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シネマノキオク『戦場のピアニスト』

数奇な運命を辿ったユダヤ系ポーランド人
「私は――ピアニストです」

 ラブストーリー続きで食傷気味な非リアに、哀しく美しいピアノの旋律『戦場のピアニスト』(2003年2月日本公開)をご紹介したい。
 1939年、ナチス・ドイツがポーランドに侵攻したことから始まり、迫害・虐殺されるユダヤ人を目の当たりにしながらも生き延び、数奇な運命を辿ったユダヤ系ポーランド人ピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの自伝をもとに映画化された本作は、派手な演出やヒーロー、大げさな感動を呼ぶシーンなどは一切存在しない。また、これまでもナチスやユダヤ人が絡む映画は多数存在したが、そのどれもが「ナチス=悪人」「ユダヤ人=善人」と分かりやすい構図で描かれてきた。しかし、本作はナチスの中の良心、ユダヤ人同士の足の引っ張り合いなども包み隠さず忠実に表現されており、それを何もできず必死に逃げるしかなかった人間、シュピルマンの哀しみがひしひしと伝わってくる。単純なハッピーエンドでもなく、派手でもないからこそ一層リアルさを感じさせ、時代背景に詳しくなくとも観ることができる名作だ。
 
 本作はカンヌ映画祭で最高賞のパルムドールを受賞、アメリカのアカデミー賞(2003年)で7部門にノミネートされ、監督賞、脚本賞、主演男優賞の3部門で受賞……と数々の賞をさらった話題作で、監督のロマン・ポランスキーは幼少期に自らナチス占領下のポーランドで過ごし、母親を収容所で亡くした経験を持っている。主演のエイドリアン・ブロデイはシュピルマンの紳士的で柔らく優雅な物腰にぴったりの配役で、本作ではおよそ10キロもの減量を行って撮影に臨み、ピアノの特訓を受け本番では代役なしに演奏シーンをこなしたほどの入れ込みようだ。それが功を奏し、どこをどう切り取ってもこの配役以外にはあり得なかっただろうと思わせる。また、ストーリー中では肉体労働を強いられたり、爆撃から命からがら逃げ延びたりするシーンが幾度となくあるが、彼はピアニスト以外の何者でもなく、屈強さもすばしこさもない。ただ、その人の良さと運のみで逃げ延びたのだ。もしも彼にほんの少しでも強さや機転があったのならば、もしかしたらこのように生き延びることなく、処刑されたり収容所送りとなっていたかもしれない。仮に運良く生き延びたとしても、ピアニストの命ともいえる指を失っていたかもしれない――「“ただのピアニスト”だったからこそ助かる運命だったのかもしれない」と、うならせられる。
 
 本作の中で唯一惜しいとされているのが、翻訳の精度である。それも、ただ一点、ドイツ語での二人称である。
 ドイツ語では、見下した相手を「貴様」「君」は、「Du」と呼ぶ。本作のストーリー中も、ナチスはユダヤ人をこう呼んでいる。しかし、シュピルマンを助けたドイツ軍将校は、シュピルマンを呼ぶ際に「Sie」と呼んでいる。これは初対面の人に呼びかける丁寧な二人称「あなた」に当たるのだ。この将校はシュピルマンに対し、初めから敬意を表す呼びかけをしていたのだ。にも関わらず、翻訳において「おい、ユダヤ人」と訳されており、そこが将校の人間性を誤解されかねないと繰り返しファンの間では言われている箇所だ。本作を観る際には、留意して観てみてほしい。
 
 この冬、寒い部屋で毛布にくるまりながら、一切の音や光を遮断し、ジャムパンをチビチビと噛み締めて、ぜひ『戦場のピアニスト』をご堪能あれ。

ストーリー

ワルシャワのラジオ局でピアノを弾いていたウワディスワフ・シュピルマンとその一家は、ユダヤ人に対するゲットーへの移住命令により、40年、住み慣れた我が家をあとにする。ナチスの虐殺行為がエスカレートする中、ウワディスワフはカフェのピアノ弾きとして日々を過ごす。42年、シュピルマン一家は大勢のユダヤ人と共に収容所へ送られるが、ウワディスワフは警察の友人の手で一人収容所行きを免れた。43年、ウワディスワフはゲットー脱出を決行。旧知のポーランド歌手ヤニナの手引きで隠れ家に移った彼は、僅かな食料で食いつなぎひっそり暮らし続けた。だが隣人に存在がバレて脱出、親友の妹ドロータと彼女の夫のもとを訪ね、新しい隠れ家に住む。夏になる頃、ワルシャワ蜂起が始まり街は戦場となった。ある晩とうとう、ドイツ軍将校に見つかってしまったウワディスワフ。彼がピアニストてあることを告げると、将校は彼にピアノを弾かせた。演奏に感動した将校は、ウワディスワフをかくまってやり、その数週間後に終戦が訪れるのだった。

キャスト

エイドリアン・ブロディ/トーマス・クリッチマン/ランク・フィンレイ/モーリン・リップマン/エミリア・フォックス/エド・ストッパード/ジュリア・レイナー/ジェシカ・ケイト・マイヤー/ルース・プラット

スタッフ

監督・製作:ロマン・ポランスキー/製作:ロベール・ベンムッサ、アラン・サルド/脚本:ロナルド・ハーウッド/原作:ウワディスワフ・シュピルマン/音楽:ヴォィチェフ・キラール

ここがポイント!
ジャンル
戦争
オススメ度
★★★★★
対象
ロマンティックや派手なものを好まない人
誰と観たい?
お独り様
観ながら食べたいもの
ジャムパンとズブロッカ
これがあればもっと楽しめる!
戦場のピアニスト [単行本]
第2次世界大戦、ドイツ軍によるポーランド侵攻。ナチスのユダヤ人迫害のもと、多くの命が失われ、廃墟になったワルシャワの街を独り彷徨する若き芸術家の苦闘の物語。ポーランドの名ピアニスト、シュピルマンが自らの体験を綴った希有のドキュメント。
戦場のピアニスト [単行本]

  • ウワディスワフ シュピルマン (著)
  • 春秋社
  • 2003/02
シュピルマン オリジナル・レコーディング [CD]
『戦場のピアニスト』のモデルとなったポーランドのピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン(1911~2000)の演奏を集めたものである。
シュピルマン オリジナル・レコーディング [CD]

  • ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
  • 2003/02

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