくても読みたい人のいる本が、オンデマンド出版されるわけだ。
「弊社は、絶版で本が手に入らない問題に対処しようと、99年に凸版印刷と取次のトーハンが50%ずつ出資してスタートさせた会社です。そのため、弊社が出版社からお預かりしているコンテンツは、絶版にされた古い本が圧倒的に多いです。そうした本はほとんどが活版印刷で作られていますが、活版印刷は10年前の時点ですでに難しくなっていました。加えて本の需要は小さく、一度に大量に印刷するオフセット印刷も難しい。そこで、紙からスキャニングして画像データにして、オンデマンド印刷するという道を選んだのです。
 系統としては人文系の専門書が圧倒的に多いです。歴史とか法律、国文学、宗教などですね。例えば歴史系専門出版社の日本史資料の全集の場合、約50巻のうち数巻の在庫がありませんでした。大学を新設して図書館をゼロから作る、あるいは新しい学部を作るから図書館の蔵書を増やす、さらに県の中央図書館を建てたというような場合、全巻そろわないと納入できません。それで欠本を復刻し、その後全巻をオンデマンド化しました。そうした人文系の復刻本がコンテンツの数として6割くらいです。
 残りの4割が自然科学系の教科書です。教科書に採用されてから年月が経って使用される部数が減ってきた。しかし、その先生が教えている限りは出版元として対応しなくてはいけない。1講座あたりの学生数は平均40~50人ですので、年間50冊ほどの需要ということになります。ところが、オフセットの印刷部数は基本的に500部が最低ラインです。500部でも10年分に相当しますから、出版社としては在庫の負担が大変です。それでオンデマンドで印刷するようになりました。
 他にも自費出版などがありますが、タイトル数としてはまだ多くありません」(古谷氏)

オンデマンドが出版不況を救う?

 出版科学研究所によると、09年の出版物の推定販売額(書籍、雑誌合計)は1兆9356億円。ピークの2兆6563億円(1996年)から3割近く減少した。また、書籍返品率も40.6%と、2年連続で4割を超えている。
「既存の出版流通の仕組みの中で、オンデマンド出版という選択肢がもっと存在感を増すといいと思っています。現状では、大量に刷ると1冊あたりの製造単価が下がり、定価が安くつけられる。そうすると同種の出版物の中で価格面の競争力がつく、という理由で、全部が売れるわけではないのを承知で大量に印刷し、流通させてきた。その結果、4割が戻ってきて、在庫コストが出版社の利益を圧迫しています。返品率を下げれば、取次サイドでも3億円くらいのコストが削減できるし、エコロジーの観点からも望ましい。
 オンデマンド出版であれば、新刊も『品切れ重版未定』の既刊も、300部、400部と、需要に見合うだけを印刷することができます。それが、ニーズのある大型書店や人文系専門の書店に流れれば、必要としているユーザーに届くはずです。一部大型書店でオンデマンドの本専用の棚を作ってもらっていますが、将来的には一般の棚の中にオンデマンドの本があってもいいのではないかと思います」(鵜澤氏)

 たしかにそうなれば、マイナーな本が楽に手に入る。読者としてはありがたい。
 問題は価格だ。必要なだけ印刷する以上、通常の本と違って余計な在庫の倉庫代や断裁費用はかからないはず。それなのに、DPSで扱っているオンデマンドの本の価格をざっと眺めると、書店で平積みになっているようなベストセラーの価格帯に比べて、なぜか高い。
 まず、本の価格の内訳を考えてみよう。著作権者に支払われるロイヤリティ(印税)。紙代、印刷代、製本代といった製造費。出版社の利益。取次マージン、書店マージンといった流通コスト。オンデマンドの場合、これらのうち製造費が割高になる。
「もちろん、劣悪な作りにすれば製造費を下げられます。アメリカ辺りでは、印刷した紙束の背中にテープを貼った、卒業論文みたいな作りの本もあるようです。コンテンツが一緒なら見た目が悪くてもいい、という感覚なのでしょうが、日本のユーザーに受け入れられるでしょうか」(古谷氏)
「部数が小さいため収益効率が悪いのが、製造費が高くなる一番の要因です。例えば印刷代1色あたりの金額を見ても、オフセット印刷と比べれば少し高めの単価設定になってしまいます。
 もう一つは機械の構造的な問題です。オンデマンド印刷機では、基本的にA3正寸よりやや大きいくらいの、オフィス用のコピー機とほぼ同じサイズで印刷しています。ところが、オフセット印刷機はその4倍から8倍のサイズで印刷しますので、圧倒的に効率がいいです。しかも印刷のスピードが早い。それからインキ代も安い。オンデマンド印刷機では正確には『トナー代』となりますが、トナーは印刷機メーカーから言い値で買うしかありません。
 そうしたいろいろな条件や制約があり、それに基づいた見積もりを作るものですから、どうしてもオフセット印刷と比べると高くなります。
 そうすると、競合書がたくさんあって定価の安い文芸書やビジネス書、実用書などにはオンデマンドは向かない、ということになります。『この出版社のこの本が読みたい』というニーズに応えるようなコンテンツに向いています。言い換えれば、高い製造費を価格転嫁しても、ユーザーが嫌がらないで買ってくれるコンテンツです」(鵜澤氏)
 その2本の柱が人文系の専門書と自然科学系の教科書、というわけだ。
 面白いのは、大学の教科書の値付け。オンデマンドになっても価格はそれほど変わらないのだそうだ。
「なぜかというと、類書はいくつかあるのです。自分の著作がある先生はそれを教科書に指定するでしょうが、そうでなければ類書の中から選択するわけです。そうすると、同じなら安い物にしようと考えるのが普通ですから、オンデマンドだからといってあまり高い値段を付けられないのです。
 これに対して人文系の○○先生が書いた『○○』は、それしかないので、2万円しようと3万円しようと、買う人は買う。人と言っても、個人はあまり買いません。図書館などが予算を付けて買う、そういうタイプの本が多い状況です」(古谷氏)
「我々製造者サイドは数字を積み上げて請求しているだけで、値付けでどれだけ利益を計上するか、というのは、出版社の戦略次第です」(鵜澤氏)
 次回は流通コストについて考えた後、いよいよ電子書籍に斬り込んでいきたい。


渡辺麻実

Scroll To Top