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9/レンズ越しの世界

生きていくのに最低限必要なものと、カメラとフィルムだけを持ち、人生の旅に出る――。

9/レンズ越しの世界

陽が昇る場所へ

 随分と朝日を見ていない気がする。学生ぐらいに若かった頃は、出掛けた先が国内であろうが、海外であろうが、どんなに凍える季節であったとしても、ふらりと陽が昇る場所へと足が向いていた。深い闇の中を掻き分け、寝静まった誰もいない街をよく横切ったものだった。まだ夜明け前の青ずんだ空が好きだった。刻一刻とその表情を変えていく移り変わりに惹かれていた。その余韻に浸りながらシャッターを切ることが何よりの喜びだった。あの頃の僕は、必ず美しい夜明けが来ることを知っていたのだ。

 それなのに、いつからかそのときめきを忘れてしまっていた。僕が大人になったせいなのか。日々の仕事にかまけているせいか、それとも感受性のある部分が錆び付いてしまったせいなのか。面倒で手間暇のかかることをやってこそ、物事は味わい深くなるものなのに、とにかく早朝に目を覚ますのも億劫になっていた。
 そんな折、仕事で朝日を撮ることになった。不思議なことに、目覚ましよりも早く目が覚めた。仕事だからというのもあるだろうが、明らかに僕は軽い興奮状態にあったのだと思う。早起きは面倒だけど、心のどこかで撮りたいという欲求がまだ残っていたのだと知った。手をかじかませながらも、寒い寒いと言う僕の言葉は浮き足立っていた。徐々に移ろう明け方の空の色。まだ誰もいない時間に、誰も知らない夜明けを見ているというその事実は、なんだかとても素敵で、贅沢なことのような気がした。

 もうすぐ10年振りに大きな旅へ出る。初めて降り立つ場所が幾つもある。そこでは、どんな美しい夜明けが待っているんだろう。


花村謙太朗/Kentaro HANAMURA

昭和59年3月4日生。愛知県出身、東京都在住。旅で写真を撮り始めたことを機に、フォトグラファーを志す。
ポートレート写真家・山岸伸氏に師事し、2011年6月に独立。人物、風景を主に被写体とし、活躍の幅は広告、雑誌、WEBなど多岐に渡る。

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