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【AS TIME GOES BY】 コンパクトカンパニー

【AS TIME GOES BY】 コンパクトカンパニー

 山紫水明。
 清らかな日本の原風景が残る安曇野の地に7月1日、VAIOが新生した。
 熾烈な生存競争で苦闘を続けるソニーからPC部門が分離され、グローバルで1000人を超える陣容から240人のコンパクトな会社へ変貌した。ソニー資本は5%にすぎず、今後はVAIOブランド一本で戦わなければならない。
 1997年、バイオレット色のPC、VAIO505の鮮烈なデビューは私の脳裏に焼き付いている。このころは「自由で、しがらみのない」プロダクト開発ができていたのであろう。間違いなく先駆者であり、冒険者であった。人々の記憶にVAIO(SONY)への想いや敬意が漂っているうちにVAIO社はディープインパクトを与えなければならない。残された時間は少ない。本年12月、あるいは2015年3月に新生VAIOの第一印象を世に伝え、加えて消費税(10%)の駆け込み特需が見込まれる2015年10月より前に次のラインアップを披露することがホップ、ステップと事業を加速させるのに不可欠なタイミングだ。出荷量がソニー時代の年間数百万台から10分の1程度に激減するため、仕入れ単価が大きく変動し、原価コントロールは至難の業であろうが、前に進むしかない。
 新生VAIOの掲げる哲学は「本質の追求」と「制約に縛られないこと」。かつてソニーの強みではあったはずの崇高な理念ではあるが、規模を追わざるをえない宿命からソニー自身が失いつつあるものだ。景気と気分が浮揚しつつある日本においても、年間所得が1万ドルを超える中間層が急拡大しつつあるアジアにおいても、フィロソフィーに基づいた高いブランド力と品質への信頼があれば、マーケットは自ずと手中にできる。
 東京、大阪から安曇野までは公共交通機関利用で4時間以上かかる。「隔絶」とは言い過ぎではあるが、その俗界との距離を十分に生かして、安曇野の感性を纏った、凛として芯のあるプロダクトを世に送り出してほしい。オフィスやクリエイティブ作業での生産性・効率性を考えれば、この先10年はPCに分がある。
 プロダクトのコンパクト化は一世を風靡したソニーの真骨頂であった。その遺伝子が宿る「VAIO株式会社」は自社組織そのものをコンパクトで美しいものに磨き上げてくれることだろう。グローバルで戦える潜在力を持ち、安曇野にて経営・開発・製造を一体化し、心安らぐ環境でアジア市場に向けたアイディアを練っていれば、コモディティではないPCとしての活路が見えてくるはずだ。もし、これほどまでにコンパクトにした会社がマーケットで通用しなければ、日本におけるコンスーマ(ソニー式表記)プロダクトメーカの終焉を意味する。
 紫は、高貴の証。やんごとなきPCを作り上げることができるのか。コンパクトかつ洗練されたVAIO社、その成否が次代の日本企業の試金石となる。ASEANの街角でVAIOと再会する日を心待ちにしている。


Photo:安曇野の夜明け写真(アフロ)

文|本丸達也(発行人)

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