ホーム / Intercity / / 8/レンズ越しの世界
8/レンズ越しの世界

生きていくのに最低限必要なものと、カメラとフィルムだけを持ち、人生の旅に出る――。

8/レンズ越しの世界

この惑星の果てと、果て

 半年間の語学学校を終えて、さて、これからどうしようかと考えあぐねていた。帰国までは、まだ6カ月もあるのだ。もう一度スクールに通うこともできる。けれど、それもなんだかなと思っていた。結局のところ、僕の中で留学というのは、刺激的な環境へ身を置く手段だった。見慣れた風景から抜け出して、どこか別の場所へ飛び出すための――。

 ニューヨーク、アラスカ、カリブ……魅力的な行き先を挙げればキリがない。しかし、とにかくお金に余裕がなかった学生の僕にとっては、航空券が安いことが何よりの条件。最安値は、バンクーバーから往復300ドルとちょっとのラスベガスだった。いつしかその地を踏むことを夢見ていたグランドキャニオンへの切符は、こうして風に吹かれた木の葉のように不意に舞い降りてきた。

 機内の窓に顔を押し付けて、煌びやかなラスベガスの夜景を眺めた。世界中から集まってきた人々の夢が輝いているように見えた。街中には、ピラミッドやエッフェル塔など世界各国の建造物を模したホテルがずらりと立ち並ぶ。エントランスに構えたカジノや街を彩るネオンは朝まで消えることはない。砂漠のど真ん中に造りあげてしまったこの街は、まるで近未来に迷い込んでしまったように非現実的だった。

 それから12時間後、僕は切り立った崖の上に立ち、ダイナミックな地球の鼓動を全身で感じていた。何層にも積み重なった色とりどりの地層、今もなお大地を削りながら谷を形成するコロラド川。ここには、20億年という原始生命が誕生した頃からの時間が刻まれている。昨晩、見た景色と同じ世界にいることが俄かに信じられなかった。まるで、人と自然、それぞれが造り手となった時の、果ての景色を見たような気がした。

 あの近未来都市に再び戻るとき、今の僕は何を想うのだろう。

 


花村謙太朗/Kentato HANAMURA

昭和59年3月4日生。愛知県出身、東京都在住。旅で写真を撮り始めたことを機に、フォトグラファーを志す。ポートレート写真家・山岸 伸氏に師事し、2011年6月に独立。人物、風景を主に被写体とし、活躍の幅は広告、雑誌、WEBなど多岐に渡る。

 

Scroll To Top