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有機野菜+都会の友人知人+サービス業= 持続可能な直販農家

有機野菜+都会の友人知人+サービス業= 持続可能な直販農家

 この初期設定の有利さに甘んじているわけではない。GoldenGreenでは、野菜の生産は耕平さんが統括し、出荷と顧客管理は季代さんが主に担当。作業自体はお互いに助け合うが、主体的に管轄する分野を適性に応じて大きく2つに分けているのだ。生産に追われがちな農家において、顧客管理とサービスを怠らない意図も込められている。
 ダイニングバーの店長時代も顧客に直筆の手紙をよく書いていたという季代さん。200件を超える顧客の家族構成や食の好みをほぼ暗記しており、週1~月1回ペースで送る野菜はほぼオーダーメイドで詰め合わせている。例えば、あの家庭の子どもはニンジンが苦手なのでニンジンは減らして好物のジャガイモを多めに入れてあげる、などだ。
 発送した野菜入りの段ボールには、それぞれの保存法とおすすめレシピの一覧表も添付。農場の近況を知らせる耕平さんのエッセイと季代さんからの手書きメッセージも入れる。季代さんは、一度も顔を合わせたことのない顧客に対しては、特に念を入れたメッセージを書くようにしていると明かす。
 さらに、2人の自宅は建築当初から2階をゲストルームとして設定。リビングと寝室が分かれていて、トイレや洗面所も付いたスイートルームのような空間だ。顧客のうち希望者はここに招かれ、2人のおもてなしを受けながら農業体験を楽しむことができる。当然、体験者はGoldenGreenとその商品へのロイヤリティが急上昇する。
「新規就農者には『自然や農作業、野菜が大好き!』という人が多いのですが、僕たちは畑よりもお客さんのほうを向いています。農業ではなくサービス業に就いているつもりです。お客さんに喜んでもらえることが何より嬉しい。直販型でなければ、とっくに挫折していたと思います」

 次に、直販農家としての「守り」の側面を見る。特筆すべきは、在賀夫妻は無借金で長野県での新生活をスタートさせたことだ。
 土地取得や自宅および作業場建設の費用は別にして、トラクターの購入など農家としての初期費用に600万円をかけた。貯金に加え、修業時代も含めた2年半は格安の町営アパート暮らしで節約し、農機具や住宅の購入時には出費を惜しまなかった。
「農業を始めるなら、開業前に最低でも500万円ぐらいは貯めておくべきです。100万円程度の貯金では、軌道に乗らない段階で生活費が尽きてしまいます」
 農業をしながら初期費用を作り出すのは難しい、と在賀さんは言い切る。お金が足りずにアルバイトをすると、肝心の農作業が疎かになりかねず、顧客の開拓・維持もしにくくなる。だからお金がますます減っていくという悪循環に陥ってしまう。新規就農者こそお金という余裕が必要なのだ。
 初期投資が済んで事業が軌道に乗れば、消費の機会が多い都会暮らしに比べると支出は激減する。在賀夫妻の生活費は月々20万円程度。
「うちの周辺には居酒屋どころかコンビニすらありません。犬を飼い始めてからは旅行にも行きにくくなりました。たまの贅沢といえば、ネットでワインを買うぐらいかな」
 サラリーマン時代に比べれば収入は減った。しかし、それ以上に支出が減り、なおかつ生活の満足度は大幅に上昇している。先述したように、外気はマイナス20℃にもなる土地でも温かく過ごしやすい住宅があるからだ。畑や作業小屋への通勤時間はゼロに等しい。
 夫婦で経営している自営業の場合、最大のリスクは深刻な夫婦喧嘩かもしれない。プライベートと仕事の境目がなく、農家のような地方暮らしの場合はお互いに逃げ場がない。仕事上の不満が夫婦の危機につながりかねない。
 生産と販売で役割分担をしている在賀夫妻の場合は、どちらかに負担がかかり過ぎず尊敬もし合える基盤が整っている。現在は、賢くて気立ての良いラブラドール・レトリバーの愛犬もいて、農場の平和が保たれている。

 食糧危機や環境破壊が指摘される時代に、脱サラをして有機農業に活路を見出す人は少なくない。ただし、生活を支える本業として成り立たせるには、在賀夫婦のような冷静で創意工夫に満ちた計画と実行が必要なのだ。


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在賀耕平(ありがこうへい)

1975年生まれ。慶應義塾大学卒。人材ビジネスのベンチャー企業およびソフトウェア関連のベンチャー企業を経て、2009年3月に直販農家「GoldenGreen」を開業。
農業を選んだ理由は、「20年後に最も食っていける職業だと思ったから」

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