BUAISOトップページ > インタビュー > 表紙の人 > 葉加瀬太郎
インタビュー/interview
表紙の人
葉加瀬太郎「人生がきらりと輝く音楽を届けたい」
ふと耳にした旋律に心を掴まれ、目の前がひらける感覚を味わったり、きらりと光る瞬間を感じる音楽がある。葉加瀬太郎が生み出す音楽がまさにそれだ。テレビ番組の曲として誰もが知る『情熱大陸2007』や『エトピリカ』をはじめ、多くの印象的なメロディーを生み出してきた。N響のコンサートマスターを夢見た子どもが、東京藝術大学在学中に「クライズラー&カンパニー」として鮮烈にデビューし、ソロとしてもエンターテインメントの世界を確立した。現在はロンドンの自宅で愛するブラームスの譜面と向き合い、再びヴァイオリンを極めようとしている。毎年恒例となったお祭りのように楽しいコンサートツアーが終盤を迎えた11月、英国調のインテリアに午後の光が差し込むホテルの一室で話を聞いた。
恋したロンドンに住む
―ロンドンに移住して5年目を迎えましたね。
世界中の都市を回りましたが、ロンドンに恋してしまったんです。結婚前から家内にも、いつかロンドンに住むと宣言していましたね。街を好きになる一番の要因は建物や景観だと思うんですよ。煉瓦の家も好きだし、白い窓枠も好きだし、タクシーは黒がいいと思うし、バスは赤がいいと思うし、公園は緑がいいなと思う。僕が欲しいものが全部あるんです。街の匂いも好きだし、なんとなくどんくさい人たちも大好きですね。
島国に住む人間同士の類似性もあると思う。世界地図を見ると、英国と日本はユーラシア大陸を挟んで見事にシンメトリックに位置しているんだよね。英国の人がドイツやフランスに対して思っていることは、僕らが韓国や中国に対して感じていることととてもよく似ていると思う。明治以降の近代国家は英国に学んで作ってきたわけだから、日本でもちょっと正式でトラディショナルな趣きというと英国調になるよね。子どものころから大好きなの。落ち着きますね。
―4歳からヴァイオリンを始めたそうですね。
ずっと「クラシックおたく」でした。小学生の頃一番好きだったテレビ番組はNHKの「N響アワー」。N響のコンサートマスターになりたいと本気で思っていましたね。好きなヴァイオリンが弾けて毎週テレビに出られるなんてこれはおいしいと。目立ちたがり屋だったからね。
―クラシック音楽が好きな目立ちたがり屋ですか。
日本では300年間のヨーロッパの音楽を総括してクラシック音楽って呼びますけど、昔のポップスですからね。ヴァイオリンは19世紀に花開いて、演奏家が名人芸を見せびらかしていたんです。僕らのバンド名の由来にもなったフリッツ・クライスラーは大スターのはしりで、バロック時代の音楽を見つけてきたと言っては自作の曲を演奏して、勉強家だと高く評価され、数十年後にあれは嘘だったと批評家たちを煙に巻いたの。かっこいいよね。ロックミュージシャンがもてはやされるのと一緒ですよ。単なるファン心理です。
―もっとも好きなのは…
ブラームス!
―即答ですね。
ブラームスに傾倒したのは高校時代ですね。恋愛に悩んでいるときに寄り添ってくれた。みんながサザン(オールスターズ)の曲に気持ちを投影するのと同じです。クラシック音楽のすごいところは、その人の人生すべてを知ってしまえること。どう生き抜いて何を遺したか、ブラームスの64年間の生涯から男の人生を知るんです。僕にとってブラームス以上の音楽はどこにもないです。
芸大で受けたカルチャーショック
―東京藝術大学ヴァイオリン科に入学後、新しい世界に目覚めたそうですね。
衝撃だったのは美術系の学生のクリエイティブなパワーでした。粘土とか針金で作ったものを「これは僕です」とはっきり言う。それがとてもうらやましくなったんだよね。僕らが目指していた、譜面を解釈して再現する「再現芸術」――この素晴らしさは今とてもよく分かるんだけど――が信じられなくなって、つくりだしたいという欲求が爆発しました。
伝手を探してポップスのアルバイトばかりしていました。長かったのは劇団四季のオーケストラピットの仕事です。お金も欲しいけど、それより目立つチャンスが欲しかったから、ヴァイオリンソロになると椅子の上に立ち上がって弾くんです。役者さんたちが面白がってくれて、特に市村(正親)さんはかわいがってくれました。たまに浅利(慶太)さんが抜き打ちで観に来られると、始末書を書かされてその日のギャラはなくなるんですが(笑)。バンド結成までの2年間あらゆるアルバイトをしましたね。
―ヴァイオリン、ベース、キーボード編成のバンドが派手な衣装でダンスを踊る。クライズラー&カンパニーは強烈な印象でした。
クラシックの名曲をポップス化し、ダンサブルにビジュアル化させるという企画色の強いものでした。ヴァイオリンを弾いていないところは全部ステップが入っていましたから(笑)。本当は自分たちの音楽を生み出したかったけれど、その環境を作れなかった。だから解散しました。走り続けた6年間でした。
セリーヌ・ディオンに教わった力
ソロになってすぐ、3年間セリーヌ・ディオンのワールドツアーに同行しました。毎回1曲だけの参加でノーギャラでしたが良い経験でしたね。当時の僕はプリミティブな理解されづらい音楽に傾倒していたんですが、10万人の観客が地響きのように盛り上がる姿に、誰もが分かる音楽の尊さを思い知らされました。セリーヌは「みんな騒ごうよ!」とビートルズの『ツイスト&シャウト』とかを歌い始めるんです。僕は「ダサい!」と思ったけど、その「ダサさ」は4歳の子どもから80歳の年寄りまでみんなを楽しませる力だった。その点をすごく勉強したと思います。
―ご自身もエンターテインメントに徹したコンサートツアーの最中ですね。
年間約100公演のペースを20年間続けてきました。ライフワークであり活動の中心になっていますね。コンサートはお祭りですから、あらゆることを詰め込んで思い切りエンターテインメントに徹しています。
-8月にリリースしたベスト盤CDはご自身による選曲でした。
かわいがってもらった曲という基準で選びました。自分の思いを曲にしたいとは一切思いません。「使える」曲を作りたいんです。例えば土曜の朝、なかなか起き上がれない時に僕の曲を聴いて、窓を開けてみようかという気持ちになる、そんな音楽を作りたいですね。僕自身がそうやって音楽を使ってきましたから。一日をきらりと輝かせ、人生を彩る音楽の力を信じているんです。
60歳を目標にブラームスを弾く
―再びヴァイオリンに本格的に取り組んでいると伺いました。
音楽コンクールで優勝された古澤巌さんを14歳の時に知り、切り抜きを集めるほどファンになったんです。18歳で偶然の出会いがあり、2年間一緒に活動させてもらいました。そして30代半ばで奇跡的に再会した時、ヴァイオリニストとして大きく進化していた古澤さんにショックを受けたんです。デビュー後の僕はヴァイオリン音楽のレパートリーや幅を広げることに情熱を傾け、弾くこと自体に一生懸命だったとは言えなかった。しかし古澤さんは、幅広く活躍しつつもヴァイオリン弾きとしての筋が一本通っていたんです。50歳目前の古澤さんは、僕が10代の時に一緒に弾いていた古澤さんよりもっとヴァイオリンが上手だったし、14歳の時に憧れた古澤さんよりもっともっと上手だった。「なあ葉加瀬、今からでも間に合うからさ、一緒に80歳までヴァイオリン弾こうよ」とぽつんとお酒の席で言われた時、頭を殴られたような気がしましたね。ロンドンへの移住を決意したのもこの時です。日本での仕事から離れて集中して練習しよう、と。
―具体的な目標はありますか。
高校の時から大好きだったブラームスだけは自分が納得できる形で弾きたいですね。読むほどに奥が深くてよく書かれている曲なので60歳までかかると思います。譜面を紐解いていくのは手紙を読むようなものですね。感情の揺らぎや筆の揺らぎを感じながら、彼の性格を読み解き、音楽の成り立ちを読み解く。やりがいがあります。今は時間があればブラームスの譜面を読みたいですね。60歳の時にヴァイオリンソナタ3曲をレコーディングしようと思ってます。これは全く売れなくていい。個人的な人生の目標ですね。
英国と日本を往復しながら世界を旅する葉加瀬。活動拠点と音楽の幅をますます広げている。4歳から積み上げた本格的なクラシック音楽と、ヴァイオリン音楽の幅を広げたエンターテインメント性の高い活動が、混ざり合ってそれぞれの濃度を高め、より高いレベルでの音楽活動につながっている。60歳でブラームスをレコーディングし、80歳までヴァイオリンを弾く。40歳を超えて遠い目標に向かう葉加瀬の笑顔は底抜けに明るかった。(敬称略)
1968年1月23日大阪生まれ。東京藝術大学在学中の1990年、クライズラー&カンパニーのヴァイオリニストとしてデビュー。解散後ソロととして活躍。1996年より3年間セリーヌ・ディオンのワールドツアーに参加し名を世界に広めた。2002年に自身が音楽総監督を務める「アーティスト自身が自由に創作できるレーベル」HATSを設立し、プロデューサーとしても本格的に活動する。毎年、全国ツアーを含め約100公演を行う。8月にCD『THEBESTOF TAROHAKASE』をリリース。9月から続く全国ツアーは12月に東京、大阪、名古屋など6都市11公演を予定。
『THE BEST OF TARO HAKASE』デビューから20年間の作品を葉加瀬太郎がセレクトした究極のベスト・オブ・ベスト
初回生産限定盤 3,990円 通常盤 3,150円 発売中
発売元:ハッツ・アンリミテッド
自分で自分らしいスタイルを楽しむセレクトショップ SHINAZINA
特集/Special
人気記事ランキング/Ranking
- 01
-
- BUAISOインタビュー
- 秋田に起きた奇跡 国際教養大学~中嶋嶺雄学長インタビュー~
- 03
-
- BUAISOインタビュー
- クロスメディア時代の広告 博報堂ケトル クリエイティブディレクター 嶋浩一郎氏
- 04
-
- BUAISOインタビュー
- ルミネ会長 花崎淑夫氏インタビュー「お客さまの期待の先を行く」
- 05
-
- 表紙の人
- 吉瀬美智子「幸せかどうか、それが基準」
- 06
-
- 表紙の人
- 原田知世「新しい扉が少しずつ開いた」
- 08
-
- 表紙の人
- 滝川クリステル「モナリザの新しい挑戦」
- 09
-
- 表紙の人
- 宮本亜門「演劇の可能性を知ってほしい」













