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【経営学エッセンシャル】 そこで思考停止せずにもう一歩!

【経営学エッセンシャル】 そこで思考停止せずにもう一歩!

筆者が考えるMMQの例

 さてここでは、被害妄想というフィルターも含め筆者がMMQではないかと思う例を挙げます。まずはあるブログから。
日本の経営陣の方々にお願いしたいのは、自分の頭で考えて、戦略を立てて下さい。これまでのように、守りの姿勢では淘汰されるだけです。
 はい、仰せのとおりです。でも、なぜ日本の経営者は10年あるいは20年も「守りの姿勢」でいるんでしょう? いくら日本の企業が保守的だからと言って、若いころからまったく大局的な思考ができずに、自らの保身だけを考えてきた人が経営者に登りつめるでしょうか? そんな例もなくはないでしょうが、日本の経営者の多くは、聡明で人格も立派な方であると筆者は信じています。そんな方たちをしても、周りから見て「守りの姿勢」を取らせるものは何か、ということに思いを馳せなければ、MMQで終わってしまっていると言わざるを得ないと思います。次はある経営学者の講演会でのご発言です。
…A社が研究開発を増強すれば、他社も同じように対抗することは経営戦略の観点からも自明である。せっかくのわが国トップクラスの優秀な人材を、わずかばかりの性能向上やコストダウンに費やすのは国家的にも無駄、もっと価値を生む仕事をさせなければ…
 ごもっともですが、では「もっと価値を生む仕事」とはどの時点で判断できるのでしょうか? たとえばですがパナソニックのテレビ事業、全世界で1万人規模の人が携わっている事業に代えて、と考えてみてください。もしもスマホなら1万人とその家族の生活を守れると判断できるタイミングというのは存在するのでしょうか? またそれへの移行、ここでは雇用を守りつつという前提を置かせていただきますが、それはどのように実現するのでしょう? 万が一、不要になった人は自由に切り捨てて、必要な人はいくらでも新しく雇えるという前提なら、筆者がとやかく言える世界の話ではありません。最後の例は、ある全国紙のコラムでの記述の一部です。
○○(ある社名)は高機能ではなく、顧客のニーズをこまやかに反映させた製品を提供して急成長した。(中略)××(別の社名)の業績悪化は企業イズムが見えず、機能の主張ばかりになったからではないか。圧倒的なオンリーワンの機能がなければ価格競争に陥る…
 もうその通りとしか言いようがないのですが、最後のコモディティ化の話なんて、このご時世、高校生でも知っていますよね。それを大企業の経営者や社員が知らないという前提なんでしょうか?

筆者が考えるMMQではない例

 では逆に、MMQでない内部者の視点にはどのようなものがあるでしょうか。はじめの例は、高級オーディオメーカー、アキュフェーズの斎藤重正会長に関する新聞記事です2)。
…40年間掲げてきたのは、会社を大きくしない、たくさん作ろうとしない、社員を増やさない、ということです。(中略)年に5千台前後を作り、約21億円を売り、社員は七十数人。おかげで世界的にも知られるブランドに成長しました。(中略)一番安いのは税抜き29万円のアンプ、一番高いのは2台で250万円のモノラルアンプです。売れ筋の、安い価格帯には行きません…
 もうひとつの例は、大西(2014)のエピローグから3)。
アイリス(オーヤマ)が作るのはLED照明、加湿器、扇風機、電子レンジ、高圧洗浄機といった軽家電である。(中略)家電大手も軽家電を手掛けているが、それを設計するのは年収1000万円超のエリート技術者だ。営業や家電部門を含めれば何千人という大所帯になる。これだけのオーバーヘッド・コストをかけて1個数百円のLED照明や数千円の扇風機を作っていたのでは儲かるはずがない。アイリスのコスト構造の方がはるかに適正である…(大西、2014、p.321)
 これらから言えそうなのは、一度成功して会社が大きく立派になってしまうと、もう元には戻れない。
「守りの姿勢」から脱却し、趣味性の高い商品や、「顧客のニーズをこまやかに反映させた製品」は、もうつくって売っても会社全体としては幸せになれない、ということでしょうか。


参考文献
1)石井淳蔵「競争的価値創発プロセス概念とケース記述の手法~競争プロセス、デザイン、そして身体性~」神戸大学大学院経営学研究科ディスカッションペーパー2006・48、2006年.
2)朝日新聞2014年1月21日付「リレーおぴにおん」または下記WEBhttp://digital.asahi.com/articles/DA3S10935803.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S10935803
3)大西康之(2014)「会社が消えた日」、日経BP社。
4)Christensen, Clayton M., Stuart L. Hart & Thomas Craig“The Great Disruption,” Foreign Affairs, March-April 2001,pp.80-95, 2001.
5)シュンペーター(1912)『経済発展の理論』、塩野谷祐一/中山伊知郎/東畑精一訳、岩波文庫(上・下)
6)Christensen, Clayton M., The Innovator’s Dilemma: whennew technologies cause great firms to fail, Harvard BusinessSchool Press, 1997(伊豆原弓訳『イノベーションのジレンマ: 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社、2001年).

前川 佳一(まえがわ・よしかず)
京都大学経営管理大学院特定准教授。1982年京都大学工学部冶金学科卒業。1995年企業派遣によりボストン大学経営大学院修了(MBA)。2007年神戸大学大学院経営学研究科修了:博士(経営学)。2008年3月まで、総合家電メーカにてデジタル機器の技術・企画に従事。2008年4月より現職。大阪市生まれ。

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