平和都市として全世界に知られるヒロシマ。戦前の軍需産業から戦後の自動車産業へと見事に転換を遂げた産業都市でもある。自動車産業が不況と言われる現在でも街全体に活気があふれ、商店街も賑やかだ。いま注目すべきは「ICT(注)先端都市」を目指す広島市の政策である。
(注)ICT=Information & Communication Technology 情報通信技術
text & photo: 羽田祥子(編集部)

東北大学工学部卒。郵政省入省後おもに情報通信政策を担当。ハーバード大学留学、在仏日本大使館一等書記官を経験し、前職は独立行政法人情報通信研究機構連携研究部門テストベッド企画戦略グループリーダー

広島市副市長 広島市CIO 豊田麻子

「まずは理解してもらうこと」

 昨年、広島市初の女性副市長に就任した豊田氏はCIOとしての役職も兼任する。民間企業では徐々に普及しつつある情報責任者CIO。一般的に社内システムの構築・効率化などが業務だが、自治体CIOはICTを利用した市民生活の利便性の向上も役割のひとつとなる。 目に見えない情報システムを理解してもらうのは難しい。ユビキタス、デジタルデバイド、デジタルサイネージ、ユーザインターフェース……初心者は背を向けるだろう。
「広島市は『ICT先端都市』を目指しています。先端的な技術も重要ですが、市民が使いこなして便利な生活ができることがより大切です。市民にわかりやすく説明することもミッションのひとつですね。
 ICTを利用する手段はパソコンだけとは限りません。携帯電話、テレビ、街角のタッチパネル、様々な媒体があると思います。市民がパソコンなどで自ら情報を入手するのが難しい場合もあるので、市から情報を配信し、防災、不審者情報、子育て情報などを市民に届けます。ちょっとしたツールで便利になることを徹底して広めたいですね。技術が進歩していますから、使いこなすことで地域活性化にもつながります」。

 中でも地域の子供の教育に注力する。「使われるのではなく使いこなして自分の頭でものを考える、ICT社会をたくましく生き抜く人になってほしいです。将来はICTが使いこなせないと仕事や社会生活に支障をきたすようになるでしょう」。
 20年前の地域情報化はシステム導入のみを意味した。現在の情報化は市民が主役。ICTを市民がどう使いこなすかは行政が一方的に提供するものではない。ICTに対して強い苦手意識を持つ人は多いが「そんなに難しいものじゃない」とまず説明することが大切だ。できることから始めて「意外に便利」と思ってもらうことで市民の情報リテラシーが向上する。その一環としてデジタルサイネージ実証実験が11月から広島市の市街地で行われる。

都市発展のポテンシャル

 慣れることで最初のバリアを取り除く次の段階として、作る側=エンジニアの人材育成が求められる。ソフトウェアもモノづくりのひとつである。残念ながら日本のソフトウェアエンジニアの独創性は海外と比較して高くないと言われる。日本では階層型の分業体制が一般的で、エンジニア自らが企画、制作、製品化・サービス運営を一貫して行うことは稀有である。結果として生産性やカイゼンサイクルも低下する。広島市がICTを使いこなして理解する人材を子供のころから育成することは、都市の大きな魅力、かつ発展の素地になるのではないだろうか。
「産学官連携で地元企業のICTエンジニアの育成も目指しています」。広島大学は98年から08年の被引用論文数において東京工業大、筑波大に次いで国内10位にランクインする(トムソンサイエンティフィック社調べ)など教育水準において広島のポテンシャルは高い。一般的に日本では文系と理系に分断され両分野の融合が難しい。しかし実社会においては不可分だ。どちらかをブラックボックスだと思ってしまうと先に進まない。そのためにも社会に出る前の教育段階で複線化が必要だ。
 国際会議の積極誘致も人材育成の一環だ。この11月には世界最大級のインターネット技術に関する国際会議であるIETF(Internet Engineering Task Force)が市内で開催された。「会議場のネットワーク作りなどの準備に市民が参加し、世界水準を知るチャンスです。行政ができることは環境や土壌を作ること。一過性のイベントではなく有機的に次につなげていきます」。