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ケータイ進化論 総務省 総合通信基盤局 電波部長 鈴木茂樹氏

日本のケータイおさらい

 家電、自動車産業とは違い、これまで日本はケータイ端末で世界を制覇したことは一度もありません。ただ第1世代のアナログは、実は日本が世界中に売っていたんですね。特にイギリス、ドイツ、フランスといった欧州の国々で日本のメーカーが現地生産していました。しかし第2世代のデジタルのときに、欧州がGSMという通信規格を採用し、別規格を開発していた日本のメーカーにとって技術や特許料の問題で不利であったこと、また日本国内のマーケットが大きく成長していたことから開発・製造を国内にシフトしました。日本市場で第2世代のケータイを高機能に磨きあげ、高速無線回線である第3世代でコンテンツビジネスの知見を蓄え、世界が求めているケータイ端末・サービスとして再デビューのタイミングをはかっていたところに、突如スマートフォンが現れ、いいとこ取りをされてしまいました。あれよあれよという間にiPhoneが巷にあふれてきましたが、ケータイの世界はこのスピードで動きますので驚くことではありません。少し前まで不動のトップに君臨していたノキアがアップルとサムスンなどの攻勢を受け急激にシェアを落としたり、無線の老舗であるモトローラ・モビリティがグーグルに買収されたりと、栄枯盛衰は常です。時間軸が他の業界よりは少し短いかもしれませんが。

日本メーカーの浮上の鍵

 日本のケータイが国際競争力を失っていったのはメーカーが「通信機器屋さん」のスタンスで長くとどまっていたことも一つの要因かと思います。自身のブランドで直接販売するのではなく、携帯事業者の仕様に基づき端末を「納入」する感覚です。ユーザの声よりも事業者側の都合を優先するため、使ってみたい製品よりも先端的技術の調和としての製品が市場に流通しました。国内市場だけをターゲットとしているのであればそれで良かったのかもしれませんが、グローバルでの嗜好性は国により千差万別で、数か月サイクルで流行が変わります。メーカーは開発費負担や販促費などの手厚いサポートで携帯事業者から守られている半面、移ろいやすいユーザの心を読み取るアンテナの感度が鈍ってきたのかもしれません。
 ただ、スマートフォンの隆盛によってその関係は大きくシフトしました。日本の携帯事業者向け開発も引き続き大きなビジネスですが、日本市場だけでは「食べていけない」ことをメーカーも認識しています。「世界中にモノを売る」という、シンプルですが以前の電機業界の原点に立ち返り始めました。これは大きな一歩だと思います。国内11社と乱立していた端末メーカーも5社ほどに集約されました。世界市場への進撃体制を整えつつあると思います。
 今後はダブルスタンダードも必要となってきます。品質は考慮しつつも、自分たちよりも豊かな欧米のような国にモノを売るという今までのようなビジネスモデルでは市場は限られています。インドの自動車は30万円くらい、アフリカの携帯端末価格は2000~3000円くらいがスイートスポットです。かつて日本は「安かろう」で欧米市場を大きく開拓しました。同じマインドで今、アジア、南米、アフリカで求められているのを世界中の最適地で「アセンブル(組み立てる)」すればいいのだと思います。日本製品が最高であるとうぬぼれていては、燃費の悪い左ハンドルの自動車を売りつけてきた、あの時代のアメリカと変わりません。

総務省も側面支援

 あまり声高に言うつもりもないのですが、総務省もちゃんと仕事しています(笑)。新興国、開発途上国では今もテレビが娯楽の王様です。世界シェアでみると韓国や中国、台湾のテレビメーカーに食い込まれていますが、南米のほとんどの国は日本の地デジ方式を採用しているので日本メーカーのシェアも健闘しています。もちろん、ワンセグも導入されているので日本のケータイ、スマートフォンとの親和性も抜群のはずです。南米4億人の市場のみならず、徐々に所得が向上しているアフリカ9億人市場、アジア40億人も視野に入れています。アフリカではアンゴラが日本方式の採用を推進することを合意していますし、アジアではフィリピンが採用を決めています。常に企業ロゴを目にする「お茶の間」のテレビブランドは各国で絶大な信頼を得ていますので、テレビを手掛ける日本メーカーのケータイ、スマートフォンにも良い波及効果があるはずです。

ニッポンに未来あり

 私は日本のケータイをそんなに悲観していないんです。大きな流れの中で少し縮んでいるだけで、そのうち大きくジャンプします。一世を風靡しているiPhoneも日本のiモードを徹底的に研究して、あとはユーザインターフェースまわりのソフト部分を化粧したものと言えます。日本はもう一度ここで学んで全力投球すればチャンスはあると思います。ただし、横並びではなくチャンスをものにできるのは知恵を出した一部の者のみでしょう。かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」ともてはやされ天狗になった世代では変えられないことも、しがらみのない若い人であれば変えられるはずです。端末メーカーが目立つ世界ではありますが、コンテンツ、アプリ、通信回線、電子決済など、ビジネスや技術の萌芽はあちらこちらで見られます。実際にSNSやEコマースなどソフトコンテンツ系の日本の若い企業がどんどん世界に羽ばたいています。アジアや南米、アフリカで、力を蓄えた次の世代のニッポン企業が世界を席巻する日がそう遠くない未来やってくると信じています。


鈴木茂樹(すずきしげき)
総務省東海総合通信局長、独立行政法人情報通信研究機構理事を経て、現職。東京大学農学部卒。神奈川県出身

聞き手、文:本丸達也、羽田祥子(編集部)

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