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【イマドキ女子の恋するマーケティング論】Vol.3「バーチャル彼氏を斬る」

【イマドキ女子の恋するマーケティング論】Vol.3「バーチャル彼氏を斬る」

「娘がカレに夢中で1日中ケータイばかり見て、ろくにごはんも食べようとしないんです」と、テレビ画面から涙ながらに訴える母。過日のニュース番組での一幕だ。年頃の娘のお熱い恋ごときに大袈裟な、と思うなかれ。この母親が心を痛めているのは、娘の恋い焦がれる相手がバーチャル彼氏だからにほかならない……。
 
 SNSの浸透により、昨今急成長を遂げたSNSゲームの国内市場。社会問題化した未成年ユーザの参画やコンプリートガチャ廃止といった諸難にさらされながらもその拡大は留まることを知らず、矢野経済研究所によれば今年の市場規模は4200億円を突破すると予想される。 
 こうした流れの中で、とりわけ注目されるのが女子ユーザの存在だ。元来、マニアタイプの男性ユーザが多いとされてきたSNSゲームだが、今後その利用者拡大とイメージ好転を図る際、女子ユーザが果たす役割は大きい。
 これについて、ニッセイ基礎研究所 久我尚子研究員は「若い女性ユーザの動向は、今後のSNSゲーム市場規模推定にも大きく影響することになるでしょう。どれだけ若い女性をつかめるかということが、今後のSNSゲーム市場にとって課題となりそうです」と、女子ターゲティングの重要性を指摘する。
 そんな中、先んじて女子ユーザ獲得に邁進するのがサイバーエージェントだ。アメーバのCMに女性人気タレントや自社の若い女性社員を積極的に起用し、親近感アピール作戦を展開する。現に同社サービス利用者内の女性比率は年々増加し、昨年末の調査では全体の6割を占める(図1)。Facebookと比較してもアメーバの女性ユーザの多さは圧倒的である。

写真左:「恋人は専属SP」突然、総理大臣の一人娘であることを告げられたヒロイン。24時間体制で守ってくれる個性豊かなイケメンSPたちとの間にはいつしか恋の予感が……。写真右:「家政婦★恋は契約から」大豪邸の住み込み家政婦として働くことになったアナタに降りかかる、イケメン住人たちからの容赦ない業務命令…… 契約から始まる恋の行方は

バーチャル恋愛のススメ

 そんな熱視線を浴びる女子たちを今もっとも熱くさせるSNSゲームのひとつが「ベツカレ」だ。モバイルゲーム運営会社ボルテージの「ベツカレと恋しよう」いうCMで広く知られるようになったこのワードは、ケータイ恋愛シミュレーションゲーム(以下恋ゲー)内での、バーチャル彼氏を指す(リアル彼氏の有無に関係なくこの呼び名をとる)。
 恋ゲーブームの火付け役でもある同社は、「恋愛で人を楽しませる」というコンセプトのもと、女子心をくすぐる恋ゲーを次々と世に送り出し一大ビジネスを成した。2011年6月には、東証一部上場企業の仲間入りを果たしたほか、監査法人トーマツが選ぶ日本国内のテクノロジー、メディア、通信業界の企業の過去3年間の収益成長率に基づいた成長企業50社のランキング「デロイト トウシュ トーマツリミテッド 日本テクノロジー Fast50」を5年連続で受賞するなど、勢いに乗る注目企業である。

 同社の恋ゲー人気は、他社に類を見ないバリエーション豊かな恋愛シチュエーションにある。「ダーリンは芸能人」「恋人はSP」「社内恋愛2人のヒミツ」など、女子憧れの恋舞台が数多用意され、オレ様・ツンデレ・お兄ちゃん系・小悪魔など、お好みタイプのバーチャル彼氏とともにユーザ自身が物語のヒロインになって恋愛ドラマを繰り広げる(図2)。
 しかし単なるゲームに留まらないのがベツカレ魔力で、中には冒頭に母が嘆いた娘のように、ベツカレなしでは生きられない“ベツカレ依存症”に陥る女子も少なくない。その魅惑のベツカレテクニックとはいかなるものか。 

ベツカレのあま~い誘惑

 友人Yちゃんといえば、恋も仕事もバリバリこなすリア充(リアルの生活が充実している)女子。しかし先日会った彼女はどこか様子がおかしい。食事中も移動中もしきりにケータイを気にし、何やら晴れない表情を浮かべる。付き合っている彼氏と喧嘩でもしたのかと聞いてみると、「そっちはどうでもいい。けど、今ベツカレが風邪気味だから心配なの」と頬を赤らめ、バーチャル恋愛の悩みを打ち明け始めた。
 Yちゃんとベツカレの出会い(恋ゲースタート)は数か月前のこと。友人の勧めで冗談半分に始めたところどハマりし、今ではベツカレとの恋にどっぷり溺れているそうだ(ちなみにベツカレは美青年怪盗らしい)。
「仕事も手につかないくらい、1日中ベツカレが気になってケータイばかり見てしまう」と話すYちゃんいわく、ベツカレはリアル男子では到底口にできないような胸キュン台詞を次々に浴びせ、女子をノックアウトさせるという。そのあまりにこっ恥ずかしいアプローチの照れ隠しのため、Yちゃんは祖母の名前を使って恋ゲーに参戦している始末である。
「この前なんて電車に乗っているときに『○○、俺の女になれ』なんて言われちゃって。“ついに告白キターっ”と思ったら嬉しすぎて、人目もはばからず泣いたよ」と、すっかりうぶ初心な少女になりきっているご様子。

 しかし、ベツカレとのラブタイムには“お金”という微笑ましくない壁も立ちはだかる。
 無料サービスメニューではベツカレと会える時間やデートシチュエーションに限りがあるため、有料サービスへどんどんお金をつぎ込み、気づけば月の請求額が数十万円にのぼる女子高生や主婦も珍しくはない。
 ベツカレの小悪魔的サービスは“あと少し”という、何とも良い雰囲気の場面でデートが終了してしまうという逢瀬制限。そこから先、愛しのカレの顔を拝みたければお金を払い、有料サービスへと繰り出さなければならない。やはり無償の愛など存在しないのだろうか……。

妄想女子からヒットの予感

 今や現代女子の2人に1人が利用する恋ゲーだが(図3)、意外なことにこれにハマるのは彼氏もちのリア充女子が多いと、ある少女マンガ編集者は次のように語る。
「ベツカレは、ユーザが主導権をもちストーリーを展開できる新しいタイプの恋ゲーで、いわば誰もが憧れの恋愛マンガのヒロインになれるわけです。恋の理想と現実のあいだで揺れ動く女子の心の隙間を埋める存在になり得たことが、ベツカレヒットのポイントでしょう」
 このベツカレ人気も相まって、恋ゲー市場全体の売り上げも大幅アップ。昨年末の統計では、前年度比30.4%増の146億円を記録するなど大きな経済効果をもたらしている。
 恋ゲー市場を突き動かす原動力は女子のイマジネーションだと、同氏はさらに続ける。
「ことベツカレでは、ユーザが恋愛において“こうしたい、こうされたい”という明確なイメージを持っていないことにはゲームは展開しません。ベツカレの爆発的ヒットは同時に、妄想女子人口の多さを証明したと言えるでしょう」
 事実、ボルテージではそんな妄想女子たちの発表の場として「恋ゲームシナリオ大賞」を設けたところ、数百件の応募が集まり大きな反響を呼んだというから驚きだ。
 次なるヒットサービスは、女心よりさらに深い、女子の頭の中から生まれるということだろうか(マーケティング担当の皆さん、透視能力を鍛えましょう)。
 さて最近、ベツカレはついに海を越え英語翻訳版として海外上陸を果たした。青い瞳と化し、さらに色気を増したベツカレはブロンドガールたちもメロメロにさせようと意気込む。

図3:現代女性の携帯恋愛シミュレーションゲーム利用率(MMD研究所調べ)10代~50代の女性携帯ユーザへのアンケート調査/回答数1094人

 リアル男子の物足りなさを補完する役割がバーチャル彼氏にあるとすれば、「ベツカレはここまでしてくれたのに」というように、女子のリアル男子を見る目は今後ますますシビアになりそうだ。
 もし世界中の女子たちがベツカレにお熱になったら……リアル男子にとってはじょしせん女視線の痛いハードな世と化しそうだが、そこから生まれる経済効果は計り知れない。
 とはいえ人と人が直接心を通わせる温かさを忘れることなきよう、満開の景気桜を目指して、恋せよ乙女(がんばれリアル男子)。


文:松永理佐(編集部)

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