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2020年の開花予想

AS TIME GOES BY

2020年の開花予想

 サクラサク。

 正座したうえでレタックスの封を切る。待ち望んだ、そんな風流なコトバは見当たらなく、一瞬冷や汗をかいたが、合格通知書と題した淡々とした文面で胸を撫で下ろす。遠い記憶にあるその数秒間のセレモニーは、今やインターネットに代わり、アクセスした途端、瞬時に判明する。
 合否結果が表示されるコンマ何秒という瞬間にどのような思いを巡らせるのか想像がつきにくいが、ボーナス査定の結果をPDFで開く瞬間に近いものなのかもしれない。そして、過剰な期待は泡と消えゆく……。

 ここ数か月、大学入試制度が大きく変わるというニュースが流れている。1990年からながらく続いたセンター試験に替わり、達成度テスト(仮称)という基礎と発展の2段階に分けた試験を導入する予定だ。5、6年後に実施とのことなので、2020年前後、即ち、現在小学校高学年生が受ける大学入試から対象となる。達成度テストの特徴は、1点刻みではなく幅をもたせたレベル別判定になること、複数回の受験機会があること、問題は知識偏重からの脱却を目指すこと、外国語などで外部検定試験を活用することなどである。現時点では論点整理の段階のため紆余曲折はあろうが、一定基準の教養を前提に、魅力的なバックグラウンドをもった多様な人材を大学に受け入れるという方向性は間違いではないと思う。

 現在、明らかに問題であるのは所得による教育格差だ。東京大学入学者の親の所得が高いことは、各種データにより裏付けられている。その登竜門となる私立中学校、高等学校も同様の傾向がある。学校外の教育費(塾や通信教材等)にどれだけ投入できるか如何で、進学の道筋がおおよそ定まってしまうのは、教育の機会均等という国是を否定しかねない。
導入予定の達成度テストが、重箱の隅をつついたものでなく、受験者の考え抜く応用力で構成されているのであれば、受験生は、膨大な問題を解くことで反射神経を鍛えるという修行僧のような日々から解放される。塾や予備校で学ぶことが必須でなくなれば、所得に起因する問題も緩和される。
 高等学校教育部会(文部科学省)で審議されている「社会の要請に応える人材養成機関としての機能の充実」というテーマも重要だ。企業活動において人材として期待されるのは、前例がない中で如何に新たな技術やサービスを生み出せるか、という点だ。知識面において中国、韓国、シンガポールの大学出身者は相当な力量を見せる。また、大抵のことはグーグル検索で片が付く。知識偏重の同質性から、自己発信力や解決力を持つ異質性重視にシフトできるのか、新しい教育(受験)システムには期待がかかる。自戒を込めて言えば、団塊ジュニア世代の私は、受験装置から生まれた量産型プロダクトに過ぎない。

 アップル社が「CarPlay」と称する車内でiPhoneを用いて快適に過ごすためのソフトウェア群を投入し、日本の自動車メーカー各社と連携した。今は入口のインフォテイメント(情報とエンタテイメント)分野でお茶を濁しているが、早晩、自動車そのもののコントロールを狙っている。自動車という日本最大の産業が、いとも簡単に翻弄されている。庇(iPhoneインターフェース)を貸して、母屋(自動車)を取られる、典型的な事例となりそうだ。ブランド力の弱い自動車メーカーはiPhoneへの接続親和性の良し悪しだけで売れ行きを左右されるかもしれない。レガシー連携を意識してデザイン的にも不格好な2DIN規格のカーナビ・オーディオを死守している日本のメーカーに未来はない。日本の組織において、斬新な発想を持つ人がマジョリティにならない限り、今後も似たようなケースは続くだろう。異質性と多様性、その人材を入試改革から始まる新制度が生み出せるかどうか、時間的余裕は最早ない。

 話は冒頭の桜に戻る。ソメイヨシノは実はクローンである。種からは育たず、接ぎ木で成長する。その同質性ゆえに、一斉に花開き、一斉に散る。同質性が持つ美しさである反面、病気や害虫、環境変化に弱い。その寿命は通常60年ほどだ。
 戦後から間もなく、70年。高度成長期の量産型、もしくはその改良型のクローンの時代は終焉しつつある。2020年には新しい万能世代が日本中で咲き誇っていることだろう。


文|本丸達也(発行人)

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