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CO2削減のために 国を越えた環境特命プロジェクト

日本郵船株式会社 環境特命プロジェクト室 室長代理 小杉桂子氏

企画部門から環境特命プロジェクトへ

2008年4月、当社で「環境特命プロジェクト」が立ち上がりました。船舶からのCO2排出削減を目指した技術 開発や、政策討議、ビジネスモデルのあり方といった課題に取り組む社長直轄のプロジェクトです。それ以前、私は当社の企画部門にいたのですが、そこでは技術部門から省エネ機器を導入したいというような話があったとしても、船価の削減や造船所さんのご都合など全体的なことを鑑みて「ノー」と言わざるを得ないこともありました。以前を知る社員からは、「あなたは、もっと安くて稼げる船を推し進める立場だったんじゃないの?」と思われているかもしれませんね (笑)。しかし、実際のところ、当時から船舶や世界の情勢から、今後の海運におけるルールが厳しくなり環境対応が必要になるだろうと考えていました。今回このプロジェクトを担当することになりとても驚きましたが、違和感はありませんでした。

国際海運のCO2削減ルール

陸上では、京都議定書などでCO2の削減目標がしっかりと設定されていますが、国際海運はその枠外となっています。船は国境を越えて自由に行き来しますし、その船籍も様々。当社が運航している船も、パナマ船籍、日本船籍、シンガポール船籍など様々で、乗っている方の人種も様々です。貨物の移動も日本を基点としたものだけではなく、中国とブラジルの間や大西洋航路など日本と離れた場所を行き来するものなどが多くあるので、国単位のCO2計測が難しいんですね。
しかし、だからといって私たちが何もしなくていいというわけではありません。海運により排出される総量8.5億トンのCO2はドイツ一国のCO2排出量と同程度の膨大な量ですし、船の燃料は化石燃料に頼っています。国際海運はIMO(国際海事機関)という国連の関連機関とともに国際海運のCO2 削減のためのルールについて議論しており、世界の海運会社と省エネのための努力を続けています。

2008年12月、日本郵船運航による世界初の太陽光エネルギーを動力の一部に利用した自動車運搬船「アウリガ・リーダー」が、神戸から出帆した。デッキ上には328枚の太陽光パネルが配され、最大で動力用電力の0.3%、照明などの生活電力の6.9%をまかなえる。約6400台の自動車の搭載が可能、今後約2年間、風圧や塩害、振動への耐久性などを検証し実用化を目指す

夢物語に終わらせない

「NYKスーパーエコシップ2030」は夢物語ではなく、きちんとした根拠の上で実現可能なものです。私たちは 69%のCO2削減目標を掲げていますが、この数字は一つひとつの技術による削減値の積み上げから算出したものです。ここで想定している技術もゼロから開発するものではなく、現在陸上で進んでいるCO2削減技術に基づいており、実現に向けて確実に歩を進めていけると考えています。
もちろん構想の実現には大きなハードルもあります。まずは設備価格です。私たちの生活に船が身近な存在でないことからもわかるように、船舶に関する技術は一般に大量に流通するものではありませんし、規模も大きい。一つひとつの設備開発に大変なコストがかかります。私たちは環境特命プロジェクトで革新的環境技術開発などに6年間で700億円の投資を計画しています。

エネルギー転換ロードマップ

自然エネルギーの利用

次のハードルは、海上特有の振動・塩害といった過酷な環境です。燃料電池車や家庭用の燃料電池で現在使用されている技術をそのまま海上にもっていくことで使うだけでも、大変なことなんですよ。私たちは既に太陽光エネルギーを動力に利用した船舶(※)を開発していますが、それもまだ実証実験段階です。
あとは、安全面の問題ですね。船というのは発電プラントに剥き出しのエンジンをつけて走っているようなものです。発火源になるものを載せることは大変危険で、基本的にできません。海上火災に関する国際規則もあります。私たちはエネルギー転換ロードマップにおいて、2050年に完全な水素への転換をうたっていますが、可燃性の高い水素のようなものの取り扱いは特に困難を伴います。 陸上にある技術だからといってそのまま搭載するわけにはいかないんです。ただ、簡単ではないからといってやらないのではなく、一つひとつ考え、なんとかしていくというステップを踏んでいるところです。
(※) 太陽光エネルギーを動力の一部に利用した船舶

また、船舶は1割減速すると3割CO2が削減できると言われています。もしも、全速力で走らなくてよいならば、運航上の工夫で新たに設備投資をすることなくCO2の削減が可能です。近年の経済危機を受けて、ビジネスのあり方や荷主の考え方が変わり始めていますし、スピード競争をしない運航の仕方も今後もっと考えられるかもしれません。こういった情報をもっと開示し、ハードだけでなく運航なども含めた海上輸送のあり方を、技術者、船を作る人、動かす人など、みんなで考えていくことが必要だと思います。

「モーダルシフト」 自動車や航空機による輸送を、環境負荷の小さい鉄道や船舶による輸送で代替すること。これによりエネルギー節減、二酸化炭素、窒素酸化物の排出抑制、道路交通騒音の低減、労働力不足の解消などのメリットが期待される。日本では、運輸省(現国土交通省)が1991年4月から推進している。燃料電池はコンテナ内に格納される

国を越えて、地球のために

「NYKスーパーエコシップ2030」の構想づくりは、イタリアのデザイン会社・ガローニ社や、フィンランドの船 舶技術コンサルタント会社・エロマティック社、株式会社MTI(日本郵船100%子会社の技術開発会社)と共同で進めました。日本は環境技術に優れた国ですし、国の経済のためにもオールジャパンで進めればいいのに、という声もあるかもしれません。しかし、船は一旦港を出れば国境に関係なく世界中でCO2を排出します。私たちは、自社のため、自国のためという考えを超えて、地球のために何かをしたいと思っているんです。鼻息が荒くて恥ずかしいのですが(笑)。このプロジェクトは、2050年のゼロエミッションを見据え、2030年に実現可能なコンセプト船をつくろう、地球のために本当にいいものを作ろうという私たちの呼びかけに世界中の会社が賛同してくれ、実現したプロジェクトなんですよ。
実際のところ、現在のコンセプト船をそのままをつくるわけにはいかないと思います。しかし、このような構想を提示できることで2030年に向けてよりブラッシュアップした船をつくり、運航することができれば、胸を張って「地球のためにいいことができた」言えるのではないかなと思っています。


日本郵船株式会社
代表取締役社長 工藤 泰三
本社所在地 東京都千代田区丸の内2-3-2 郵船ビル
創立 明治18年(1885年)9月29日
資本金 88,531,033,730円
従業員 1,619名(陸上1,251名、海上368名)
URL www.nyk.com

文:永野幸(アクビ・インタラクティブ) 撮影:t.SAKUMA(人物)

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