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極めれば「ガンダム道」~今野敏(作家)~

極めれば「ガンダム道」~今野敏(作家)~

『宇宙海兵隊ギガース』に登場するCRONOS-PLUSもちろん今野氏作

子供向けではないからこその魅力

「隠蔽捜査」シリーズなどで知られる作家・今野敏氏は、ガンダム好きとして知られる。仕事場には著書や資料本に混じりガンダム関連の本がズラリと並ぶ。
『機動戦士ガンダム』シリーズ1作目のテレビ放映が始まった時、今野氏はすでに24歳。放映はまったく見なかったという。
 ではガンダムとの出合いは?「プラモデル(模型)です。大学を卒業後音楽メーカーに就職しましたが、そこでの仕事がきつくて。小説もすでに書いていたので、作家専業になろうと会社を3年で辞めました。ところが、小説の仕事はあまりなく時間を持て余していました。暇な日々に『何をしよう』『何がしたい』と考えたとき『プラモデル作り』が浮かんだんです。昔から好きでしたから。制作対象としてガンダムは魅力的でした」
 なぜガンダムに魅力を感じたのだろうか。その理由を今野氏はこう語る。「ガンダムは子供向けに作られていません。監督は大人こそが夢中になるよう意図して作っています。戦闘シーンで必殺技の名前を主人公が叫ばないアニメって画期的ですよ。『アムロ行きまーす』くらいしか言わない(笑)。第二次大戦をはっきりと意識していて、戦術などの運用を描き、戦争のつぼを押さえている。モビルスーツもロボットではなく、武器の一つとして描かれています」
 その頃、世間は空前のガンプラ(ガンダムのプラモデル)ブーム真っ只中。子供たちが新商品を求め店頭に列をなしていた。「27歳にして子供に混じって並ぶというのも嫌でしたから、『じゃあ、自分で作ってしまおう』とフルスクラッチを始めたんです」 
 フルスクラッチとはブロックや板型の樹脂からパーツを削り出し、模型を一から作ることをいう。
「作っているときは、そのことだけ考えていられます。無心になれる。しかも間違いなく世界で1体だけなのがフルスクラッチの魅力ですね」
 今野氏が作る模型は精度が高く、模型雑誌に連載を持つようになった。「作った模型を掲載していました。他にも作りましたが、ほとんどガンダムでしたね」

ガンダム、フルスクラッチ、射撃、武道などなど今野氏の好きなものが詰め込まれた小説『慎治』

仕事への繋がり

 連載を終えた後、編集者と企画を練る中で「次は物語を作ってみよう」との話になった。「ガンダムで描かれているのは独立戦争で、正義と悪の戦いではありません。立場を逆にして別視点で描くと正義も悪も変わるんです。また、画集などを見ていただければ分かりますが、たった1枚の絵から物語が広がっていくんです。妄想というか。ロマンがありますよね。外伝が多く描かれている理由でもあります」
 外伝が多いだけあり、世界観を重要視する版権管理側は厳密なガンダム年表を作成している。「時系列に矛盾があってはいけません。まるで歴史小説を書いているようでしたよ。さらにガンダムに詳しくなりました(笑)」
 2002年から2008年まで連載された物語は『機動戦士Zガンダム外伝 ティターンズの旗のもとに ADVANCE OF Z』として刊行されている。
 この連載に先駆け、1990年から今野氏はガンダムにインスパイアされ、スペースオペラ『宇宙海兵隊ギガース』シリーズを書いている。「ガンダムのアニメを見ていると、現実にはあり得ないことが起こっています。アニメだからそれでいいんですけど。例えば、宇宙空間で艦隊が並んで敵味方が対峙するというのはあり得ない。宇宙空間にあるものすべては各々軌道を描いており、その軌道を無視した動きはできないのです。そんな細かいことにこだわって小説を書きました。完結までに11年かかりましたね」
 登場するロボットは、もちろんフルスクラッチで作成している。数年前からは模型ファンのイベント「ワンダーフェスティバル」へ造形家として出展もしているという。
 ガンダムを作り続けたことにより、本業でも、趣味でも新領域に繋がっていった。
 好きなことを続ける秘訣について問うと「好きなことは止められても、止められない。一度離れたとしてもまた戻ってくるものですよ」との答えが返ってきた。


今野敏 (こんの びん)
1955(昭和30)年北海道生れ。上智大学在学中の1978年に『怪物が街にやってくる』で問題小説新人賞を受賞。レコード会社勤務を経て、執筆に専念する。2006(平成18)年、『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞を、2008年、『果断―隠蔽捜査2―』  で山本周五郎賞と日本推理作家協会賞を受賞。近著に『初陣-隠蔽捜査3.5-』『晩夏―東京湾臨海署安積班』がある

文:川口奈津子(編集部)

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