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世界に誇るジャパニーズウイスキーの実力

Whiskey Culture of Japan

世界に誇るジャパニーズウイスキーの実力

「氷」

日本文化が生んだ美意識と技の結晶

「丸氷」とは日本特有の文化である

Whiskey_221 カッカッカッカッ……。微細な氷の飛沫が輝きを放ち、バーテンダーの手の内の氷柱が、中世ヨーロッパの三本槍を彷彿とさせるアイスピックで素早く削られてゆく。ほどなくして、見事な球体に姿を変えた氷が、鮮やかに回転しながらグラスへと滑り込んだ。収まりはよく、サイズに寸分の狂いもない。
「指先で回しながら削っていくので、凹凸があればすぐにわかります。慣れれば手元を見なくても削れるようになります」
 事も無げにそう語ったのは、パークホテル東京内、25階に位置する「ザ ソサエティ」のカクテルデザイナー、鈴木隆行。ホテルの副総支配人でもある。
 Barという空間をさりげなく、美しく演出する丸氷。我々にとっては馴染み深いが、これが日本特有の文化だとは、あまり知られていない。事実、2009年に各国からバーテンダーを招致し催された「ロンドン・バー・ショウ2009」の会場で、鈴木は現地の人から嘲笑交じりにこう言われたという。
「丸い氷? そんなものをウイスキーに入れて、一体なんの意味があるんだ?」
 本場スコットランドやアイルランドの気候が寒いこともあり、西欧ではもともとウイスキーを冷やして飲む文化がない。ロック発祥の地と云われるアメリカとて、ただ冷えればよく、氷の形にはこだわらない。鈴木は6年前を思い出すかのように、ゆっくりと、その問いの答えを語り始めた。

細部に宿る和の精神
ゆるやかに流れる特別な時間

「日本人は昔から、人工的に作る物を限りなく自然の佇まいに近づける美意識を持っています。また、製氷屋や全国に点在する氷室神社が示すように、氷を大切にしてきた文化もあります。そもそも球体は抵抗を受けないのでロックで飲んでも溶けにくく、水っぽくなりません。河原の石が水の流れによって少しずつ丸くなってゆくのと同じように、少しずつ溶けてゆく丸氷には、Barでの時間の流れを楽しむといった意味合いがあります」
Whiskey_17 話しながら鈴木は、1本の氷柱から4種類の氷を瞬く間に作ってみせた。ウイスキーカクテル向きのクラックドアイス、霧のような喉越しを楽しむクラッシュアイス、酒本来の味を感じられるキューブアイス、そして丸氷。氷柱はひとかけらも無駄にされることなく、4つのグラスに分け入れられてゆく。
「氷は大きさにより、飲み物の表情を変えてくれます。同じウイスキーを飲むにも、それぞれの形で目的が違うんです」
 動きを止めることなく、そう説明してくれる鈴木の流麗な身のこなしは、会話をまったく邪魔しない。まるで座って対話しているような感覚すら覚える。この身ごなしも、日本のBar文化の“粋(すい)”ではないだろうか。一連の説明とともにロンドンで100個の丸氷を聴衆に振る舞った鈴木が、ショウが終わる頃に喝采を浴びたことは、言うまでもない。
「スコッチやアイリッシュウイスキーは力強い味で、そのまま飲んだ方が美味しいですが、日本のウイスキーのよさは水で割ってもバランスが崩れないことです。スコットランドの有名な蒸留所のマスターブレンダーがよく訪ねてきますが、ここでは必ずと言っていいほどロックを頼みます。『この日本の湿度で飲むウイスキーロックが最高に旨いんだよ』と笑って言っていますよ。日本に水割りという独自の文化があるのは、気候も大きく影響しているのでしょうね」
 ウイスキー造りと同様、Bar文化にも、丸氷にも、和の精神が隅々まで流れている。

ザ ソサエティザ ソサエティ
パークホテル東京内25F
東京都港区東新橋1-7-1 汐留メディアタワー
TEL 03-6252-1111(代表)
営業時間 17:00~翌1:30(日月~23:00)
定休日 無休
parkhoteltokyo.com


※文中敬称略

文|志馬唯 写真|福永晋吾、花村謙太朗

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