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「あの監督の映画なら」という信用を築きたい 映画監督 山崎貴

「あの監督の映画なら」という信用を築きたい 映画監督 山崎貴

1964年生。阿佐ヶ谷美術学校卒業後、CGプロダクション白組に入社。映画『ジュブナイル』で監督デビュー。『ALWAYS 三丁目の夕日』では、第29回日本アカデミー賞最優秀作品賞・監督賞など、最多12部門を受賞

“本当の戦”の姿をきちんと描写

「ずっと時代劇を作りたかったんです。当時の“本当の戦”って、プロ集団じゃない農民たちだから、槍の使い方も突 き刺すのではなく叩き合って脳震盪させて倒していた。作るならそんな本当の姿をきちんと描写しようと思っていました。でも手掛かりがなくて。良い原作があればリメイクしたい…と思っていた時にたまたまテレビで見たんですよね」。
それはクレヨンしんちゃんの映画『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』であった。たしかに巷で「大人が泣ける感動アニメ」として評価が高い。
「ストーリーも素晴らしい上に、両軍が徐々に寄ってきた後、お城で攻防戦を繰り広げ、夕方には一旦引き揚げる、という流れも戦の描写もすごくリアルだったんです。もうオイオイ泣いちゃいました(笑)」。

「女子(おなご)に弱く、戦に強い」を自然に演じ分けられる役者を

この映画はしんちゃんの、ではなく無敵の侍・井尻又兵衛と廉姫との悲恋のラブストーリー。その井尻に草彅剛さんをキャスティングしたことも興味深い。
「皆からはワイルドで強そうなわかりやすい“武将キャラ”の俳優が挙がりました。でも僕は違った。あのキャラクターは二面性を持っていて、戦場では“鬼の井尻”と呼ばれる無敵武将だけど『女子にはからきしダメなのじゃ』という人物で、自分の姫への恋心をが露呈するとものすごく慌てたり怒ったりと、奥手で可愛い部分があります。だから、その辺りをメインにしておかないとダメだと思っていたんです」。
決して草彅さんをか弱いと言っているのではない。実は「彼は徐々に違う人間性になっていく演技がうまい」とすでにテレビ業界で認められているのだとか。「彼はそのキャラクターになりきる憑依型ですね」。

CGでなく、あるものはきちんと使う

『ALWAYS 三丁目の夕日』ではVFX効果により、まさに昭和にタイムトラベルをして撮ってきたかのような見事な映像を見ることができた。当然、今回もその期待は高まる。
「最初に『しばらく戦の映画が作りづらくなる作品を作る』という目標を掲げて臨みました。今までありがちだった刀合戦の戦とは全然別の、“戦ファン&オタク”の人たちにもたまらないレベルだと思います」。
それは、何百何千もの兵士をデジタル処理した、というだけではない。
「戦国時代に行って撮ってきたようなものにするためには、今の時代劇のシステムではできないことがたくさんありました。城さえもです。当時の城は明らかに戦うための砦です。山を段々に削り曲輪(くるわ)を設え頂上に建物を建てた。でも現存していないから作ることにしました。CGではなく、あるものはきちんと使おうと思ったのですが、本当に大変でした。日本全国探し歩いて見つけた場所は、第一の曲輪に千葉の鴨川、第二の曲輪に石川県の山城跡地、そして一番上の部分に山梨県の風林火山館。
天守閣だけはデジタルで付け足し、でもその中は東宝のスタジオのセット。敵陣営のいる場所は阿蘇で撮り、最終的にこれを全部デジタルでつなげ、まるで一つの巨大な山城があるかのようにしました。阿蘇から走ってくると千葉に行き、少し上ると山梨で最後は東宝スタジオに辿り着くんです(笑)。でも本当にこういう場所がある、という感じがよく出ていますよ」。

皆が喜んでくれるものを

そんなに随所にこだわって作り上げた戦国映画だが、時代劇というくくりではなく「死が隣り合わせになった人の物語」と捉えてほしいという。
「非常に多面的な映画なんです。今まで以上に丁寧に戦国時代を描写しているのでブアイソー世代にも面白いはずです。そして実はすごいラブストーリーで、戦も何もかもが“LOVE”を際立たせるためのアイテムで、オリジナルで一番良かったと思う部分です。この井尻と廉姫の関係をきちんと映画にしたかった。 『特殊な条件の中で人はどんな思いをするのか』というところをぜひ見ていただきたいですね」。
この映画には流血場面は一切ない。残酷な描写で子供たちが観に行ける可能性を絶ってしまうことを恐れたからだ。
「残酷さがないとこの感情が伝えられないのは失格だと思いました。一つの挑戦でしたが、そのために小学生でも見られる映画になりました。子供たちが井尻たちの生き様から何かを感じ取ってくれれば嬉しいですね」。

自身のすべての作品で監督だけでなく、共同脚本とVFX(視覚効果)を兼任している

監督の目指すところは

老若男女問わず人を感動させる作品を作り上げる山崎監督、今後どうなろうとしているのか?
「『あの監督の映画だったら面白いよね』という信用を築いていきたいですね。信用を築くことで拡大していきます。その一番目指すべき例は宮崎駿監督。だから、しばらくの僕のテーマは『あの監督の映画だったら劇場に観に行く価値がある』という信用をどれだけ築いていけるかだと思っています。その上で、映画監督という仕事を続けるために、自分の好きなことで皆が喜んでくれるものを作っていきたいですね」。

© 2009「BALLAD 名もなき恋のうた」製作委員会

© 2009「BALLAD 名もなき恋のうた」製作委員会

『BALLAD 名もなき恋のうた』

監督・脚本・VFX: 山崎貴
出演:草彅剛、新垣結衣、夏川結衣、筒井道隆、大沢たかお
9月5日(土) 全国東宝系公開

映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』が原作。天正二年の戦国時代、春日という小国にいた無敵の侍・井尻又兵衛(いじりまたべえ)、通称“鬼の井尻”は命を懸けて春日の国の廉姫(れんひめ)を守り続 けていた。そしてお互い身分違いの恋を密かに抱く。ある戦の日、現代からやってきたという少年・川上真一のお陰で命拾いした。そこから井尻と真一の奇妙な 絆が生まれるが、果たして真一は現代へ帰れるのか? 武将と姫の恋の結末は?


文:鵜居かよ(編集部) 撮影(人物): t.SAKUMA

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