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松たか子インタビュー「お芝居が始まるわくわく感と、終わってしまう切なさを感じてほしい」

松たか子インタビュー「お芝居が始まるわくわく感と、終わってしまう切なさを感じてほしい」

すべてに真正面から全力で取り組むひたむきな姿勢が印象的だ。
蜷川幸雄、三谷幸喜、野田秀樹ら多くの劇作家や演出家の作品に呼ばれ、その度に新しい一面を見せる松たか子。
串田和美演出の舞台『十二夜』(原作シェイクスピア)で新しい年をスタートする。


父の背中を見ていた「深窓の令嬢」

 歌舞伎役者の家庭に生まれ育ち、子供の頃から歌舞伎座を訪れるのが大好きだったという。歌舞伎好きの読者の中に「昔、髪にリボンを結び、絵に描いたような深窓のお姫様といった雰囲気の小さな松たか子さんを何度も歌舞伎座で見た」という人がいる。
 今や多くの映画監督や演出家、劇作家らに呼ばれる日本を代表する女優の一人だ。映画『告白』では生徒に娘を殺され復讐を図る女教師を演じ、高い評価を得た。足かけ3年にわたって放映されるドラマ『坂の上の雲』でも重要な役どころを熱演している。
 親の背中を見て芝居への思いを募らせたが、両親には相談することなく、どうしたら芝居ができるかを一人で考えていた。芝居が完成するまでのプロセスに興味があったという。
「父は仕事を家庭に持ち込まないタイプではなく、機嫌が悪ければそのまま帰ってくる人でした。いいことも悪いこともその日のうちに全部出し切る。それを見ていて嫌ではなかったし、ヒーローでいる父、かっこよく舞台の上に生きている父がすごく好きだったんだと思います。小さい頃は特にそうでしたね」。
 

懸命に取り組むことだけが自信になる

 大御所と呼ばれるような監督や演出家、ベテラン俳優との仕事が多い。「落ち込むことはよくあります。先輩が素晴らしくて、自分がまだまだだと感じて沈み込んでしまうことは当然だと思っているんです。他人の個性は自分とは違う。自分にはできないことをやっている人だらけなので、年齢は関係なくすべての人に打ちのめされますね。ただ本当にまずいと思って落ち込むのは、自分自身が貫けていなかったと感じる時です。他の人と比べてというより、自分の頑張りの足りなさに対して一番落ち込みます」。
 自分の行くべき道を見据えてまっすぐ目標に向かっているように見える。「遠くの未来を計画するのは上手ではないですね。目の前のことを一生懸命やっていれば少しずつ先につながるかなと思っています。例えば『告白』という映画に3カ月間必死で取り組んだのですが、その限られた時間を精一杯過ごしたということだけが自信になるかもしれません」。

芝居の終わる切なさが好き

 中学生の時にシアターコクーンで観て衝撃を受けた串田和美が演出する芝居に、慣れ親しんだ歌舞伎と似たものを感じている。
「串田さんの作品には、お芝居が始まるというわくわくした気持ちにさせてくれる導入部分と、終わってしまう、夢が覚めるという切ない感じの終わりとがきちんと入っているところが魅力です。小さい頃から観ていた歌舞伎は、拍子木がカチーンと鳴って『始まりますよ』『終わりました』というきっぱりとしたけじめのようなものがありました。お芝居は終わるものなんだな、切ないものをもっているんだなと感じてさらに好きになったんです。それと同じものを串田さんの作品に感じますね」。
 今回の『十二夜』で串田作品への出演は4度目となる。「ご一緒するのは久々なんです。稽古の中で見えない何かに向かっていく作業は体力的にも大変ですが、串田さんの頭の中に大人の『十二夜』にしたいというイメージがあるようなので、それを探していきたいなと思いますね。まだ私にはぼんやりとした遠いイメージなのですが、諦めないで串田さんについていきます」。

シェイクスピアで一人二役、男装も

『十二夜』は若い男女の勘違いや騙し合いから巻き起こるラブ・コメディだ。俳優学校などの卒業公演でも頻繁に演じられる。しかし串田は、何十年も前から「いい感じにだらしない大人でなければできない作品」だと信じて構想を温めてきたという。本気だったはずの恋が終わっても「まあいいか」とそれを受け入れることができる大人。見方によってはいい加減だが、いい加減に生きることの誠実さを知っている切ない大人の話なのだと串田は語っている。双子の兄妹が乗った船が嵐に巻き込まれ、妹は海岸に打ち上げられて生きて助かる。兄が死んだと思った妹は、身を守るために男装して兄の名前を名乗る。
 双子の兄妹の一人二役が今回の役どころだ。「シェイクスピアの作品に出演するのは『ハムレット』以来です。シェイクスピアは英語の韻を踏んでいたり、イギリスのことわざや言い回しと意味を掛けた言葉が多かったりするので、日本語に訳すと難しく感じることもあるかもしれませんが、恋のやり取りなどが多く、俗っぽくてわかりやすい話なんです。今回の『十二夜』は串田さんのアレンジなので、オリジナリティの非常に高いバージョンになると思います。(共演の)りょうさんとは『ロングバケーション』以来の再会なのでドキドキしますね。私にとって初めての連続ドラマだったので当時は全くゆとりがなくて、無我夢中でした」。

心に響いたもの

 舞台、映像での幅広い女優活動のみならず、作詞・作曲を含めた音楽活動にも積極的だ。透明感のある心地良い歌声、メロディに乗せて聴いても文字だけで読んでもまっすぐ心に響く自作の歌詞が、松さんの感受性の豊かさを感じさせる。自身はどのようなことに感動するのだろう。
「今年ニューヨークでジェームス・テイラーとキャロル・キングのライブを観たんです。長いお付き合いの二人が再び一緒に回ったツアーで、すごく素敵でした。何も力が入っていなくて。『イエーイ!』とか叫ばなくても人は盛り上がれるんですね。みんな自然に笑って踊って、大人が無邪気に楽しんでいるんです。その様子にも感動しましたね。舞台では長塚圭史さんの『ラストショウ』が素晴らしかったです。心に響いてしまって、お客さんが笑っていても、私はずっと泣いていました。親子のつながりを描いた芝居だったのですが、圭史さんのお父様も俳優で、どこか共感する部分が多くて、何とも言えない気持ちになったんですよね」。

劇場空間での一瞬のクロス

「私は周りのほとんどの人をすごいなと思ってしまうので、自分はまだまだだなと感じることが多いのですが、でも同世代の頑張っている人には自分に誇りを持っていただきたいですね。自分にしかできない方法であったり、愛嬌であったり、人と比べられない何かが自分にはきっとあるはずなんです。自信を持つことで周囲にいい空気を出してほしいと思いますね。
 だからこそ頑張っている人たちの息抜きになれるような存在になりたいと思っています。お芝居を観たり音楽を聴いたりすることで、日常からちょっと離れて、また日常に戻って頑張ろうと思える。劇場やコンサート会場という同じ空間にいることで、色々な世代の人たちと一瞬のクロス(交わり)ができたら嬉しいですね」。

松たか子 プロフィール】 
1977年生まれ。舞台『ラ・マンチャの男』『セツアンの善人』『ミス・サイゴン』『SISTERS』、大河ドラマ『花の乱』『秀吉』、テレビドラマ『ロングバケーション』『HERO』『坂の上の雲』、映画『THE 有頂天ホテル』『告白』など数多くの作品に出演。映画『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』での日本アカデミー賞最優秀主演女優賞など多くの受賞歴を持つ。97年から歌手活動も行い、2010年1月2月に行った全国ツアー「Time for music」のDVDが現在発売中。2011年1月上演の舞台『十二夜』で双子の兄妹を一人二役で演じる。
Official HP www.matsutakako.jp
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『十二夜』舞台『十二夜』 1月4日~26日 @Bunkamuraシアターコクーン
シェイクスピア作品の中でもロマンティック・コメディの頂点と評される『十二夜』。船の遭難で離ればなれになった双子の兄妹の周りで複雑な片思いの糸が絡まり、シニカルないたずらや馬鹿騒ぎのあげく、劇的に糸が解けてハッピーエンドに。串田和美によるセンスあふれる演出と魅力的な俳優陣により、音楽と笑いとウィットを盛り込んだ上質な喜劇が誕生する。
作:W.シェイクスピア 翻訳:松岡和子 潤色・演出・美術・衣裳:串田和美 音楽:つのだたかし 出演:松たか子 石丸幹二 りょう 片岡亀蔵 串田和美 笹野高史ほか 公演期間:2011年1月4日~26日 チケット料金:S9,500 A7,500 コクーンシート5,000
問:Bunkamura www.bunkamura.co.jp

文:羽田祥子(編集部) 撮影:中島正之 スタイリスト:梅山弘子 ヘアメイク:HAPP’S中嶋竜司

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