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己、役者につき。~花咲熱男物語~ 市川海老蔵

己、役者につき。~花咲熱男物語~ 市川海老蔵

『疾風如白狗怒涛之花咲翁物語。』

「長い!今でも見ないで言えないくらい」と海老蔵が笑うのは、初の自主公演『ABKAI-えびかい-』で披露する新作歌舞伎のなが~いタイトル。なんでも、初お目見えの際には気になるところがあったようで……。
「素晴らしい題目だと感心する一方、どこかしっくりいかない感じがしたんです。そこで画数を数えてみたところ、これが中途半端!最後にマルを足したらスッキリしました」と、細部まで妥協なき姿勢がいかにも彼らしい。
 日本昔話『はなさかじいさん』を題材に、宮沢章夫(脚本)と宮本亜門(演出)を迎え、超異色コラボレーションで展開される本作は、どのようにして産声を上げるに至ったのだろうか。
「子供の頃、アニメ『まんが日本昔ばなし』を見ていて楽しかった記憶があります。歌舞伎にはいろいろな題材があるのに、なぜ未だ日本昔話はないのか、以前から不思議で仕方なかったんです。これは自主公演の幕開けに、ぜひチャレンジすべきと思い立ちました」
「ワクワクしている」と楽しげな表情を浮かべる海老蔵が今回演じる役柄は、無論はなさかじいさんかと思いきや……。
「ここ掘れワンワン(笑)。ほかにも何役か掛け持ちますが、基本的には犬です。これは歌舞伎だからこそできるユニークな役柄でしょう。今回は宮沢さんと宮本さんという、才能豊かなお2人のご協力のもと、私たちが知る日本昔話の概念をいい意味で裏切るような革新的な舞台をお届けできそうです。あえて主役がはなさかじいさんではない物語も、なかなか乙なものでしょう」
 そう話す彼の悪戯な笑みが、見る者の期待を一層のこと掻き立てる。ちなみに、役柄の参考になるようなワンちゃんはいるのだろうか。
「それがいないんですよ~。けれどこれまで、歌舞伎の『義経千本桜』で狐役は演じているので、それが活きるかもしれません(笑)」

運命の舞台

 市川家・成田屋といえば、“荒事”歌舞伎。本公演では、その伝統演目である歌舞伎十八番『蛇柳』の復活上演にも挑む。数ある十八番の中からあえて本作を選んだ背景には、自身のメンタル的
要素が深く関わっているという。
「今から6~7年前、高野山で実際に蛇柳を見たのですが、あのとき受けた衝撃は凄まじいものがありました。けれど『蛇柳』のストーリーにある、柳が蛇に見えるという感覚を当時はあまり理解できなかったんです。しかし最近、表現法がこれほど多様化した現代だからこそ、あえて歌舞伎という二次元の平面的表現手段を用いれば、蛇柳のもつ精神状態を具体化できるのではないか―― そう、自分の中でスコンと腑に落ちる何かがあったんです。それはおそらく、亡き父・團十郎や諸先輩方がこれまで繋いできた伝統を守りつつ、歌舞伎を次なるフィールドへ向かわせる決意めいたものが、私の中で固まったからなのかもしれません。そういう意味でも、今回の自主公演には『行くぞ』というどこか運命的な使命を感じています」
 それには彼自身が父となり、守るべき存在ができたことも影響しているのか聞いてみると、「どうでしょう」とややうつむき加減に照れ笑いを浮かべる海老蔵であった。

あなたはまだ、本当の市川海老蔵を知らない

 今年、海老蔵は役者30周年迎えた。幾多の壁を乗り越え、果敢に芸道に突き進んだこの年月を一言で振り返ってもらった。
「そのままですが『30年かい!』でしょうか……。これまでの役者人生を振り返ってみると、己が己でない部分が多かった気がします。それは歌舞伎の伝統の中で生きるという意味合いにおいて、“己の芸とは何ぞや”という確たる部分を探る、役者としての過渡期にあったからなのかもしれません。ここから先の30年は、己が己でありたい。伝統を大事にしながら、常に新しい可能性に挑み、いい意味で壁をぶち壊していたいです」
  ブチコワス―― 果たして海老蔵は、役者としてどのような冒険を見据えているのだろうか。
「例えば、伝統的な歌舞伎十八番の演目をすべて演じる。おそらく市川團十郎家でもすべてを演じた役者はいないでしょう。私がそんなスケールの大きな目標を立てることができるのも父のおかげだと思います。父は小さな頃から傍らで、手取り足取り芸を仕込んでくれました。私にとって歌舞伎といえば、父そのもの。そんな父から繋いだ歌舞伎の精神を、今度は私が次なる世代に渡す役割を担っていると感じます」
 そんな海老蔵、最近は歌舞伎以外でも、古き良き日本文化に触れる。
「茶道を嗜んでいるときが心落ち着く時間です。歌舞伎もそうですが、伝統ある日本の精神に触れることは心持ちが締まる気がします。今、散歩も好きなんですよ。お目当ては、寄り道のカフェでのティータイムだったりするんですけどねっ(笑)」
 最後に『ABKAI-えびかい-』にかける想いを聞くと、彼が果たす真の役が見えてきた。
「ある監督がなぜ映画を撮るのかと聞かれ、『このシーンが撮りたいから』と答えていました。今回、僕にとってのその場面は、はなさかじいさんが枯れ木にパッと花を咲かせる、まさにあそこなんです。その瞬間のほっこりとした心温まる雰囲気を、お客さんと一緒に楽しむ。これぞ歌舞伎の醍醐味だと思います。まずは劇場内、ひいては日本中を明るく元気にしたいと思います」

 現代版はなさかじいさんは、この先、己の人生にどのような花を咲かせるのだろうか。熱き男の物語からまだまだ目が離せない。


撮影 篠山紀信

市川海老蔵 第一回自主公演
『ABKAI-えびかい-』

一、歌舞伎十八番の内『蛇柳』
脚本:松岡亮/ 振付・演出:藤間勘十郎
二、新作歌舞伎
『疾風如白狗怒涛之花咲翁物語。~はなさかじいさん~』
脚本:宮沢章夫/演出:宮本亜門
出演:市川海老蔵 片岡市蔵 上村吉弥 片岡愛之助 ほか
2013年8月3日(土)~ 8月18日(日)
劇場:Bunkamuraシアターコクーン

<お問い合わせ>ABKAI公演事務局
0570 – 025 -999(10:00~18:00)
abkai.jp

インタビュー・文|松永理佐(編集部) 撮影|TAKA ヘアメイク|拓植伊佐夫 スタイリスト|大久保篤志

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