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中谷美紀インタビュー「新たな挑戦」ふたたび。

舞台『猟銃』

中谷美紀インタビュー「新たな挑戦」ふたたび。

中谷美紀の記念すべき舞台デビュー作『猟銃』。
2011年にカナダと日本で上演され、
優れた芸術性と研ぎ澄まされた演技で観る者を圧倒した。
2016年4月。その『猟銃』が帰ってくる。
再演に挑む彼女は、今なにを想うのか――。

『猟銃』再演に込めた想い

 女優・中谷美紀。机を挟んで対峙する彼女は、微笑みを絶やすことなく、柔らかな表情を浮かべていた。
 丁寧に言葉を選びながら、澱みなく紡がれる声と凛とした佇まい。彼女は純粋に「美しい」と感じさせる魅力に包まれている。
 その中谷が、人生初の舞台として臨んだ『猟銃』が、5年の歳月を経て再び上演されることになった。
 2011年の初演では、カナダ・モントリオールや東京などで上演され、第19回読売演劇大賞優秀女優賞、第46回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞するなど、好評を博した。文豪・井上靖の短編小説を基に舞台化された本作は、ある男の13年間にわたる不倫の恋を描いた物語だ。男の妻、愛人、愛人の娘が男へと宛てた3通の手紙を通じ、三人の女性の胸に秘めた複雑な想いを描いている。
nakatani (3) 今回の再演について心境を尋ねられた彼女は、ひと呼吸置き、「再演を決めたのはもちろん私自身ですが、『なんで引き受けてしまったんだろう……』という後悔の念も少しだけあります(笑)」と語った。初演の時にも同じように感じたと言うが、それはこの舞台の難しさにあるのかもしれない――。
 この舞台で中谷は、立場の異なる三人の女性を一人で演じている。いわゆる一人三役なのだが、上演時間(約1時間40分)の間、ずっと舞台に立ち続け、ほとんど途切れることなく台詞が続く。役者にとって壮絶極まりない舞台だ。実はこの舞台にはもう一人共演者がいる。それはフィジカル・アクターのロドリーグ・プロトーだ。彼も再演に挑む一人なのだが、彼は言葉をひと言も発することなく、身体の動きだけで男の心情を表現するという難しい役どころである。しかし、膨大な量の台詞と観客の視線を一身に受け止める中谷の比ではないのかもしれない。
 インタビューで彼女は、「前回の公演は初舞台でしたので、とにかく毎日の公演に向かい合うことで精一杯でしたが、再演では井上靖さんが紡ぎだした美しい言葉とともに、よりよき『猟銃』をご覧いただけるよう頑張ります」と誓った。

初舞台で手にしたもの

 ここで、初演のステージについて少し触れておこう。愛人の娘、男の妻、愛人の順で演じられ、舞台セットはそれに合わせ、睡蓮の花が浮かんだ水面、玉石の敷きつめられた庭、長く延びる板間の部屋へと変化する。このシンプルだがドラマチックな演出の舞台装置は、それぞれの女性の心理描写を効果的に演出している。その場面展開に合わせ、中谷は舞台上で衣装を替えることで三人の女性を演じ分けた。
 圧巻なのは、男との関係を妻みどりが知るところとなり、己の命を絶つことを覚悟した愛人の彩子が、死に装束をまとう場面だ。このシーンで中谷は、舞台正面を見据え、美しい所作で着物を着つけていく。その間も滞ることなく朗々と台詞が語られる。普段から着物が好きで、着る機会も多いという中谷なのだが、30分にも及ぶこのシーンは、観る者からすると、やはり「凄い!」と声が漏れるシーンだ。彼女はこの初演での経験を振り返り次のように語った。
「セットも無いに等しく、小道具も僅かにマッチと線香と着物だけ。この作品の舞台に立ったことで、そもそも人は何も持っていないことを、突き付けられた様に感じました。もともと持っていなければ、失うものも無い。そのことに気づけたことが一番の収穫でした」

演出家フランソワ・ジラール

 この見事なステージを演出したのは、カナダ人の演出家フランソワ・ジラール。もちろん今回の再演も彼が演出を手掛ける。信頼を寄せるフランソワ・ジラールに対して、再演で中谷が期待することとは――。
「音のセンスと美的センスが際立っていて、私自身が好む美意識を共有できる演出家です。私は飽きっぽい性格なので、繰り返し演じることが求められる舞台では、惰性で演じてしまうことを常に恐れています。今回は再演ということもあり、作品に慣れてしまい惰性にならないように、いかに新鮮な気持ちで演じられるかが鍵になると思います。その点でも、フランソワ(ジラール)さんには、新鮮さを失わないコツを教えていただきたいですね(笑)」
 冗談めかしにも聞こえるが、この『猟銃』再演への意気込みを強く感じ取ることができた。きっとフランソワ・ジラールと共に新たな驚きを与えてくれるに違いない。彼女の舞台がとても待ち遠しく感じられる。


_ABE1483舞台『猟銃』

Story
一人の男の13年間にわたる不倫の恋を、妻・みどり、愛人・彩子、愛人の娘・薔子の3通の手紙によって浮き彫りにしたラブストーリー。ひとつは男の妻からの手紙、もうひとつは男の不倫相手からの手紙、そしてもうひとつは不倫相手の娘からの手紙……。三人の女性のそれぞれの胸に秘められていた思いが、男の中で交錯する。一人はその不条理を怒りにぶつけ、一人は自らも嘲りながら哀しみとともに力強く、そして、もう一人は井戸の底のごとく静かに、万華鏡のように変幻する三人の女たちの心の中にある愛と憎を浮き彫りにしていく――。

原作:井上靖
翻案:セルジュ・ラモット
日本語台本監修:鴨下信一
演出:フランソワ・ジラール
出演:中谷美紀、ロドリーグ・プロトー

●公演日程
2016年4月2日(土)~4月24日(日) パルコ劇場
●お問い合わせ:パルコ劇場
TEL 03-3477-5858 www.parco-play.com

Profile

中谷美紀(なかたに・みき)
1976年生まれ、東京都出身。確かな演技力と透明感のある佇まいで多数のTVドラマ、映画で活躍。03年『壬生義士伝』で第27回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。06年『嫌われ松子の一生』で第30回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞など多数受賞。また初舞台となった11年パルコ・プロデュース『猟銃』(USINEC・パルコ劇場他)で第46回紀伊國屋演劇賞個人賞、第19回読売演劇賞優秀女優賞を、さらに13年のパルコ・プロデュース『ロスト・イン・ヨンカーズ』(パルコ劇場他)のベラの演技により、第21回読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞した。近年の主な出演作品に《映画》『リアル〜完全なる首長竜の日〜』(13/黒沢清監督)、『清須会議』(13/三谷幸喜監督)、『利休にたずねよ』(13/田中光敏監督)、『乾き。』(14/中島哲也監督)《TVドラマ》『花の鎖』(13/CX)、『軍師官兵衛』(14/NHK)、『宮本武蔵』(14/EX)。『縫い裁つ人』(15/三島有紀子監督)。2015年6月マックス・ウェブスター演出『メアリー・ステュアート』(パルコ劇場)では迫真の演技で観客を魅了した。

文|江崎充哉(編集部) 写真|伊藤彰紀(aosora) スタイリング|岡部美穂 ヘアメイク|下田英里

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