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【経営学エッセンシャル】 そこで思考停止せずにもう一歩!

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イノベーション考

 筆者のライフワークであるイノベーションの観点から、この問題を考えてみましょう。日本の家電のシンボルとしてSONYを採り上げます。以下、「イノベーションのジレンマ」で有名なクリステンセン博士らの指摘4)ですが、意外なようで、言われてみればなるほど、という感じもしますよ。
1979年以降(筆者注:ウォークマン以降)、SONYはたったの一つたりとも、このジャンルでの新しい成長が見込める市場を築き上げたわけではない。その歴史の最初の30年間のダイナミックな成長へと導いた戦略とは明らかに異なった戦略を採ってきた。たとえSONYが現在、技術的に革新的な商品、プレイステーションやノートPCのVAIOシリーズと言ったものを供給しているとは言っても、それらは持続的イノベーションであって、市場創生タイプの破壊的イノベーションではないのである(Christensen、et.al. 2001、筆者翻訳)。
無題 イノベーションのタイプを、シュンペーター5)とクリステンセン6)に従い、図1のように分類しました。シュンペーターが唱えた創造的破壊とは、
「非効率な古いものは効率的な新しいものによって駆逐されていくことで経済発展する」という、機能も性能も優れたモノが新しい市場をつくる「革新」に相当します。
 クリステンセンの主張のうち、まず持続的イノベーションとは、機能・性能は優れているが、市場としては既存のものを置き換えるモノのことを指します。意外な例を挙げるなら、DVDはVTRに対してまったく新しい技術ながら、市場を新しく創造はしなかったと言ってよいでしょう。一方破壊的イノベーションとは、技術的には既存のモノより劣るかもしれないが、下位に新しい市場を築きつつ攻め上がってくるモノのことです。ウォークマンなどがその典型で、録音機能もスピーカーもないテープレコーダーが、歩きながら音楽を聴くための機器という新しい市場を創造したと言えます。
 以上の理解のもと、前項のSONYに対する言説は次のように読み替えることができるでしょう。初期のSONYは、創造的破壊(家庭用VTR)や破壊的イノベーション(トランジスタラジオ、ウォークマンなど)によって市場を創造してきました。しかし近年は、いくら技術が進んでいたとしても、市場を持続するもの(VAIO、、プレイステーション)か、創造的破壊に失敗したか(犬型ロボットなど)です。おそらくこれは日本の家電の象徴でしょう。その間、Appleは創造的破壊あるいは破壊的イノベーションを続けてきています。

総括

 最後に、図1を丹念に見て、イノベーションの前提や幻想を読み取っていきましょう。左半分の、市場を破壊する営みでは、前提①:創造的破壊と破壊的イノベーションを実行できる企業はその市場への新規参入者と言えそうです。たとえばAppleのiPodやiPhone、SONYのVTRやウォークマンなど。これは大企業が守りに入っているというよりは、特に破壊的イノベーションの場合など、クリステンセン(1997)が指摘するように、合理的に考えれば考えるほど、先行企業は(実は当の新規参入企業でさえ)、「劣った」製品の将来性を見積もることができません。
 もうひとつ見逃されがちなのは、前提②:破壊的イノベーションを実行できる企業は十分小さくなければならないのではないでしょうか。大企業では、破壊的イノベーションがはじめに掴む小さな成功ではオーバーヘッドを賄えません。
 以上のように考えてくると、上で述べたMMQには、次のような幻想が背景にありそうです。幻想①:創造的破壊は誰もが狙える。しかしそれは、過去のSONYやAppleのように選ばれしモノだけに許されるものかもしれません。幻想②:イノベーションのジレンマは、大企業病と同様理詰めに克服できる。それはクリステンセンが唱えた概念とは根本的に異なり、たとえ賢者でも克服できないからこそジレンマなのです。幻想③:市場で受け入れられる商品を出せば企業にとっては成功である。これについては会社規模ごとに収益とオーバーヘッドとを比較すれば容易に成功ラインを描けるはずです。近年の例なら、ダイソンやアイリスオーヤマのヒット商品に対するパナソニックやSONYのシミュレーションなどが有効でしょう。
 過去の日本企業が関わってきたイノベーションを過大評価でも過少評価でもなく総括し、次の一手を冷静に考察することが復権への近道であると思っています。


参考文献
1)石井淳蔵「競争的価値創発プロセス概念とケース記述の手法~競争プロセス、デザイン、そして身体性~」神戸大学大学院経営学研究科ディスカッションペーパー2006・48、2006年.
2)朝日新聞2014年1月21日付「リレーおぴにおん」または下記WEBhttp://digital.asahi.com/articles/DA3S10935803.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S10935803
3)大西康之(2014)「会社が消えた日」、日経BP社。
4)Christensen, Clayton M., Stuart L. Hart & Thomas Craig“The Great Disruption,” Foreign Affairs, March-April 2001,pp.80-95, 2001.
5)シュンペーター(1912)『経済発展の理論』、塩野谷祐一/中山伊知郎/東畑精一訳、岩波文庫(上・下)
6)Christensen, Clayton M., The Innovator’s Dilemma: whennew technologies cause great firms to fail, Harvard BusinessSchool Press, 1997(伊豆原弓訳『イノベーションのジレンマ: 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社、2001年).

前川 佳一(まえがわ・よしかず)
京都大学経営管理大学院特定准教授。1982年京都大学工学部冶金学科卒業。1995年企業派遣によりボストン大学経営大学院修了(MBA)。2007年神戸大学大学院経営学研究科修了:博士(経営学)。2008年3月まで、総合家電メーカにてデジタル機器の技術・企画に従事。2008年4月より現職。大阪市生まれ。

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