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【今、伝えたいビジネスのヒント】知識を世界に循環させる社会インフラ構築をめざす

【今、伝えたいビジネスのヒント】知識を世界に循環させる社会インフラ構築をめざす

インターネットの黎明期に学生でありながらいち早く検索エンジンに着目し、
大手企業に先んじて開発をなし遂げたのが、
今やビッグデータ時代の牽引役として注目されるホットリンクの内山幸樹社長だ。
常に時代の先を見据え、斬新なITサービスを打ち出してきた内山氏に、
起業に至った経緯やソーシャル・ビッグデータ活用に注力してきた理由、
新しいビジネスへの取り組みなどについて聞いた。

インドでの体験が進む道を決定づけた

──内山社長は学生時代からベンチャーの立ち上げに関わってこられましたが、もともと独立志向は強いほうだったのでしょうか。
内山 決してそんなことはなかったですね。実は私の場合、小学生のころから「夢」というものがなかったんです。プロ野球選手として活躍できても30代でほとんどが引退ですし、弁護士になれたとしても時には悪い人間を弁護しなければならない、などと考えたりして……。けっこう冷めた子どもでした(笑)。
 どんな職業に就くかの選択を先延ばしするために、東京大学の理科一類に進学しましたが、専門課程に進むときに、いよいよ将来何になるか決めなくてはならなくなった。でも、何をやるかの前に「何で生まれてきたのか」がわからないと、いわば哲学的な悩みを抱えてしまいまして、インドを旅することにしたのです。そこである体験をして、理学部物理学科を志すことにしたんです。

──どのような体験だったのですか。
内山 インドの海岸で打ち寄せる波をぼーっと眺めていたのですが、無秩序にふるまっているように見える波が、実際にはある物理法則に従っているということに突然気づいたのです。そして、今座っている石も、後ろにそびえるヤシの木も、この世に存在するものはすべてある物理法則に従っているんだ、と思い至りました。するとその瞬間、一種の幻覚かもしれないのですが、頭の中に数式がどーっと流れるような感覚に襲われ、世の中が今までと全く違って見えるようになりました。

──それで物理学科を志望されたのですね。
内山 物理法則がつかさどる自然の美しさを垣間見たいという思いに駆られたんですね。ただ、インドに行くなど生きる意味の探求に時間をかけていたため成績が振るわず、結局、物理学科ではなく船舶工学科に行って、数値流体力学などを学ぶことになりましたが。
 でも、船舶工学科を選んだことで、人力船コンテストに出場して日本一になったり、アメリカズカップという世界最大のヨットレースに加わって世界と戦うといった経験をすることができました。そこで味わったのが「わくわく感」です。
 夢がなかった私ですが、目の前のわくわくすることに120%の力で突き進んでそれを乗り越えたとき、もっとわくわくすることが見えてきて、やりたいことも大きくなっていきました。アメリカズカップの次にはインターネットと出会い、今度はこの分野で自分が先頭に立って世界と戦いたいと思うようになったのです。

──「わくわく」の対象がインターネットに変わった?
内山 私たちが生きているこの時代は、100年後、200年後の歴史の教科書の中で、18世紀の産業革命に匹敵する「情報革命の時代」と書かれるようになるはずです。そんな、数百年に一度しか来ない時代に自分が生まれたわけですから、この大きい舞台で思いっきり暴れてやろう、と思いました。

コンテンツの評価は人間にしかできない

sub──そこで大学時代に最初に取り組まれたのが、検索エンジンの開発ですね。
内山 当時はインターネットのサービスが日本でも始まるという時期で、パソコン通信を通じて知り合った仲間たちと何かおもしろいことをやろうといろいろと議論する中で、新しいネットワークの世界でイニシアティブを取るなら情報のゲートを押さえるべきだ、となり、検索エンジンを開発することになったんです。

──検索エンジンのベンチャーの創業に関わり、さらにその後ご自身の会社を立ち上げられた?
内山 大学院を中退して、創業期から関わった検索エンジンのベンチャーの仕事に邁進することになりましたが、事業としてはYahoo!やGoogleに負けました。
 それでも諦めずに、世界をあっと言わせるサービスを作ろうと、まずは学生を中心に精鋭たちを集めて、エージェント研究会という組織を立ち上げました。それがホットリンクの前身です。
 あるときアルバイトに来ていた学生から自分の父親に会ってほしいと申し出がありました。お会いしてみると、シリコンバレーなどで投資業務に携わっている方で、10社以上のベンチャーをナスダックに上場させた経験があるとのことでした。
 そのときに言われたのが「君は世界をあっと言わせたいそうだが、“世界標準”というものを知っているのか」。私は「知りません」としか答えられませんでしたが、「だったら来なさい」とシリコンバレーに何度か連れて行ってくれたのです。現地ではナスダックに上場した起業家や、ベンチャーキャピタルの方などに引き合わせてくださいました。

──“世界標準”だというシリコンバレーはいかがでしたか?
内山 若くて可能性のある起業家を支援しようという、シリコンバレーの発するエネルギーというか、大きなうねりといったものを感じました。こんな環境で起業したいと思いましたね。そして、その方の後押しもあってホットリンクを設立することになりました。
 創業して始めたのは、今でいえばフェイスブックとブログと検索エンジンを融合させたような先進的なサービスでした。今から15年も前のことです。時代を先取りしすぎていたのか、当初はなかなかその価値を認めてもらえませんでしたが。

──当時の検索エンジンには限界を感じていたそうですが。
内山 ウェブサイトのテキストをどれだけ解析しても、そのサイトが初心者にわかりやすいか、感動するかといったことは、人工知能には判断できません。コンテンツの評価は人間にしかできないのです。
 ブックマークしたとか、「いいね!」したとか、ツイートでURLやリンクを張ったといった、人間ならではの知識や知恵を社会全体で集め、それを共有化し、人工知能やコンピューターに学習させて、初めてすぐれた検索エンジンになると考えました。
 今まさに、ソーシャルメディアやビッグデータ、人工知能に関心が集まっていますが、それらの重要性については、ホットリンクを創業したころから掴んでおり、それが当社のその後にビジネスの土台になりました。

コンセントから情報が流れてくる世界へ

──今、取り組んでいらっしゃることは?
内山 これからは、人間とコンピューターが情報を交換し社会に循環させるインフラが整備され、家電製品をコンセントにつなぐと電気が流れるように、コンセントから情報も流れてくる時代になります。その社会インフラ作りを世界規模で展開していきたいと考えています。
 そこで、世界を視野に入れるなら、「人の頭の中にある情報を吐き出させ、それを集め、蓄積し、分析する」という、全体をカバーするのではなく、当社が得意とする「情報を集め、蓄積する」業務に集中することが必要だと判断しました。この分野で実績のあるアメリカの会社も傘下に収め、今後はグローバルに取り組んでまいります。
 もう一つ、ソーシャル・ビッグデータの分析結果まで提供する新サービス「図解中国トレンドExpress」の提供を開始しました。分析はお客様に委ねるという従来の方針を転換し、中国人の訪日観光客が何を欲しがっているのか、何を買ったのか、どこに行っているのか、何を食べているか、そういったソーシャルデータに基づく分析結果を週単位で提供するサービスです。今や3兆円規模にまで膨れ上がったインバウンド消費ですが、その動向を左右する中国のソーシャルメディアの膨大なデータを収集し活用できるのは、当社だけです。今後は世界でも同様のサービスを展開していくつもりです。

──最後に、起業をめざす若い方にアドバイスをお願いします。
内山 起業というのは、イノベーションを起こす活動の、アウトプットの一つの形式でしかありません。大切なことはイノベーションを起こすこと、つまり今まで当たり前だったことを変えることだと思います。起業でなくとも、企業内の新規事業でも既存事業の中での新製品でもいいわけです。
 ですから、自分が日々関わっていることに対して「こうやったらもっとよくなるんじゃないか」「こうすればさらに便利になるのでは」といった視点を常に持ち、これだという方向が見えたら夢中になって取り組むという姿勢が何より必要だと思います。その先に、もしかしたらベストな形として「起業」というものがあるのかもしれません。


内山 幸樹(うちやま こうき)

1971年 富山県生まれ。東大大学院博士課程在籍中に、日本最初期のインターネット検索エンジン開発ベンチャーの立ち上げに関わったのち、2000年株式会社ホットリンクを設立、現在に至る。ソーシャル時代とビッグデータ時代の到来をいち早く予測し、東大・東工大・早稲田・産業技術研究所等の研究機関とホットリンクによる産学連携の研究会「ホットラボ」を創設。ソーシャル・ビッグデータと機械学習を組み合わせた技術を商用化し、「クチコミ@係長」シリーズの開発や人工知能による株価予測ファンドの立ち上げに従事。ヒットの予測モデルの研究、選挙予測、TV番組のTwitter分析技術に関するNHKとの共同研究などの研究開発を主導。著書に『仮想世界で暮らす法』『1時間でわかる図解WEB2.0』など。デジタルハリウッド大学院客員教授も務める。

文|千﨑研司(コギトスム)

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