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秋田に起きた奇跡 国際教養大学~中嶋嶺雄学長インタビュー~

秋田に起きた奇跡 国際教養大学~中嶋嶺雄学長インタビュー~

「国際的に活躍できる人材の育成」 この理念をどう実現したのでしょう

中嶋学長 特に目新しいことをしたわけではありません。むしろ最もオーソドックスなことをしたと思います。大学にとって一番大事なカリキュラム、つまりどのような授業をするかということに徹底してこだわりました。
 すべての国立大学と公立大学は3分の2が法人化されましたが、設置形態が変わっても、大学の中身は変わっていないところが多い。大学自治、教授会自治を隠れ蓑にして既得権に安住している教員が大勢いるとカリキュラム改革はできません。この一番オーソドックスなことをいまだにできていない今の日本の大学は、その多くが深刻な事態にあるといっていいでしょう。
 僕も長い間、国立大学(東京外国語大学)にいたので、日本の大学はこのままでよいのかという反省と強い危機感がありましたね。 そこで「世界を舞台に活躍できる人材の育成」を教学理念に掲げ、グローバル社会が求める人材ニーズを満たす大学として「語学と国際教養」に力を入れようと考えました。

「全てを英語で学び、英語で考える授業」を行い、「外国人留学生と共に暮らす1年間の寮生活」と「世界トップレベルの提携大学への1年間の海外留学」を義務付け、TOEFLスコアで550以上、GPA(累積成績評価平均点)2.5以上の取得を留学条件に課すなど、あえて高いハードルを設け、卒業要件を厳格化したのです。実際に4年間で卒業できる者は50%ほどしかいません。
 世界を見渡すと、高等教育機関には人材養成という使命があります。学生たちは勉学に励むのが普通です。一方、日本の大学は、入ってしまえば4年間で9割以上の学生がいとも簡単に卒業できてしまう。このギャップを知る教員や学生たちが、グローバル・スタンダードを掲げるAIUの理念に共鳴してくれたことが、理念の実現へと導いてくれたのだと思います。

 実際、開学時、15名の教員募集に対して全世界から567名が応募してきました。AIUはリサーチスクールではありませんから、研究歴は関係ありません。2カ月間かけて全員にインタビューと模擬授業をしてもらい、優れた教え方をする人を選びました。私も学長として受験生確保のためにあちこちの高校や予備校へ講演に行きましたよ。おかげさまで多くの志願者が集まり、好スタートが切れました。100%の就職内定率は社会からの高い評価だと受け止め、ありがたく思っています。

世界標準のエリート養成に何が必要でしょうか

AIU’S PARTNER INSTITUTIONS( 2011年1月現在)

AIU’S PARTNER INSTITUTIONS( 2011年1月現在)

中嶋学長 まず「英語でのコミュニケーション能力」と「広く深い教養」をしっかりと身につけてもらうことです。今、世界では総合的に物事を俯瞰できる力が求められています。一方日本では、18歳というまだ右も左もわからない若者が文系と理系に分けられ、偏差値によって進学先を決められ、さらに一度その学部学科に入ってしまうと、卒業後の進路や職業まで決められてしまう状況にあります。このように、若者が早い段階で小さな小部屋に閉じ込められてしまうような状態を、私は「コンパートメンタリゼーション(小部屋化)」と呼んでいます。一度入ってしまうと簡単には出てこられない。これはグローバルな流れに明らかに逆行しています。
 1991年以降、日本が内実を伴わない大学院重点化を進めた結果、大学の学部における教養教育が一気に空洞化しました。外国語教育を含めた教養教育は、人格形成や人間性の涵養に必要であり、この知的土台の上にこそ高度な専門性が身につくのです。入学早々スキルや資格の取得に励むというのでは、世界標準のエリート養成にはほど遠く、これは日本の将来にとって由々しき事態と言わざるを得ません。

 もう一つ重要なことは、日本の高等教育が世界標準のエリートを養成する「システム」の確立です。高等教育がシステムとしてそうならない限り、日本はあと10~20年で、アジアからも取り残されてしまうでしょう。
 AIUはゼロからのスタートだったので、大学のマネジメントやガバナンスを学長のリーダーシップの下で実行できる体制が出来上がっています。大学は、お金だけではなく、速やかで透明性のある意思決定によっていくらでも改革ができるのです。
 例えばAIUでは、世界中に広がる113(2011年1月現在)の提携校と、クレジットのトランスファー(履修単位を大学間で交換できるシステム)を可能にしています。授業コードをグローバルスタンダードにしており、100番台は入門編、400番台は応用編などといった世界共通の仕組みを取り入れることで、学生たちは互いの大学でどのような授業が学べるのか、インターネットを通じて事前に理解できます。

 また、欧米の大学で評価手法として標準的に使われているGPAは、日本の大学ではまだ十分に普及していません。 日本の政府は「留学生30万人計画」などと言っていますが、実際の運用面ではこのように世界標準からかけ離れています。教授会などの旧態依然とした組織がいまだに強いところでは、学長個人の危機意識だけでは、戦い疲れてしまうケースも多いのではないでしょうか。日本の政治家、有識者自身がこの問題に強い危機感を持たなければなりません。


聞き手:加藤紀子(編集部)

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