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サーカスの神髄を極めた『クーザ』 日本公演の舞台裏

サーカスの神髄を極めた『クーザ』 日本公演の舞台裏

シルク・ドゥ・ソレイユのアダム・ミラー氏(左)とフジテレビの中村芳章氏

世界で受け入れられるシルク・ドゥ・ソレイユ

BUAISO(以下、B):世界中から集まったアーティストによって独特の世界観を創り出すシルクの公演はずっと世界中で支持されていますね。

シルク・ドゥ・ソレイユアダム・ミラー氏(以下、アダム):まずサーカスというものは1000年以上行われている伝統あるエンターテインメントなのです。そしてシルクは、能、歌舞伎、サーカス、オペラなど、すべての芸術に対して尊敬の念を持ち、サーカス、振り付け、音楽、喜劇など多くの要素を取り込んでショーを創り上げているのです。そうした要素が多くの人に受け入れられるのでしょう。

フジテレビ中村局長(以下、中村):シルクはブルー・オーシャン戦略(※)で最初に例に挙げられたパフォーマンス集団です。シルクは、サーカスアクト、ダンス、音楽などエンターテインメントの世界にあったすべての要素を組み合わせて、新しい芸術を創り上げました。古くからあり親しまれている要素を総合的に加味したため、分かりやすく親しみやすい。そして新しいから新鮮味がある。これが成功の最大のポイントだったと思います。
 日本での成功理由として、セリフが主たる要素ではないという点は大きいと思います。フジテレビがシルクの公演を手掛けた19年間を見ると、ロンドンやブロードウェーから招聘したミュージカルの売上は下降傾向にあります。それと反比例するようにシルクのマーケティングは伸びている。言葉が分からなくても楽しめるということは大きな要素でしょうね。

アダム:日本は洗練されている国であり、西洋の文化を非常に深いところで理解している国だと思います。『クーザ』はサーカスとしては英語のセリフが多く、アメリカンジョークが多いのですが、それらを削ることなく、フレーバーをなるべく生かして上演しています。最初に決めたことを石のように頑なに固持することなく、お客様の反応を見ながら常に進化させています。とても有機的なものであり、庭のように育てていくショーですね。
※ブルー・オーシャン戦略:『ブルー・オーシャン戦略 ――競争のない世界を創造する』(W・チャン・キム、レネ・モボルニュ共著 05年2月)に書かれたビジネス戦略。既存の市場構造の枠内で製品やサービスを考えるのではなく、これまでになかった製品やサービスを提供し新たな市場を開拓しようとする戦略のこと。その典型例としてシルク・ドゥ・ソレイユが挙げられている。血みどろの競争が強いられる既存の市場環境をレッド・オーシャン、新しく築く未開拓の市場をブルー・オーシャンとして対比させた

「サーカスの原点に帰る」

中村:シルクの過去の作品に関しては意見を出したこともありますが、『クーザ』に関してはほぼ完璧でしたね。アクロバットのインパクト、音楽性、ダンスとのバランス。見た瞬間「これだ!」と。だから北米ツアー後すぐ来てもらいました。

アダム:『クーザ』はとてもシンプルなショーです。真っすぐでフレンドリーなショーだと思います。

B:「サーカスの原点に帰る」ことがテーマの一つだそうですね。

アダム:普遍的であり世界中に理解されるショーを創ろうと思いました。普遍的であろうとした結果、原点回帰したのです。『クーザ』はどこへ行っても愛されるショーだと思います。

Costumes: Marie-Chantale Vaillancourt © 2010, 2011 Fuji Television

勝ち癖がついたプロジェクト

B:多国籍、他分野の人間をとても上手にまとめ上げていますよね。

アダム:ディレクターが他のメンバーより優れているのではなく、同等なのだと思います。メンバー1人1人が非常に優秀なので、いいチームになっているのです。それとディレクターとして大切なのは、冷静でいることです。

中村:フジテレビ側のスタッフに勝ち癖がついているので今は苦労がないですね。初めての時は大変でしたよ。毎日ずっと現場にいました。チケットを1枚でも多く売る、細かいトラブルを解決する、などの積み重ねです。ただ基本的にフジテレビには物事を前向きに楽しむ社風があるので、スタッフをまとめるという点で困る部分はないですね。

B:「楽しんでもらうために楽しんで仕事をする」とフジテレビの方は皆おっしゃいますね。シルクとフジテレビのチームワークはいかがですか。

アダム:コミュニケーションがとても良いですね。問題があれば隠さずに話すこと、相手を信頼することが重要です。

中村:問題があるときでも率直に話し合う土壌ができていますね。最大の特効薬はお客様が来てくださることです。空席が目立つと気持ちがふさいできますし、何か手を打たないと現場の空気が荒れてきますね。

サーカスの神髄は、恐怖心を隠し、笑って技を見せること

中村:震災で39公演が中止となり、再開の告知をするにも難しい局面は多かったです。こうして日々お客様が戻ってきてくださっていることを、現実として感じられるのはとてもいいことだと思いますよね。

アダム:震災後、アーティストの中には精神的に不安定な人もいました。公演休止中、再開するときにはアーティストに何を伝えようかとずっと考えていました。それが「再び伝統的サーカスの原点に戻ろう」ということでした。私が考えるサーカスの神髄とは、人間がなし得る最大限かつ極限のパフォーマンスを行い、それを祝福することなのです。そして絶対的なサーカスの本質とは、アーティストが恐れを感じながら、しかし笑いながらパフォーマンスをすることだと思います。落ちる、飛ぶ、逆さまになる、バランスを崩す、すべてがアーティストにとって恐怖ですが、笑いながら演技をする。それがサーカスの神髄であり、特に『クーザ』においてはそれが強いと思います。人間が突き当たるすべてのことを乗り越えていく、それを見せるのがサーカスの神髄なのです。それが日本に戻ってきた理由の大きな一つであり、日本公演再開にあたってアーティストに伝えたことです。

中村:シルクの作品の根底には「すべては子供たちの明るい未来のために」というコンセプトがあるんです。震災や原発の問題からくる人々の落ち込んだ気持ちやストレスを乗り越えていくためには、「子供たちの将来を考える」ということを自然に思う必要があると思います。そしてシルクの作品を続けていくことの価値はそこにある。そのコンセプトはジェラシーを感じるくらいすごいですよ。我々としては、1年という長期間にわたりメディアがプロデュースするという責任感があるので、作品の根底にあるコンセプトを、きちんとエンターテインメントとして届けていかなければならないと思っています。

アダム:シルクに限らずすべてのパフォーミングアーツは人間の極限を見せる芸術だと思います。ぜひ見ていただきたいです。

中村:シルクのショーを日本でスタートした19年前にメインターゲットとしたのはBUAISO世代である30~40代でした。今も中心となる年齢層です。なぜBUAISO世代に受け入れられているのかを自らの目で見に来てほしいですね。


『クーザ』ウェブサイト
www.fujitv.co.jp/events/kooza

文:羽田祥子(編集部)

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