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“サービス”は 日本を加速させるか

“サービス”は 日本を加速させるか

2013年、東京

日本は世界27位。アジアでも香港、シンガポール、台湾、マレーシア、韓国、中国の後塵を拝し7番手??スイスの国際経営開発研究所(IMD)が公表する世界各国の競争力ランキング2012年データによると、主要先進国における日本はおおよそこんな位置にあるらしい。
90年代前半には世界1位の座にあった日本はバブル崩壊とともに順位を下げ、21世紀に入ってからはほぼ20位台を行ったり来たりという状況を繰り返している。
「良いモノをつくれば売れるんだよ」
仕事終わりのスタンドバー。こんな言葉をきっかけに、「開発がさちゃんと仕事してないから」「いやいや営業だってさ」という話に発展して、たいがい平行線で知らない間に違う話題に移る。
帰りの電車の中でふとこんなことを思う。
「良いモノ」って一体なんだ?

ドリルを買う客が本当に欲しいモノ

安倍首相は今年5月、自らの成長戦略を示した会見でこんな風に述べた。
「長引くデフレと自信喪失。この呪縛から日本を解き放つのが私の仕事です。その実現の鍵は日本が生み出した優れたシステム、技術を世界に展開していくことであります。医療、食文化、宇宙、防災、エコシティ。今や従来のインフラだけにはとどまりません。私たち日本人が築き上げてきた、誇るべきさまざまなシステム。これを世界が求めています」
ここで注目したいのは「システム」が強調され、具体例として「医療」「食文化」などのサービス分野が挙げられていることだ。
日本は「モノづくりの国」だといわれ、多くの人もそう信じてきた。だがイギリスの経済学者コーリン・クラークが「ペティ・クラークの法則」で提示しているように、経済、社会の成熟とともに産業構造は第一次産業から第二次産業、そして第三次産業へと移動していく。今やサービス産業は先進国GDPの7割を占め、それは日本にもあてはまる。つまり日本は産業構造からみると「モノづくり」よりもむしろ「サービス」が主役の国となる(もちろんそれはあまりに短絡的だが)。
首相にそんな意図はないだろうが、はからずもこのスピーチは日本人へのある種のマインドセットの転換(モノからコト=サービスへ)を示唆しているようにも読める。
モノとサービスの関係性を持ち出すと、すぐに「製造業不要論か」と反応する人もいる。だがここで示したいマインドセットとはそうしたモノvs.サービスの対立図式ではない。モノとサービスを分離せず、モノもサービス提供の媒介・手段と捉える。広くサービスという概念で経済活動を見ていくことでより本質に近い問題解決、あるいは技術単独では導けないイノベーションの道筋が見えてこないかということなのだ。
マーケティングの世界で「ドリルを買う客が欲しいのはドリルではなく穴である」という格言がよく使われる。まさにここでは視点をモノからサービスへ移すことによって、モノ視点では見落とされがちな価値を逃さずすくい取れるのではないかと考えてみたい。
経済のサービス化が進むほど、モノとサービスに明確な境界は引きにくくなる。iPodとiTunesの関係、ユニクロ、H&Mなどのファストファッション、小売業が展開するプライベートブランド商品などを見れば分かるよう、モノとサービスを分断してしまうと、むしろその競争力の本質などが見えにくくなってしまう。

イノベーションのステージが移動する

「今後20、30年の間に、コンピュータの出現から今日までに見られたよりも大きな技術の変化、そしてそれ以上に大きな産業構造、経済構造、さらには社会構造の変化が見られる」
ピーター・ドラッカーは著書『プロフェッショナルの条件』でIT革命の未来をこんな風に予見。コンピュータを産業革命における蒸気機関にたとえ、この先の変化の「導火線に過ぎない」とも言っている。蒸気機関が製造プロセスの機械化や鉄道、船舶などの交通機関の発達を促し、郵便、銀行、メディアなど産業が勃興し社会が形成されていったように、コンピュータに始まるIT革命は計算の効率化に始まりインターネットを生んだ。それが蒸気機関における鉄道に当たるならば、これを利用したビジネスやサービスの勃興が今後の社会構造を大きく変えていくのだと解釈できる。
『ロングテール』『フリー』の著者でもあるクリス・アンダーソンは最新の著書『メイカーズ』でウェブでの経験知を現実のモノづくりに持ち込んだ「メイカーズ・ムーブメント」を21世紀の産業革命として示しているが、それを可能にしているのは、オープンソース、クラウドコンピューティング、クラウドファンディングなどインターネット上で展開されるサービスにほかならない。
これらから読み取れるのはハードが起こしたイノベーションが、後に構造や仕組みの変化を促す、いわばイノベーションのステージが移動するということ。それはまさにモノとコトの横断を意味している。


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