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ルミネ会長 花崎淑夫氏インタビュー「お客さまの期待の先を行く」

ルミネ会長 花崎淑夫氏インタビュー「お客さまの期待の先を行く」

「駅ビル」とは呼ばせない

年表 ルミネの源流は国鉄の駅ビル事業である。大宮、北千住、新宿、横浜など、首都圏のターミナルにある駅ビルをそれぞれ独立して運営していた企業を合併、その翌年に立川駅ビルとの合併により株式会社ルミネがスタートした。駅立地の優位性から売上はおおむね順調ではあったが、91年のバブル崩壊で消費が低迷し、成長は右肩下がりとなる。駅の集客力だけに依存する経営では未来は見えない。
 花崎会長は、01年の社長(00年副社長)就任当時を次のように振り返る。
「かつてのルミネには駅の集客力に安易に依存する気楽な大家的風潮がありました。出店者の売上が減っても、安定した賃料が入ってくれば自分たちの事業は維持できます。お客さまがどう変わろうが、ルミネに不都合はないわけです。ルミネが業種分類では不動産管理業であることに間違いはありません。しかし、なぜ駅の集客だけに依存した体質から脱却しなければならなかったのか。00年当時、日本はすでにオーバーストア状態でした。その後もさらに加速しています。本当に自分たちが世の中に必要とされるのか。選ばれる存在でなければお客さまには節約の対象としてスルーされてしまう。そうなると自分たちの将来はないと考えたのです。ルミネと出店者だけを見ればBtoBですが、その先はお客さま=Cなんですね。すべての判断基準がお客さまに向いていけなければ、出店者とともに沈没していくだけです。だから我々には出店者の運命共同体である小売業としての認識が必要なのです」。
 駅には強大な集客力がある。大勢の人が通過し、その一定の割合がたまたま入店し、そのうちの数割がたまたま購入する。
「前面通行量に『偶然』を掛け算して売り上げを想定するのは、ドラッグストアやファストフード業界の常識です。駅のコンコースだけならそれでいい。しかしルミネは立体的なビルであり、少しでも多くの方に上の階に来ていただかないといけないのです。偶然に頼らずデスティネーション(目的)型に変えていかなければなりません。
 わざわざ来ていただくためには、対象を明確にする必要があります。ルミネは建物がそれほど大きくないため、百貨店のように客層を幅広くというフルライン展開は不可能です。ターゲット顧客層が通勤帰りだけでなく休日にも足を運んでくださるためには、わざわざ来ていただくに値する店舗と商品展開が必要となるのです」。
「お客さま」の想像を超えて新しいものを提案できてこそ価値を生む。これを実現できるパートナーとなる出店者がルミネには絶対に必要だった。

セレクトショップの誘致

ルミネ花崎会長

花崎淑夫(はなさき・よしお) 静岡県出身。1968年(昭43)東大法卒、同年日本国有鉄道入社。90年東日本旅客鉄道総務部長、93年取締役、96年常務を 歴任。2001年6月ルミネ代表取締役社長に就任。09年6月会長 に就任。現在に至る

 花崎会長は、ルミネのメインターゲットを日本で最も元気な20代、30代の働く女性と明確化し、ベストパートナーを誘致しようと考えた。そのためにふさわしいショップとは、今やルミネの顔となった感のあるユナイテッドアローズ、ビームス、シップス、ベイクルーズグループ(ジャーナルスタンダード、エディフィス、イエナ、スピックアンドスパン他)などの日本を代表するセレクトショップだ。ルミネの理想を実現するために、こうしたファッションリーダーに編集の中心メンバーに入ってもらわなければならなかった。現在は強いパートナーシップで結ばれ、共存共栄関係にあるが、新しいコンセプトへの理解と協力を得るには時間を要したと花崎会長は語る。
「鶴が生息するにふさわしくない雑踏に鶴を呼ぼうとしているようなものでした。有力ブランドの方々は、お客さまがわざわざ足を運んでくださればそれでよいと考えておられましたから。独自の世界観を持ち、広い間口や高い天井といった豊かな店舗空間や周囲の環境をとても大切にしていました。『駅には集客力があるのだから、パン屋やドラッグストア、ファストフードをやったらどうですか』とも言われました。確かにおっしゃる通りだったのです。
 まずは『雑踏の世界に別の価値を生む』ことを理解してもらうことから始めました。ルミネがスピーディーに鶴が生息するにふさわしい場所に変わることで、青山や原宿とは違った価値が生まれ、出店者も新たな成長を遂げられる。これを納得してもらわなければなりません。最後はルミネは急速に変わるのだと信用してもらうしかありませんでした。出店者にとってはそれまでと異なる限定された空間ですから、みなさんにとって大変なチャレンジだったと思います。本当によくやってくださったと思いますね」。
 新生ルミネに向けての業種・業態改革は速かった。改革初年度の00年には早くも全店舗の約2割を入れ替え、ルミネの新陳代謝は高いパフォーマンスを実現した。
「実際、ルミネ新宿は00年からの3年間、平均15%くらいの入れ替えを行い、全体の約半分が変わったところで、お客さまのルミネに対する見方が変わりました。半分というラインが閾値だったのでしょうね。00年に260億円だった売上が、3年で365億円にまで伸びた時には驚きました。その後はお客さまの期待値がどんどん売上を伸ばしてくれた感覚があります。あっという間に480億円に到達しました」。
 ルミネの建物は非常に古い。従来型の駅ビルの発想で建設されたため小売業の生命線であるバックヤードも狭い。商品流通の合理化には大変厳しい環境だ。「到底480億円も売り上げる建物ではない」(花崎会長)にもかかわらず、改革が実を結んだ。リーマン・ショックの影響を受けたものの、現在も新宿店の売上は465億円を維持している。
 人はなぜルミネで買うのか。答えは店頭にある。

ルミネスト2010

ANAインターコンチネンタル東京で開催された「ルミネスト2010」

ルミネブランドを支える最重要ファクターは「人」

 人はコストではなく価値を生み出すものと花崎会長は言い切る。特定の目的で買いに来る顧客は全体の売上の1割程度に過ぎず、9割は店頭で決まるそうだ。「だからこそ我々は、単にモノを売るだけではなく、人や接客を通じて、お客さまの人生のパートナーとして信頼されることが重要だと考えているのです」。
 ルミネの企業理念は「~the Life Value Presenter~お客さまの思いの先をよみ、期待の先をみたす。」―― この理念を3万1千人のショップスタッフに浸透させるのは容易ではない。だからこそディベロッパーであるルミネ社員が理念を深く理解して、ショップスタッフとともに追求することが重要と花崎会長は強調する。「お客さまから何を求められているのか。登るべき山の頂上をルミネの社員が共有し、理解していなければなりません」。
 花崎会長はルミネと出店者の関係はパートナーシップだと強調する。「各ショップが期待された役割を果たして初めて、お客さまに喜んでいただける。ショップスタッフがベストな状態で働けるようルミネは努力しなければなりません。支配服従関係ではなくパートナーシップです。このことをルミネは事業の根幹として徹底しているつもりです」。

立川店

ルミネ立川店の女性専用リラックスルーム

「お客さまの心に向かう接客」

「お客さまにルミネに来て元気になってもらうためには、まずショップのスタッフに元気でいてもらわなくてはなりません」(花崎会長)。そのためにルミネでは、スタッフの従業員満足度(ES)施策に力を入れている。スタッフ専用の休憩所には心地よいソファーやフットマッサージなどを完備し、スタッフが売り場で最高の状態で接客に取り組むことができる環境づくりを強化している。また各フロアの責任者であるルミネのスタッフ、フロアマスターが中心となり、こまめにショップを回り、相談を聞き、他店での取り組みを紹介し、売り場作りに細心の注意を払う。笑顔の重要性についてのセミナーを開催したり、接客に優れたスタッフを取材し、全ショップの全スタッフに読んでもらうなど、あらゆる角度から接客力向上の努力を怠らない。店頭スタッフは「日々学ぶことが多く、モチベーションが高まる」とルミネの管理スタイルを高く評価する。
 年に1度開催されるルミネの接客ロールプレイングコンテスト「ルミネスト大会」は、接客スキルを高め合う努力の集大成の場だ。今年は全ルミネのショップスタッフ3万1千人の頂点を目指し、選ばれた50名の接客優秀スタッフ「ルミネストシルバー」が都内ホテルで行われた決勝大会に進んだ。各出場者は普段通りの接客をロールプレイング形式で披露し、11名のスタッフが接客の最も優秀なスタッフ「ルミネストゴールド」として表彰された。決勝ステージでの厳選された接客を見ると、いつか自分もあそこに立ちたいとスタッフの志気が高まる。
 だが花崎会長はルミネのさまざまなな取り組みについて「これでもまだ道半ば」と厳しい。
 「お客さまのクローゼットの中を想像するだけでは不十分です。お客さまの心の中を想像しなければ本当に責任ある接客はできません。目指すは全員がこのルミネストのレベルに到達することです。これが満月の状態だとしたら、今の我々はまだ半月ですね。量的成長は求めません。量的成長を求めたら地球は何個必要でしょうか。それよりもお客さまの心に向かっていく質の競争なのです。もしいつか満月に届いたとしても、お客さまの期待値はまたその先に行っていますから、その時はまた新月からスタートです。満月に近づくのは永遠の課題ですね」。
 国内市場の縮小に伴い量的成長を求めて小売業の海外進出が著しい昨今、ルミネはあくまでも質の成長にこだわる。この質へのこだわりこそが我々日本人の強さなのではないだろうか。自らの強みを理解し、活かし、より確かなものを目指す。ルミネはこれからも、強くあり続けるに違いない。


文:加藤紀子(編集部)

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