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12/レンズ越しの世界

12/レンズ越しの世界

知らない世界の少し先まで

 夢の中で聞いていたピピピという鳥のさえずりが次第に不快感を伴うようになって、現実との境目を曖昧にするとゆっくりと目を開けた。ベッドの背もたれに吊るされた目覚まし時計が音を出して踊っていた。街がまだ寝静まっている頃。普段なら夢の続きを楽しんでいるような時間なのに、こうしてせっせと動いている自分が何だか誇らしくなる。辺りにはまるで頭からすっぽりと被ったように濃密な霧が下りている。人影は見えず、物音ひとつせず、あれ程賑やかだと記憶していた場所とは違う世界のような気がした。列車の発車時刻は6:40。それまでには、と昨晩決めた。丘からの景色を見ようと宿を出ることにした。
 この先がどうなっているのか確かめたい――。どのような地へ行っても、抑え切れない好奇心と探究心はいつも胸の中で脈打っている。僕の写真を撮るという行為は、そんな衝動が前提にあってのことだろう、と今更ながらに気付く。何かに貢献しようなんて気持ちはさらさらない。骨の芯まで突き刺さる寒さも、だらしなく出てくる鼻水も、痛みのある喉も関係ない。自分の欲望のためだけに知らない世界へ足を向け、写真を撮るのだ。バナナと蜜柑と軽いスナック菓子を朝食代わりに、どうにもならない震えを忘れようとした。5分、10分と時間が過ぎるにつれて、同じ意思をもつ人々が集まり、まるで雲の上に浮かぶような街が現れた。早朝の冷え切った中、魔法がかけられたような幻想的な光景を前に、静かに立ち込めていた小さな丘は人々の白い吐息と笑い声でたちまち賑やかになった。


花村謙太朗 (はなむらけんたろう)

1984年愛知県生、東京都在住。世界中を旅する中で、写真に興味を持ち始める。
写真家 山岸伸に師事し、2011年に独立。主に人物、風景を被写体とし、活躍の幅は広告、雑誌、WEBなど多岐に渡る。
kentarohanamura.com

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