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【今、伝えたいビジネスのヒント】バーチャル時代のコミュニケーション力強化法

【今、伝えたいビジネスのヒント】バーチャル時代のコミュニケーション力強化法

「話し方」はビジネス社会で生きていく上で不可欠なスキルだが、この基本的なコミュニケーション能力に自信が持てない若手・中堅のビジネスパーソンは数多いと聞く。
出版社の編集者として言葉による表現に長年関わり、現在は日本話し方センター学院長も務める宮島正洋氏に、仕事や人間関係を大きく左右する“話す”コミュニケーション力の高め方について聞いた。

欧米型“話す”社会への
転換を迫られる日本

──ここ最近「話し方」への関心が高まっているように感じます。
宮島 「グローバル化」「多様化」によって、日本社会のコミュニケーションのあり方が変わりつつあり、欧米型のスピーチメソッドが脚光を浴びているのでしょう。
 もともと日本は、話さなくてもわかりあえる“高文脈社会”で、言葉ではなく「阿吽の呼吸」によるコミュニケーションを良しとする風潮がありました。
 ところが、今は欧米などのように、言葉にしないと理解しあえない“低文脈社会”に生きる人々とも仕事で意思疎通を図らなければならない時代です。“低文脈社会”では、育ってきた環境や言語、文化的な背景などが異なるさまざまな人種、民族がひしめき合う中で、いかに自分を表現し主張するかに重きが置かれてきました。
 そのため、欧米では幼いころから人前できちんと話す訓練をさせられます。小学生ともなればディベートのトレーニングが必須となります。きちんと話ができなければ一人前と見なされない伝統があるのです。この考え方が徐々に日本にも浸透してきました。
──日本人も「沈黙は金」などと言っていられなくなった?
宮島グローバル化の波に乗るには、話し方先進国である欧米をお手本にせざるをえなくなったのです。
 また一方、日本の社会でも徐々に多様化が進んで、人がさまざまな考え方や価値観、趣味嗜好を持つようになってきたことも「話し方」への関心を高めています。自らの主張を貫くためには、きちんと自分について話して理解してもらうことが必要となってきたのです。
──日本人の“話す力”は、これからどんどん磨かれていくのでしょうね。
宮島ところが、それを阻む大きな問題が生じています。デジタルメディアの発展とインターネットの普及・浸透です。
 スマホやタブレットなどのデジタル機器が広まり、ソーシャルメディアの利用も広がってきたことで、デジタルの世界に閉じこもり、リアルな世界でのコミュニケーションを苦手とする若者が急増しているのです。
 この傾向は世界のどの国でも見られますが、話す訓練を行ってこなかった日本では事態は一層深刻です。コミュニケーション能力がもともと高くないところに、ネット社会が到来したわけで、これはとても危機的な状況であると思っています。

企業を苦しめる
「チームで働く力」の欠如

──若者のコミュニケーション能力の低下は、具体的にどのような弊害を生み出しているのでしょうか。
宮島何より大きいのは、企業の負担を重くしているということです。
 厚労省の調査によれば、平成23年に大学を卒業した新卒者の3年以内離職率は32・5%にも上っています。離職の理由はさまざまでしょうが、その根底にはコミュニケーションの問題が大きくかかわっているものと想像されます。
 企業は新卒の採用から一人前の社員に育てるまでに莫大な費用を投じています。入社後3年以内にかかる直接間接のコストは、合わせて数千万円に上るケースもあるでしょう。3人に1人が3年以内に退職しているわけですから、企業側がこうむるマイナスもばかにならないのです。
──学生は社会に出る前に、もっとコミュニケーション力を鍛えておく必要がありますね。
宮島経済産業省は2006年から、職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な能力「社会人基礎力」を提唱しています。これは「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つで構成され、社会に出る前に大学などで身につけるべきものだとしています。
 最近、いくつかの大学で講演する機会があったのですが、そのときに感じたのは、今の大学生にはこの3つの能力のいずれもが欠けているのではないかということです。特に、話を聞く様子や質問のしかたなどを見ていると、3つの中で最もベーシックな「チームで一緒に働く力」、すなわちコミュニケーション力の不足が際立っていることがわかります。企業が悲鳴を上げるのも無理はないと感じました。
 結局、多くの若者が社会に出てから、話し方、プレゼン力、スピーチ力などのコミュニケーション能力の向上に取り組んでいるのが実情です。
──社会で求められるコミュニケーションのスキル自体も、変化しているのでしょうか。
宮島当然ながら“低文脈社会”向けのスキルへと変わってきています。
 まずは「聞く力」。アメリカの心理学者ロジャースが提唱した「アクティブリスニング」という手法が日本でも注目されています。聞き手が自分の考えを押しつけず相手を積極的に理解しようとして話を聞き出す方法です。ベストセラーとなった『聞く技術』の著者で臨床心理学者の東山紘久先生などがこのロジャースの理論を日本に広めました。
 もう一つは、アサーションという、自他尊重型自己表現のメソッドです。過不足のない自己主張とでも言ったらいいでしょうか、相手の言い分も認めつつ自分の主張もしっかりするという方法で、日本人が従来から苦手としてきたものです。

リアルな経験が
コミュニケーション力を育む

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──TED(=Technology Entertainment Design、価値のあるアイデアを世界に広めるためのスピーチフォーラム。米団体が主宰)が注目されていますが、プレゼンテーションスキルをアップしたいというニーズも高まっているのでは?
宮島一昨年の五輪招致のスピーチで、プレゼンの力を見直した日本人は多かったのではないでしょうか。まさしくアメリカ的なコミュニケーション手法ですが、日本チームはプレゼンで頑張り、誘致に成功した。その結果、プレゼンテーションへの関心が高まり、TEDカンファレンスの講義を紹介するNHKの『スーパープレゼンテーション』も人気番組となりました。
──宮島さんが学院長を務める日本話し方センターは、話し方教室のパイオニア的な存在ですが、こうした新しいスキルも取り入れているのでしょうか。
宮島かつて話し方教室に通ってきたのは、吃音やあがり症など人前で話ができないコンプレックスを抱える方々が中心でした。しかし、今はビジネススキルの一つとして「話し方」を身につけたいという、ごく普通の方が大半を占めるようになっています。それが時代のニーズですから、もちろん最先端のスキルを踏まえたカリキュラムを編成しています。
 しかし、しっかりとした話し方を身につけるには、スキルだけを学べばいいというわけではありません。経験、人格、情熱、あるいは洞察力といった「人間力」が根底になければ、いくらテクニックを磨いても人を惹きつける話し方はできない。それが今から60年以上前に当センターを創設した江川ひろし先生の基本的な考えでした。
 会話力を身につけるには、まず人間力を磨くべきだという江川イズムは、今も生きています。それは日ごろの人間関係の中で培われるもので、人とさまざまなやり取りを交わす日常会話の場こそコミュニケーション能力を高める訓練の場なのです。
 ところが、スマホやパソコンが生活を支配するようになった今、特に若い人にリアルな人間関係を避けようとする傾向が強くなっています。最初の話に戻りますが、スマホ依存、ネット依存が若者のコミュニケーション能力の低下を招いているのです。
──若い世代へのアドバイスはありますか。
宮島リアルなコミュニケーションを重ねることで、話し方のスキルが身につくだけでなく、ビジネス社会を生き抜く上で必要な洞察力や判断力なども養うことができます。
 メディアを通じて得られる情報も、その意味するところや価値を正しく理解してこそ活用もできるはずで、その判断力はバーチャルな経験だけでは培われません。
 その意味でも、実社会でリアルな経験を積むことは必須です。億劫がらずに現実世界での人間関係を深め、総合的な「人間力」を磨いていただきたいと思います。


宮島 正洋(みやじま まさひろ)
1949年東京生まれ。慶應義塾大学文学部在学中に遠藤周作編集長の『三田文学』で編集部員として活動。卒業後、新潮社に入社。雑誌編集部を経てメディア室に移り、「新潮カセットブック」など新しい出版分野を開拓し音声出版のブームを作った。1992年新潮社を退社し、アートデイズを設立。代表取締役に就任。慶應義塾大学出版会顧問などを務め、現在、日本話し方センター学院長、C・W・ニコル著作権代理人、三田文学会会員。著書に『「デキる」大人の話し方』(枻出版社)。

business_hint_book「デキる」大人の話し方
(宮島正洋著、枻出版社刊)
半世紀以上にわたり30万人を超える受講生を世に送り出してきた日本話し方センター創業者・江川ひろし氏のノウハウをベースに、アクティブリスニング、アサーション、ファシリテーションなど最新のコミュニケーション手法や、話題のTEDスピーチ、アドラー心理学などのエッセンスを紹介。スピーチ力、プレゼン力の向上をめざすビジネスパーソンに、テクニックだけに終わらないコミュニケーションの極意を伝授。

文|千﨑研司(コギトスム)

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