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11/レンズ越しの世界

11/レンズ越しの世界

激流する中国の先で見えたもの

 中国の奥深く、大自然にひっそりと隠れるように存在する九寨溝。ガラスのように澄みきった水が空の青さを映し出し、湖の底にそっと横たわる樹木が何千年という時を語る。もし人間界に仙境があるとすれば、この地かもしれない。それほど九寨溝は美しい。北京から飛行機を使えばものの4時間。しかし、九寨溝の存在を初めて知った時、僕はあえて列車とバスでこの秘境を目指すと心に決めた。中国という大陸の広さを身をもって知っておきたかったのだ。
 まず、丸2日かけて北京から成都へ列車で向かった。不運にも中国のお盆と重なり、切符売り場は想像を絶する人で溢れ、指定席は売切れ、自由席車輌の乗車率は200%を超えていた。乗車2日目に席が空くまでの間、僕は立ちっぱなしだった。「民族大移動」という名の中国の帰省ラッシュをまざまざと見せつけられたわけだ。成都に到着してほっとするのも束の間、ここからさらに半日かけてバスで山々を越えなければならない。車窓が映す四川省の大都会を眺めながら眠りにつき、起きては景色が変わっていることを確認し、何度もそれを繰り返した。最早、抱えきれないほどの気持ちが募り、時間の感覚は失われ、時計の針が進んでいるのか、巻き戻されているのか分からなかった。そんな過程を経てようやくの想いで九寨溝へ辿り着いた時、交錯する様々な感情も相まって、気が付けば涙が流れていた。
 21世紀とはいえ、そう簡単には辿り着けない場所がある。しかし、苦労をして、時間をかけて、まだかまだかと想いを馳せるからこそ、美しい景色を前にした時の喜びは計り知れない。きっと、そこには知っているようで知らない世界が待っているはずだ。


花村謙太朗 (はなむらけんたろう)

1984年愛知県生、東京都在住。世界中を旅する中で、写真に興味を持ち始める。
写真家 山岸伸に師事し、2011年に独立。主に人物、風景を被写体とし、活躍の幅は広告、雑誌、WEBなど多岐に渡る。
kentarohanamura.com

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