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「私文化」を物の価値に変える「パス ザ バトン」 株式会社スマイルズ代表取締役社長 遠山正道

「私文化」を物の価値に変える「パス ザ バトン」 株式会社スマイルズ代表取締役社長 遠山正道

意義のあるビジネスがしたい

「昨年秋、三菱地所さんから、新しくオープンする丸の内パークビルディングにセレクトショップを出す誘いを受けま した。私が20年間通った三菱商事があったまさにその場所で、個人的に深い思い入れがあり、縁を感じ、話を受けることにしました」。しかしその後、世界金 融の大混乱により景気は悪化した。もともと物販業を本業としない遠山氏は何をどうするべきか、その意義を考えてしまったという。
「15坪の土地でただお洒落なセレクトショップをやっても意味がないと思いました。儲かればまだしも、仮にビジネス的にしんどくなった時、何のためにやっているのか疑問に思うようではだめだと。長い間、意義を考えて悩みました」。

9月3日グランドオープン予定の丸の内パークビルディング。美術館や商業施設「Marunouchi BRICK SQUARE」を擁し、上層階には三菱商事が入居する。本年5月に4つのショップが地下1階フロアに先行オープンしている

本業であるスープ ストック トーキョーに影響を与えないよう、2~3人で水面下での検討を進めていたという。「意見を出し合う中で、いっそ物々交換を、という資本主義の真逆をいくアイデアが出ました。そして最終的にリサイクルに行き着きました」。
リサイクルショップ、質屋、ネットオークションなど、新旧様々なリサイクルビジネスがすでに存在する。遠山氏の考える新しいビジネスとは、必ずしも「存在しない機能」を作り出すことではない。遠山氏がスープに新しい切り口を加えることで、「スープ ストック トーキョー」は成功したのだ。
「単一の15坪の店舗ではインフラとして機能しません。オンラインショップのビジネスがあって、そのリアルなフラッグショップとしてこの店を位置づけることで、影響力を持たせたいと思いました」。

人から人へバトンを「New Recycle」

「東や西、プロダクトの違いなど、かなり大げさにコンセプト設定しました。ある経営者会議で世界の政治経済を論じていた最中に、ふと、日本人の持っている精神性や技術的優位性、そして今こそ果たすべき日本の役割を感じたのです」。
もはやブランド信仰は価値を持たない。「個人が持つ歴史やセンスやカルチャーの価値を前面に出して大事に人に手渡していきたい。意義が見えた時、このコンセプトが生まれました」。
「パス ザ バトン」というフレーズ自体に強いメッセージ性を感じる。「スープを企画し、店頭で実際にスープを作り、スタッフが店頭でお客様に手渡しする時に『最後のバトンをお客様に渡すんだよ』と言っていました。今回、ただ新しい何かを作って消費するだけでなく、人から人へバトンを渡していくようなビジネスををしたかった。この経済状況下だからこそ行き着いた結論です」。

練り上げられた世界観・企画・マーケティング戦略

「パス ザ バトン」はブランドの目指すべき方向性や世界観が非常に練り上げられている。「3年後、このビジネスが世の中の新しいインフラとして確立し『そういえば昔はなかったね』と言われたいですね。それまでは苦労が多いと思います。物品が集まること、それもユニークな物を惹きつけるイメージ確立が必要です」。3年後の到達点を具体的に思い描くことで、苦しい期間を乗り切る。ブランド立ち上げに際しての意義の設定はそのためにある。
「個々人の歴史やカルチャー、それを『私文化』と名付けました。それぞれの人が生きた証を商品の価値として認めたいのです」。

既存リサイクルビジネスへの割り切れなさ

遠山氏は市場調査のために多くのリサイクルショップに自ら持ち込んだ。「買取値段基準は店によって若干違いました。汚れがあるかどうか、最新のブランドものかどうか、中には1kg30円という店もありました(笑)。ただ、大切に着ていたシャツが30円で、マラソン大会でもらって絶対着たくないと思っていた新品Tシャツが60円だったりと、価値判断に割り切れない思いが残りましたね。自分が洋服を買う時には『自分の趣味に合うか』が判断基準で、ブランド信仰もありませんし、グラム買いもしたことがなかったので(笑)」。ネットオークションに対しても遠山氏は同様の思いを持つ。「1円でも高く、安く」と金銭が主役になり、物自体が軽視されていると感じるのだ。
自分で選んだ価値観やセンスは、既存リサイクル市場では無視される。新しい物を際限なく消費する時代ではない。リサイクルに際し、大切にしてきた物が不遇の扱いを受ける。持ち主のセンスや価値観、思い入れをリスペクトし、その物に命を吹き込みたいと遠山氏は考えている。

「私文化」の価値を確立したい

「日本のネット文化はハンドルネーム主流のクローズドな社会ですが、欧米の『フェースブック』は実名や顔写真を出し、ミック・ジャガーもオバマさんも同列 に扱います。これは責任ある態度としてカッコイイと思うんですよね。『パス ザ バトン』でも売り手の顔やプロフィールを出し、その価値も含めて買ってもらいたいのです」。個人情報についての議論も含め、難しい側面もありそうだ。しか し理想と現実との間での落としどころを遠山氏は模索している。
例えば遠山氏が多く出品すれば、その品揃えで遠山氏の趣味が買い手に理解される。同時に売らないものも見せていく。「私の車は、ダッシュボードのシンプル感が気に入ったので低価格車種のクラウンを選び、全面黄緑色に塗装し、レモンイエローの革張りシートです。売り物でない持ち物も見せることで『この車に乗っている人の自転車なら面白いかもしれない』と共鳴する人もいる。そういった価値観を個々人の『私文化』として流通させたいですね」。

「パス ザ バトン」の世界観への賛同者が増えることで、ビジネスが拡大していく。「バスタオルは教会のバザーに、リビングで邪魔になった大型プラズマテレビは1円で も高くネットオークションに。でも自分はカッコいいと思うけど同じように思う人がいるか不安な、とがったセンスのこの洋服は『パス ザ バトン』にいいんじゃないか、と思ってもらえたらいいですね」。
例えば三菱商事社員がロシア駐在中に大使から贈られた壺。ネットオークションで『つぼ』と出品するより、贈られた時のエピソードを書き込んで『パス ザ バトン』に出品したら、どこかの若い美大生が『おー、ロシアンアバンギャルドそのもの』と気に入るかもしれない。そんなユニークなものを集めたいですね」。
持ち主のプロフィールに限らず、モノにまつわるエピソードや思い入れを前面に出して価値とする。それが遠山氏の考える「私文化」である。リサイクルビジネスにおける新しい価値観が生まれそうだ。

パリ、ニューヨーク、東京 価値を認め合う

オープン当初は買い付けたアンティークやリメイク商品も用意している。「丸の内らしい白いシャツに素敵な刺繍を入れたものや、米軍のパラシュートを切り刻みリメイクしたレインコートなどを作成しています。空での迷彩色は空色。一点物の空色のレインコートが店頭に並ぶ予定です」。
持ち込まれる品数が増えれば、すべて一点物のセレクトショップとなる。「きれいな箱に入れてラッピングして、ギフトとしても使えるように考えています」。既存のリサイクルビジネスにない切り口の一つだ。

バイヤーが面白いと思った物をウェブ上のギャラリーコーナーに掲載し、さらに選ばれた物は店頭に並ぶ。ゆくゆくは世界にその輪を広げる予定だ。「パリやニューヨークのショップの一角に『パス ザ バトン』のコーナーがあって、ウェブにアップされた物からパリのバイヤーがピックアップしてパリの店頭に並べる。日本の出品者はちょっと嬉しいよね。逆に パリっ子の出品が増えて、日本のバイヤーに選ばれたパリっ子が自慢するとか。文化の違いを認め合うことの楽しさを世界に広げたいですね」。
遠山氏のリサイクルビジネスの新しい切り口は、すでに世界を見据えていた。


発行人後記
箱に貼る配送用の送り状といった何気ないデザインから、丸の内にあるべきアトモスフィアまで、遠山氏の美意識が 「パス ザ  バトン」には凝縮されている。モノの価値を一過性の価格だけではなく、誰に次を託せるのかという数世代の所有者を経たライフサイクル全体で考えるのも、本 来、この国がもつ良き文化である。デジタルプロダクトの進化が停滞し始めた現在、長く愛される仕掛け作りが「消費者」の心をつかむかもしれない。

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