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長塚圭史インタビュー 演劇が引き出す「想像力」「体感力」

長塚圭史インタビュー 演劇が引き出す「想像力」「体感力」

長塚圭史。俳優・劇作家・演出家、3つの立場で演劇に対峙する。
子供のころから父親(俳優・長塚京三)の影響で「映画や芝居を山ほど見ていた」と言う。
「人間がそもそも持っている想像する力、思考する力、体感する力を大量に感じられる場が劇場」
文化庁新進芸術家海外留学制度によるロンドン留学から昨年9月に帰国。
ますます積極的な舞台創造が注目を集める長塚が戯曲『タンゴ』を演出する。


現代にも通じる『タンゴ』 森山未來との初タッグ

長塚圭史

 ポーランドの巨匠ムロジェックの『タンゴ』。1965年ワルシャワでの初演時に激しい賛否両論が巻き起こった作品である。
 親世代が自由を求めて秩序を破壊し尽くし、自由になりすぎた世の中と家族が舞台だ。反発することでしか自らの存在意義を見出せない若者、しかし反発するべき対象としての秩序がそこにはな い。「それならばまずは形式的な秩序を作ろう」と自分の伝統的な結婚式を、そして世界秩序の再建を、と暴走する主人公の若者を、森山未來が演じる。
「非常に楽しめる喜劇に作り上げることができる作品なんです。反発によって存在証明しようとする若者。しかし彼は自分の存在を確かめたいという根源を忘れて、形式だけを取り戻すことに躍起になり、いろんなものを見失っていくんですね。
 その暴走が喜劇性の強いところなんだけど、観ているうちにいつの間にか、繰り返される人間の愚かしさみたいなものをものすごく嘲笑っていることに気付く。世界の構造や人間の歴史みたいなものを映し出している部分が見えてくるようになる。これは演劇の見せ方として面白いと僕は思うんです」。
 先行きの見えない混沌とした世界状況、確固たる勢力が失われて突き進む方向を求めて模索する人間。初演から45年経った現代にも通じるものがある。
「そうなんです。まず僕が思ったのは演劇界の混沌だった。昔と違って確固たる主流がなくなり、反発から生まれた演劇が主流になっていたりして、多様な芝居があって、何を作り出せばいいのか、作り出す世界がどんどん小さくなってしまっている。でも読み進めていくうちに、芸術にとどまらず、世界の縮図や繰り返される人間の愚かしさみたいなものを嘲笑っているんだなと。何を感じるかは観る人の状態にもよると思いますが」。
 解決策を示すわけではない。説明しすぎないことは長塚のポリシーでもある。

「想像力」は演劇を観る喜び

「舞台はそもそも『ここは家ですよ』って嘘をついて始まっているわけだから、そこから観る側の想像力がスタートしている。想像力を働かせることが演劇を観る一つの喜びだと僕は思っているんです。俳優も演出家も観客の感性・感覚を信じて、説明的に作りすぎない。余白を持たせることが大事なんです。そうすると作品が広がっていきますからね」。
 ここ数年考えてきて、ロンドン留学を機に自分の中で明確になったという。
「劇場って人間がそもそも持っている想像する力や、思考する力や、体で感じること、そういうことを大量に感じられる場所なんです。最近、3Dとかいろんな与えられたもので何でも見られるようになっていますよね。それに比べて劇場空間はなんて豊かなんだろうって」。

俳優 劇作家 演出家

「もともと役者をやりたくて芝居を始め、役が欲しくて脚本を書き始めたんですが、書いてみたら面白かった。演出は、他人の書いた戯曲をさまざまな角度で読み解いたり、俳優がぱっと変わる瞬間を見たり、一つのアイデアが入ることで戯曲の世界や人間関係が膨らむのを目の当たりにしたりするうちに、徐々に面白くなりました」。
 俳優、劇作家、演出家。3つの立場でのアプローチは変わらない。軸足は「観客とともに、一つの空間で世界を作り上げ、共有して想像力を膨らませていって、豊かな場所にしていくこと」だ。
「視覚で見たものと感覚で見たものがうまく混ざった時、すごく面白いと感じるんです。残像を自分の中で合わせるのが好きなんですね。例えば『夢で見たものは見ていないのか』。僕は見たんじゃないかと思うんですよ。夢が現実でないとは誰が決めたのか、何が夢で何が現実でないのか。もしかしたらあっち(夢)が現実かもしれないじゃないですか。
 一つ所に決めてしまうのではなく、可能性を感じながら生きていくことのほうが、僕は豊かなんじゃないかと思っている。そしてその可能性について興味があるから追いかけてみたりするんです」。
 荘子の『胡蝶の夢』ともつながるような、ちょっともやもやとした、でも本質を突いているような、不思議な気持ちになる話だ。たくさんの考えや体験がさまざまな形で演劇に反映されていく。だからこそ作品が観る人の心を深く揺さぶることができるのだろう。

「物語世界と現実世界がいかにつながるか、舞台と客席の間には何があるのか、現実と虚構には狭間はないんじゃないか、現実と虚構の狭間のない世の中でどう生きていくのか……。『あまり考えすぎると病気になるぞ』って言われますけど(笑)。
 僕は演劇という表現手段を持っていて、想像したことを視覚化して形にできる。だからそれでバランスをとっているんだと思います。虚構の世界を表現したり、時間の概念をなくしてみたり、そういったことをしていくと面白いんですよね」。

人生と仕事(演劇)を切り離さない

「以前は自分の生活に演劇が浸食してくることを何となく敬遠していたんですよ。自分の時間を作ろうとか、どこかで線引きしてもがいていた。でもね、生きることと演劇を切り離す必要はないって思ったら楽になったんですね。
 例えば今、先週幕が開いた舞台(『ハーパー・リーガン』)と、今度の『タンゴ』と、その次の舞台と、その次の仕事と、他に自分のやりたいことを抱えていて、上手ではないけれど同時進行しているんです。同時進行させつつ、『ほかにもあれ試してみたいな』って考えてる。
 休みを取ろうと思うこともあるけど、かといってちょっと時間に隙間が見えると『ちょっとワークショップができるんじゃないか』と思ってしまう。だったら難しく考えずにどんどん進めていってしまおうと」。
 まさに人生すべてが演劇に浸っている。演劇に関係しない趣味は、との問いに「ないです! あ、酒だ!(笑)」と即答した。この人と 一晩酌み交わしたらどんなに豊かな気持ちになるだろうと思わず楽しい想像を巡らせる。人間本来の豊かな力を引き出し、豊かな時間を共有できる舞台が、この人の手によって次々生まれていくのだろう。 (文中敬称略)

【長塚圭史プロフィール】 75年東京都出身。96年演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を結成、作・演出・出演の三役をこなす。05年の作・演出作品『ラストショウ』で第13回読売演劇大賞優秀作品賞、06年の演出作品『ウィー・トーマス』で第14回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。平成20年度文化庁新進芸術家海外留学制度にてロンドンに1年間留学。帰国後、10年1月に阿佐ヶ谷スパイダース本公演『アンチクロックワイズ・ワンダーランド』作・演出、7月に舞台『ファウストの悲劇』出演、9月に舞台『ハーパー・リーガン』演出。次回演出作品、舞台『タンゴ』は11月4日より上演予定。


舞台「タンゴ -TANGO-」 11月5~24日@Bunkamuraシアターコクーン
「何もかも許されてて、自由なばっかりに、ここじゃもうにっちもさっちもいかなくなっているんですよ!」青年の荒ぶる魂は時代も国境も超えて観客を覚醒す るパワーに満ちている。でもその自分勝手さと滑稽さが少し切ない。ポーランドで現在も上演が重ねられる本作を森山未來x長塚圭史、待望の初顔合わせで上 演。巨匠ムロジェックの「可笑しく切ない」傑作戯曲を「コメディとして作る」と明言する長塚のもとに最強のキャスト・スタッフが集結した。

演出:長塚圭史/美術:串田和美/出演:森山未來、奥山佳恵、吉田鋼太郎、秋山菜津子、片桐はいり、辻萬長、橋本さとし
主催・企画・製作:Bunkamura/S席¥9,000  A席¥7,000  コクーンシート¥5,000

問:Bunkamura 03-3477-3244 (10:00-19:00) www.bunkamura.co.jp

文:羽田祥子(編集部) 撮影:岡本誠 ヘアメイク:須賀元子

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