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インタビュー/interview
BUAISOインタビュー
日野原重明医師が推し進める 聖路加国際病院の新しい医療
日本でいち早く予防医学の重要性を提唱した聖路加国際病院。上から目線と言われてきた医療現場において、患者の心に寄り添うホスピタリティの徹底に取り組むなど、患者の視点から何が必要かを問い続けてきた。98歳の今も先頭に立ってカイゼンを世に問い続ける同病院理事長日野原重明氏にお話を伺った。
子供を産み育てられる町づくり
聖路加国際病院は6月に新しく「聖路加産科クリニック」を開設した。その経緯を日野原氏は次のように語る。
「夫婦共稼ぎが増加する中で、東京都中央区には、銀座や日本橋などを中心に『職住接近』を好む若い人たちが増え続けています。受け皿としてのマンションもたくさん建設されています。ところが中央区には聖路加以外に産科はあと1つだけしかない。子供を持ちたい若い人たちが増えているのに、お産ができる場所が圧倒的に足りないのです。従って今は中央区以外のところへ行って産んでくださいと言われる人が大勢いるわけです。住んでいる町で子供を産めない、町としてこれでよいのかと中央区長に話をしました。同様の認識を持っていた中央区が開設資金の一部を補助してくれることになり、この産科クリニック開設に至ったのです」。
このクリニックには、聖路加国際病院との連携による万全の医療体制のほか、産んだ後のケアまで考慮されている。
「ここは19床以下の助産師を中心とした運営を行うクリニックです。何か問題が生じたら転院し、必要であれば手術も受けられます。小児科医とも連携していますので、生まれてくる子供に何かあっても安心です。現在、聖路加の病院で年間約1000件の分娩を扱っていますが、クリニック開設によって、500件以上は増やせるようにしたいと思っています。
また出産後の育児に対するサポートも考えています。子供を保育園に預けられても、病気になれば休ませなくてはいけない。そうなると親のどちらか、大抵は母親が会社を休まなければなりません。これは働きながら育児をするうえでの一番のボトルネックでしょう。ですから、聖路加に病児保育施設を作りました。産むのも産んだ後も安心ですよ、だから中央区へいらっしゃい(笑)」。
働く女性が安心して子供を産み、育てられる町づくりのモデルケースとして、日本全国に普及させたいと日野原氏は考えている。
東京のみならず、日本全国で産科医の不足が深刻な問題となっている。どう解決すればよいのか。巷で議論されるのは医師の育成という通り一辺倒の解ばかりである。ところが日野原氏の発想は柔軟だ。
「産科医を増やす必要はないのです。僕は助産師が診療と治療の領域まで入り込むことで十分解決できると思っています。助産師がエコーや超音波、心電図などを調べて診断する。産道が狭ければ切開し傷口を縫う。産科医師は普段はスーパーバイザーとして、緊急時に医師にしかできない処置をすれば良いわけです。
聖路加看護大学では、修士課程で助産学を学びます。修士号を持った看護師が助産師として現場に入るのだから、診療と治療まで入り込めるだけの能力は十分に備えています。 今、産科医を含めて医師が足りないということで、医科大学の定員を増やそうとしているけれど、6年後に果たして彼らの何割が産科を志望するかわからない。聖路加の修士課程では2年で助産師が育成できます。分娩の際に医師が立ち会う施設が多いですが、実際の現場では十分に訓練された助産師がいれば、多くの場合、医師は本当にただ見ているだけでいい」。

変革することの困難を厭わず、「進まないから僕がやっちゃう」。感嘆すべきパワーと実行力である。
『システム医療』の確立を目指して
昭和23年に制定された保健師・助産師・看護師法の中で、看護師は「診療の補助」(第1章第5条)を行う者と定められている。これを日野原氏は「法律の壁」と捉え、看護師の権限を増やして処遇を向上させることが日本の医療にとって最も重要だと説く。
「日本では医者がやらなければならないとされる医療行為が多すぎます。ところが、世界を見渡せば、例えばアメリカでは40年も前からナースが麻酔を打っています。一方、日本では、この医療行為は麻酔専門医にしか許されていません。僕は麻酔が扱えるナースも助産師と同様、2年の修士課程で育成できると考えています」。
救命救急士の世界でも法律の壁が問題となったケースがあった。01年10月、秋田市消防本部において「気管挿管」という医療行為を救命救急士が行っていたことが発覚し、医師法違反であると指摘されたが、他の地域でも同様のケースが認められ、大きな社会問題となった。ところが、これらの救命救急士による挿管は、医者に指導できるほど高度な技術力に裏付けられたものだったという。04年7月からは法律が改正され、所定の講習・実習を受けた救命救急士による気管挿管の実施が認められるようになった。こういった法律改正の流れを、看護師の権限拡充にも適用させたいと日野原氏は意気込む。
「地域医療においても訪問看護師が心電図やエコーを取り、眼底出血も見られるようなプライマリーケアのできる体制を作ればいい。今は医師が名ばかりの主治医で、月に1度も訪問できていないようなケースがたくさんあります。そのために患者さんの健康状態が把握できず、重篤化してしまう場合も少なくありません。代わって看護師がこまめに訪問して診断し、問題があれば医師に申し送るというシステムを作れば、医師の負担も随分軽減されるのです。小児科についても同様の方法で、子供のプライマリーケアができる看護の専門家(ナース・プラクティショナー)を養成できるはずです。
日本の開業医は少し前まで大学病院の医局に在籍していた専門医がほとんどで、最初からプライマリーケアの訓練を受けた人たちではありません。極端に言えば、脳外科出身者が子供のはしかを診たりしているわけです。これでは患者さんにとって最善の医療体制はいつまでたっても確立できません。
麻酔ナース(2010年4月~)、産科ナース(2005年4月~)、訪問看護師(ただいま計画中)、小児科のナース・プラクティショナー(2009年4月~)。この4分野の専門看護師の課程が順調に進み、目的を達することを願っています。
システムを作らないと、どれだけ頑張って働いても意味がない。今の日本の医療にとって一番大切なのはシステムを作ることです。
『システム医療 』を10年以上前から僕はずっと提唱し続けています。日本中に応援団を作り、世論を生み、法律を変えるまで頑張りますよ」。
日野原重明(ひのはら・しげあき)
1911年山口県生まれ。37年、京都帝国大学医学部卒業。41年に聖路加国際病院内科医となる。以来、内科医長、院長代理、院長を経て、現在は、聖路加国際病院理事長
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