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【プレパラート】少子化と子どもの高等教育マーケット

【図1】(注意1)18歳人口は3年前の中学校卒業(見込)者数を適用。(注意2)大学進学者数及び短大進学者数は、18歳人口に大学進学率あるいは短大進学率を乗じて算出。進学率はいずれも過年度高卒者等も含むもの。(注意3)大学・短大進学率は過年度高卒者等も含むもの。(資料)文部科学省「平成23年度学校基本調査」から、筆者作成

 厚生労働省によると、2011年の合計特殊出生率(※1)は前年と変わらずに1.39であった(※2)。合計特殊出生率は、2005年に過去最低の1.26に落ち込んだ後、翌2006年には1.32と上向きに転じ、その後、微増、横ばいで推移している。この背景には、晩婚化による30代の出産の増加や20代の出生率の下げ止まりなどがある。そのほか、人口の多い団塊ジュニア世代の出産による影響も大きいが、当該世代が30代後半に入り、それも落ち着いてきたようだ。
 なお、2011年の合計特殊出生率は横ばいだったが、出生数は過去最少であった。これは母親の多くを占める、現在の20代~30代前半の世代は、第二次ベビーブーム以降、少子化が進行した世代であり、母親の母数が小さいことによる。昨今の若年層における未婚化の進行や雇用情勢の厳しさをかんがみると、今後しばらくは少子化の解消はのぞみにくい。

【図2】(注意1)大学・短大進学率は過年度高卒者等も含むもの。(資料)文部科学省「平成23年度学校基本調査」から、筆者作成

 ところで、子どもの数が減少している一方、進学率の上昇によって大学・短大の進学者数は一昔前より増えている(図1)。1980年と2011年を比べると、18歳人口が8割弱に減少しているにも関わらず、大学・短大進学者数は1.2倍に増えている。人口の多寡に影響を受けやすい多くの産業では、少子高齢化による人口減少により、すでにマーケット規模が縮小しはじめている。しかし、大学などの高等教育マーケットでは、現在のところ、大きな影響は見られないようだ。
 また、男女別に大学および短大の進学率をみると、男性では2011年の進学率は前年より若干低下しているが、女性では上昇が続いている(図2)。女性では、1995年を境に大学進学率が短大進学率を上回っている。1995年はマイクロソフト社のWindows95が発売されてオフィスのIT化も進み、従来、女性を中心とした事務職が担当していた業務がITに代替され始めた時期である。また、1999年には男女雇用機会均等法が改正され、「看護婦」を「看護士」と表現するなど、性別的に中立な表現で職種を募集することも定められた。職業上の性差が薄まると、職に就く前段階である高等教育の場の選択にも影響を与える。すでに現在では男女同等の選択肢を持つことは一般的であり、女性の大学進学率は今後さらに男性に迫っていくと予想される。また、男性を含めた大学・短大全体の進学率も、18歳人口の過半数をやっと超えたところと見ると、まだまだ高等教育マーケットは拡大の余地があるように見える。

【図3】(注意1)小学校以上に在学中の子ども全員にかかる在学費用の年収に対する割合。(注意2)在学費用には学校教育費(授業料、津学費、教科書代など)のほか、家庭教育費(塾の月謝、お稽古事の費用など)も含まれる。(資料)株式会社日本政策金融公庫「平成23年度教育費負担の実態調査結果」から、筆者作成

 いずれのマーケットでもマーケットの将来を語る際、人口規模のほか、費用面もみなくてはならない。費用面については、日本政策金融公庫「平成23年度教育費負担の実態調査結果」によると、学校教育費のほか家庭教育費も含む在学費用が年収に占める割合は平均37.7%である(図3)。分布をみると、在学費用が年収の40%以上を占める世帯が最も多く、家計に対する教育費負担の大きさがうかがえる。
 なお、同調査によると、高校入学から大学卒業までの費用(在学費用および進学費用の合計)は、子ども1人あたり平均1,042万円である。2000年~2006年の間は減少傾向にあったが、2007年に1千万円を超えた後、30万円程度の上下はありつつ1千万円台で推移している(※3)。また、年収が高いほど子どもにかける教育費は多く、年収400万円以下と年収800万円以上では約200万円のひらきが出ている。

 ところで、米経済学者のベッカーの出生についての経済学理論によると(※4※5) 、裕福な家計ほど、子どもの質を高めるために1人あたりの教育費が増え、子どもの数はかえって少なくなる。これが先進国、特に教育水準の高い国における出生率低下の背景との説もある。
 昨今の厳しい雇用情勢により、家計の教育費負担は今後も厳しい状況が続くだろう。しかし、親は最後まで子どもの教育費は削らない。また、6ポケット、7ポケットと言われるように、少子化で絞られた子どもに対して祖父母などが援助する構造もある。少子高齢・人口減少社会であっても、子どもの高等教育マーケットは、まだまだ余力がある。一方で、より「質」が求められ、「付加価値」にも注目が集まるマーケットであり、人気が一極集中しやすい。高等教育マーケットで生き残っていくためには、企業のマーケティング活動で行われる以上の戦略と実行力を意識すべきだろう。

※1:1人の女性が生涯に産む子どもの推定人数
※2:厚生労働省「平成23年人口動態統計月報年計(概数)の概況」
※3:株式会社日本政策金融公庫「教育費負担の実態調査」「家計における教育費負担の実態調査」
※4:Becker, Gary S. (1960). “An Economic Analysis of Fertility”, in pp. 209-40 Demographic and Economic Change in Developed Countries, by National Bureau of Economic Research. Princeton, Princeton University Press.
※5 Becker, Gary S. (1981). “A Treatise on the Family”. Cambridge, MA. Harvard University Press.


久我 尚子(くが・なおこ)久我 尚子(くが・なおこ)
株式会社ニッセイ基礎研究所生活研究部門研究員。株式会社NTTドコモを経て現職。専門は消費者行動、心理統計学、金融マーケティング。早稲田大学大学院(工学)・東京工業大学大学院(MOT:技術経営、学術)修士課程修了。東京工業大学大学院博士課程在籍(学術)

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