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7/レンズ越しの世界

生きていくのに最低限必要なものと、カメラとフィルムだけを持ち、人生の旅に出る――。

7/レンズ越しの世界

幸福な日曜日の過ごし方

 滑らかな真っ白いシーツの上で目が覚める。時刻は正午になろうという頃、本日は日曜日。

 慣れない英語を朝から晩まで使っているためか、 授業がない休日は泥のように寝てしまう。雲ひとつない青空と、湿度のない快適な気候に誘われて、緑豊かな植物に彩られたバルコニーへ出た。眼下には、道路の脇で声高らかに話し込む老婦人の姿が見える。大通りでは、観光バスに連れられたツーリストが続々と街に溢れ出す。向かいのマンションでは、ビーチチェアに腰掛けた夫婦が仲良くティータイム。

 夏の季節ほど、バンクーバーを魅力的にさせる時はない。夜の9時になっても空は明るく、ついつい人々は陽気になり、犬さえも顔がほころぶ。部屋の奥からか、ルームメイトの声が聞こえた。

「折角だから、ネイキッド・ビーチへ行ってみないか」

――僕たちもこの時間を精一杯に謳歌しようというわけだ。
〝何もしない時間〟に溶け込むのは簡単だった。砂浜に体を預けて、ただ何もせず、波の音だけを聞いた。喉が渇いたらビール瓶を傾け、英語を喋りたくなったら隣の者に声を掛け、眠くなったら瞼を閉じた。ここでの時間は、それでもう十分なのだ。

 あれから10年が経とうとしている。今でも、ときどきあの幸せな日曜の過ごし方を思い出す。引き止めて置きたいほどの愛しい時間は、海を隔てた向こう側で今もきっと流れている。今日も太陽は、強烈な熱と光で沢山の肌を焦がしては水平線へと沈んでゆくのだろう。


花村謙太朗/Kentaro HANAMURA

昭和59年3月4日生。愛知県出身、東京都在住。旅で写真を撮り始めたことを機に、フォトグラファーを志す。
ポートレート写真家・山岸伸氏に師事し、2011年6月に独立。人物、風景を主に被写体とし、活躍の幅は広告、雑誌、WEBなど多岐に渡る。

 

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