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輝きを放つ、美しき織物「錦」

龍村光峯錦織工房

輝きを放つ、美しき織物「錦」

絹糸一本ずつが光を受け、千変万化に表情を変える美しさから錦織は「光の織物」と賞賛される。龍村周氏は、その後継者として、日本古来の織物を守り伝えようと強い意志を秘める。錦織とは――。

光の織物「錦」とは

龍村光峯錦織工房

初代から三代当代まで、自ら織ることはなかったが、周氏は織機使いを学んだ。「織手さんにはかないませんが、織り方が分かれば、自分でも技術を伝えることができます」

 多彩な絹糸、金銀糸、箔を用いて華麗な模様が織り出された上等な絹織物である錦は、御神宝や貴族の衣装、僧侶の袈裟、着物の帯などに使われている。歴史は古く、紀元前から織られており、日本には古墳時代頃に中国から伝わったとされ、この頃作られた正倉院裂、法隆寺裂と呼ばれる古代裂は、日本はもとより、世界の染織史上きわめて貴重な存在となっている。
「錦」という漢字は、織物に関する文字でありながら部首に糸偏ではなく、金偏が組み合わさっている。これは、帛(絹織物)が金の値に等しいという意味をもたせて作られたからだといわれている。
 錦織を伝承する龍村光峯錦織工房の後継者である龍村周氏は語る。
「故郷に錦を飾る、ということわざにあるように、錦は成功することを意味したり、錦秋、錦鯉のように美しさを形容する時に用いられたり、最高峰を示す言葉の代名詞として使われてきました。日本人の持つ美の感性から使われるこの言葉は錦織からきているのです」
 錦織の魅力は、ホログラフィーのように見る角度によって柄の表情が変わることにある。帯であれば、結ばれてゆらゆらとした動きに合わせて浮き上がる色が変容し、絢爛な輝きを醸し出す。
「これは、いくつかの要素が合わさることによって起こる現象ですが、絹糸の持つ光沢が大きな要素となっています。絹糸は半透明のガラス棒のような形状になっており、その断面が不定型な三角形をしています。この断面が三角プリズム効果となり、入ってきた光が分散され眩い光沢を放つのです」
開口した部分に緯糸を這わせる。操作する足の踏み込むタイミング、糸の張り具合、緯糸を仕組んだ道具、杼(ひ)の滑らせ方などの力加減は、経験を重ねなければ身につかない

開口した部分に緯糸を這わせる。操作する足の踏み込むタイミング、糸の張り具合、緯糸を仕組んだ道具、杼(ひ)の滑らせ方などの力加減は、経験を重ねなければ身につかない

 錦織は高機と呼ばれる織機を用いて手織りされる。縦に張り渡した経糸に、緯糸を交互に交差させて織り重ねてゆく、寸分の狂いも許さない繊細で根気のいる作業を想像すると気が遠くなる。そればかりでない。
「繭から糸を取り出し撚りをかける製糸、多ければ1000を超える色を染める糸染、糸を必要な長さと本数に揃える整経、経糸の上げ下げの情報を穴を開けてあらわす紋彫り、芯になる糸に0.0何ミリまで裁断した金銀箔を巻いて糸状にする金銀糸作りなど、織り始めるまでの工程が数多くあります。中でも紋意匠図という織物の設計図の作成に時間がかかります。織物は経緯2つが交わる点の集まりですので、経糸と緯糸を表す方眼状の紙に、升目一点ごとに塗り分けながら図案を置き換えます。例えば、筆で描いたかすれを点に置き換えて表現する場合、点の増減やその位置によって印象が変わるように、図案がもつ意図を表現できるまで、微調整を繰り返します」
 細密な作業と執念の深さが最高品質の錦織を創出する。


龍村光峯錦織工房

京都府京都市北区紫竹下ノ岸町25
TEL 075-492-7275
www.koho-nishiki.com
工房見学、織機体験が可能。予約制

文|竹井雅美(編集部) 撮影|バンリ

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