平和都市として全世界に知られるヒロシマ。戦前の軍需産業から戦後の自動車産業へと見事に転換を遂げた産業都市でもある。自動車産業が不況と言われる現在でも街全体に活気があふれ、商店街も賑やかだ。いま注目すべきは「ICT(注)先端都市」を目指す広島市の政策である。
(注)ICT=Information & Communication Technology 情報通信技術
text & photo: 羽田祥子(編集部)

コンテンツビジネス局長兼デジタルラジオ準備室兼総合戦略本部 宮迫良己氏

テレビ局 中国放送

コンテンツを軸にビジネスを探る

 広島城内堀のほとりにある中国放送本社。中国放送は広島市のデジタルサイネージ事業コンソーシアムの一員として、コンテンツの基準作りをはじめとする中核部分に関わっている。一般的に街角サイネージ事業はコンテンツの優劣が勝負とも言われ、担う役割は大きい。
 宮迫氏は中国放送にてデジタルコンテンツの制作、放送コンテンツを利用したサイト運営やイベント企画に携わるほか、最近では大学と連携してベンチャー企業を育成する事業も手掛ける。「放送にはコンテンツ、メディア、ジャーナリズムの3つの要素があると考えています。放送事業で培った高水準のコンテンツを利用してパソコンや携帯電話への配信、野球やサッカーなどのイベント事業との連携をメディアミックスで進めています。配信先であるデジタルサイネージはその一環と考えています」。
 デジタルサイネージ事業は東京など人口が集中した露出の高い場所では成功例がある。またJR東日本の山手線の車両内ディスプレイに見られるように、自社の土俵にコンテンツを流す「自作自演」の場合もうまくいく。しかしプラットフォームを提供し、その上にコンテンツを載せるという多対多のマッチングビジネスとしてはあまり成功例がない。地方都市が産学官の連携で枠組みを作るところからその事業をスタートするのは他に例がない。民間企業として、今後広告ビジネスに乗せることを考えた時、広島の市場規模で運営は可能だろうか。

「まずデジタルサイネージは、範疇として通信に属すものの、きわめて放送に近いコンテンツだと思っています。ひとつのコンテンツを個人ではなく大勢に見てもらえるからです。見る人の興味に合わせたタイムリーな情報をうまく取り入れることで多くの人に有用であると認識されれば、ビジネスとしての可能性が見えてきますね。
 コンソーシアムの一員としてはビジネス展開を踏まえたデジタルサイネージシステムにしてほしいと思いますし、中国放送としてはそのサポート準備体制を整えています。放送局には『パラサイト業種』ともいえる側面があり、地域の活性化があってはじめて利益が上がります。デジタルサイネージを含めて地域が活性化すると、都市が豊かになって放送局にもメリットがあると期待しています。

放送基準デジタルサイネージ

 マス(大衆)に発信するという点で、デジタルサイネージには放送に準じたコンテンツの質が求められる。コンテンツの基準設定はコンソーシアムでの大きな役割のひとつである。「放送局の担当者が制作するハイクオリティなものと、一般の人が参加しやすいカジュアルなレベルのものがあっていいと思います。質の高いものはスタートアップ時のデジタルサイネージそのものへの信頼性向上に貢献しますし、ブランド価値の高い広告クライアントの呼び水になります。また一般の人が制作に関わり参加意識を持つことが視聴層の拡大につながりますから、そのふたつをどのようにブレンドするかが課題ですね」。
 コンテンツにおいて中国放送の果たす役割は大きい。「広島東洋カープとサンフレッチェ広島の活躍は市民の大きな関心事。また、中国放送がかかわるイベントとして、160万人を動員する春のフラワーフェスティバルや、12月に行われる広島交響楽団と5千人の市民が一緒に歌う第九などがあります。これらのコンテンツを街角のサイネージに流すとともに、リアルな場にデジタルサイネージを前面に出すことで、広島に根付くきっかけになると思います」。
 ゼロから枠組みを作る事業において、誰が最初にアクセルを踏むのかは難しい。広島のデジタルサイネージをうまく離陸させるために、メディア力を持つ放送局が参加することがひとつの成功の要素となるだろう。

地方放送局の「解」

 テレビの視聴方法が多様化し、従前の広告収入が減少。いま、放送局の経営が厳しい。どの局も新規ビジネスを広げる模索を始めている。
「東京のキー局は売り上げの十数パーセント程度を映画などの放送外収入が占めていますが、これは東京の特性を生かしたもの。大阪や名古屋などの準キー局も手を打ち始めている。しかしその他のローカル局はまだほとんど形が見えていません。方程式があるかどうかすら分からない解を求めて、地域に合わせた方法で自分で解いていくしかない。中国放送も未知の分野を含めて動きながら考えているところです」。
「コンテンツキャスター」これが中国放送の持つ方向性イメージだという。「コンテンツをCSやモバイルなど多くの選択肢の中でどの方向に打ち出し、広告を絡めてビジネスにするか。デジタルサイネージもその打ち出し先のひとつとして今後も関与していきたいですね」。

 産学官、それぞれ役割も違えば、目指すゴールも違う。しかし、ICTをビジネスに応用し、市民に還元し、研究に活用するために、共通項となるものは互いに協力しあうことが費用対効果としてもっともすぐれた方策であろう。縮小経済の中、限られたリソースで最大限のパフォーマンスの発揮を目指す広島市モデルは他自治体の試金石となるであろう。