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【近憂遠慮】世界一の18歳に新たな航路を~開成学園校長 柳沢幸雄氏~

世界一の18歳

 2012年3月。開成学園校長 柳沢幸雄氏は、就任後初の卒業式で、400名の卒業生に熱いエールを送った。
「これまでハーバード大学で数多くの学生を教えてきたが、私が確信を持って言えるのは、『開成を卒業する君達は、18歳の集団として世界一の能力を持っている』ということだ」
 柳沢氏は、自身も開成中学、高校を経て、東京大学へ進学。84年からハーバード大学へ渡り、公衆衛生大学院環境健康学科で十数年間にわたり専任、併任の教員として活躍した。シックハウス症候群、化学物質過敏症研究の第一人者として国際的に広く知られるとともに、ハーバード大学のベストティーチャーに選出されるなど、熱心な教育者としても高い評価を得ている。東京大学教授を兼任(今年3月に定年退官)しながら、昨年4月より母校の校長を務める。 開成学園は、東京大学合格者数が31年間連続第1位という実績から、少子化が進む今もなお、私立中学高校受験では最難関だ。「学業重視」のイメージが強いが、実際のところは、「面倒見の悪い学校」だと柳沢氏は笑う。
「東大生は『受験勉強に疲れ果て、大学4年間はあまり勉強せずにのんびりしている』と世間では言われているけれど、開成で中高6年間ガリガリに勉強した生徒なんて実はあまりいません。皆、部活ばかりです(笑)。開成の教員は全て受け身。生徒からの申し出があれば応じますが、これをしなさいというのは一切ありません。一番期待しているのは、生徒同士の相互教育です」

 柳沢氏は、この課外活動の重要性を強調する。
「中高6年間、大学合格だけをゴールにすると皆燃え尽きてしまう。その先の人生の方がずっと長いのに、18歳で人生の全てが決まってしまうなんてそんな馬鹿馬鹿しい話はありません。私はいつも生徒たちに『勉強するということは、世の人のために尽くすことだ』と話します。それを端的に言うと『尽くした人や組織から報酬が得られることだ』と。では、どういう職業で報酬を得ると良いのか。それはまさに『好きこそものの上手なれ』です。例えばサッカーが好きなら、Jリーグの選手になることだけでなく、チームのマネジメントやスポーツ医学、契約に関わる弁護士、記者、ボールやシューズの職人など、あらゆる角度でサッカーに関わることができます。嫌いなことは続きませんから、学校側としては好きなことを生徒に見つけてもらいたい。そのためには課外活動が一番なのです。
 そして課外活動のもう一つの良さは『負ける経験』です。開成の運動部はたいてい負けるんです(笑)。でも人生はうまくいかないことの方が多いですから、1勝9敗くらいでちょうどいい。負けた時、自分をどう処理するか。失敗から学ぶという経験は、大人になった時に必ず役に立つはずです」
 自由闊達な雰囲気の下で、仲間と切磋琢磨しながら、世界一の能力を備えた18歳が育つ。世間の「ガリ勉」のイメージとは裏腹に、世界的に見ても、実に恵まれた環境に置かれていると言えるだろう。


柳沢幸雄(やなぎさわ ゆきお)
1971年 東京大学 工学部化学工学科卒。日本ユニバック(株)を経て、1981年東京大学工学部化学工学科助手。1984年ハーバード大学へ渡る。シックハウス症候群、化学物質過敏症の世界的第一人者として知られ、1986年~2002年公衆衛生大学院専任准教授・併任教授。この間数度ベストティーチャーに選出される。1997年~2012年東京大学大学院客員・専任・特任教授。2011年4月に母校・開成学園校長に就任

文:加藤紀子(編集部)

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