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女優、誕生~三根 梓インタビュー~

女優、誕生~三根 梓インタビュー~

何もかもが突然で不安だった

 映画への出演どころか、演技の経験すらない。それにも関わらずいきなり主演に抜擢された。何もかもが初めてで、右も左もわからない。これまで体験したことのない世界に、撮影序盤は戸惑うことしかできなかったという。
「演技のレッスンを受けていたわけでもなく、勉強も全然していない。(主演の決定が)突然で不安だらけでした。例えば、谷口(正晃)監督に『手が死んでる』と指導されても、何を指摘されているのか全く理解ができなかったほどです」
 撮影現場で顔を合わせる共演者たちも「テレビで観る方たち」ばかり。三根が演じる杉本ルカは、若くして地元の古い映画館「銀映館」の映写技師長を務め、新人に映写技術を指導する“親分肌”。にも関わらず、撮影現場では恐縮しきりで、なかなか役柄に入り込むことができずにいた。

「年齢が近く、共演シーンが一番多かった西島(隆弘)さんとですら、最初は目を見て話すこともできませんでした。西島さんに怒る場面でも『怒り返されそう』と勝手に思い込んでしまって……仕事として演技をしなくてはいけないというのは理解していましたが、最初はすべてのことに遠慮してしまっていました。そんな空気を察知してくれたのか、西島さんが『三根さんは人見知りでいやかもしれないけれど、これからたくさん話しかけるからな!』と声をかけてくれて。それから少しずつ自然なやり取りができるようになり、演技もスムーズになりました。西島さんをはじめ、現場の皆さんが私を演技の世界に入りやすいようにしてくれていたんですね」
 周囲の温かい雰囲気に包まれながら、何日もかけて行われた撮影の中で学び、意識し続けたのは、頭で計算して演技をするのではなくて気持ちで臨むこと。
「集中して役の気持ちに寄り添う。『ルカ』として現場に立てばセリフも動作も自然に役についてくるんです」

成功も失敗もすべて吸収できた

 三根が演じるルカは、3年前に起こった“とある事件”で心に傷を負い、銀映館から一歩も出られなくなってしまった映写技師という役柄。固く心を閉ざしてしまったルカは、その後、恵介(西島)との出会いや、自分の過去を知るウルシダ(高良健吾)との再会により、感情を大きく揺り動かされる。谷口監督が「カオス」と表現するほど複雑に入り組んだ感情を捉えるのに苦心した。
「序盤のルカは自分の殻に閉じこもって、感情を表に出さずに恵介にもすごくクールに接します。でも、台本を読み進めると、ルカが本来持っている明るさや女の子らしも見えてきました。その心の変化をうまく演じられないと、ただの冷たい女の子になってしまうので、ルカの本当の温かさや優しさをどう表現するか。演じる時はそれが一番難しいと感じました」
 現場では、撮影するカットが必ずしもストーリー順通りとは限らない。前後で全く関わりのないシーンを撮ることにも苦労した。
「すごく落ち込んでるシーンを撮って、その直後に楽しくパーティーしているシーンを撮影したり。前のシーンとの気持ちのつながりを忘れないようにするために、その日の撮影で感じたことを台本に書き留めて、時間が空いてもすぐに思い出せるようにしました。一つひとつのことを丁寧に扱わないと、ルカの気持ちの変化についていけなかったので、毎日いっぱい台本に書き込んで。一つずつ思い出しながら、気持ちを整理して何とか乗り切りました」
 クランクアップ間近、谷口監督は三根の顔を見て「凛とした顔つきがたくましく見えた。この時に、ふと『女優が生まれたんだ』と思った」という言葉を残している。
 ルカは恵介に出会ったことで、暗い過去から抜け出すことに成功した。一方で、ルカを演じた三根も、この作品を通じて女優としての一歩を踏み出し、そして成長することに成功した。
「成功も失敗も、すべてのことをスポンジのように自分の中に吸収することができました。デビュー作でもあるので、この撮影のことは一生忘れないんじゃないかと思いますね」

幅広く演じられる女優に

 子どものころから映画やドラマが大好きで、画面の中の女優がキラキラ輝いて見えた。「ずっとあこがれはありましたが、周囲の目もあって自分で(オーディションに)応募するのは恥ずかしかった。だからなかなか最初の一歩が踏み出せなかったんです」
 転機が訪れたのは中学2年の時。知人に福岡のモデル事務所を紹介してもらい面接に行ったところ合格。その後、東京の大学へ進学するタイミングで現在の事務所に移った。目標は九州出身で、同じく女優デビューが映画の主演という事務所の先輩・田中麗奈。
「堂々としたオーラが感じられる凛とした姿に、女優としても女性としてもあこがれています。『こういう役しかできない』ではなく、麗奈さんのように、幅広く、色々な役を演じられる女優になりたいですね」
 CMや三根を追ったドキュメンタリー番組など、すでに今後に向けた出演オファーが次々と舞い込んでいる。“最初の一歩”をためらっていた少女は、一足飛びにスターへの階段を駆け上がった。
 急激に変わる環境。目まぐるしく過ぎる日々と慣れない仕事に戸惑いながらも「毎日新しいことばかり。私、今すごく楽しいですね」と笑顔を見せる。
「経験もないのに女優として主演デビューできたのは私がたくさんの人に支えられているから。演技が難しくて悩んだり、逃げ出したい時もありますが、皆さんが温かく応援してくれます。その気持ちをしっかりと受け止めて、これから走り続けたいと思います」


シグナル ~月曜日のルカ~
キャスト:三根梓、西島隆弘(AAA)、高良健吾、井上順、宇津井健、白石隼也ほか
監督:谷口正晃
原作:関口尚『シグナル』(幻冬舎文庫)
6月9日(土)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
signal-movie.com
ストーリー
東京の大学に通う恵介は夏休みの間だけ故郷の古い映画館でアルバイトをすることに。そこで出会ったのはミステリアスな映写技師ルカ。「月曜のルカは憂鬱なのでそっとしておく」など不思議な3つの約束を課せられた恵介だったが、ルカに仕事を教わるうちに次第に彼女に惹かれていく。そんなある日、謎の男ウルシダレイジが現れ、ますますルカの謎が深まっていく……

文:太田健司(編集部) 撮影:堂本正令 ヘアメイク:森本淳子(GON.) スタイリスト:渕上優樹

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