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5/レンズ越しの世界

生きていくのに最低限必要なものと、カメラとフィルムだけを持ち、人生の旅に出る――。

5/レンズ越しの世界

視線の行方

 南国の絡みつくような暑さを避けるようにして、サモシール島へやってきた(インドネシア・スマトラ島北部のカルデラ湖のあるトバ湖に浮かぶ火山島。避暑地としても知られる)。たった10キロメートルの島の端から端までを横断すれば、ようやく湖畔のムラに行き着く。バスを下車し、のんびりと自分の足で歩いていく。辺りには、牛を引き、田を耕す、どこか懐かしい光景。高温多湿の気候に応じた高床式の家屋の造り。頭上を見上げれば電線は一本もなく、ただただ青い空に鳥が飛んでいた。花も、草も、音も、空気さえも、ここは日本とはまるで違う。

 途中、ある家の主人に呼び止められ、そこで小休止をすることに。家の軒先では子供が一所懸命、宿題に取り組んでいる。見ると英語の宿題だったので、自己紹介を交わし、僕は少しだけ先生になった。宿題が終わると、彼女は待ち侘びたかのように外へ飛び出した。それから一緒に、ひとしきり遊んだ。僕の首からぶら下がっていたカメラに興味を持った彼女は、撮ってみたいと言う。小さな掌でカメラを受け取った彼女は動き回り、目に映る世界は全て真新しいと言わんばかりにあちこちへレンズを向ける。まわりの風景は彼女に応じてくるくると姿を変えているようだった。まるで映画のワンシーンのように、僕の心に焼きついた。

 あの時、彼女は、〝写真を撮ること〟の本質を教えてくれた。それは、未知のものへの少々恐れ知らずの好奇心と、果てしな広がる海のような想像力そのものだ。目をきらきらと輝かせながら、嬉々と被写体に向き合う彼女に、“写真を撮る者”の本来の姿を見た気がした。


花村謙太朗/Kentaro HANAMURA

昭和59年3月4日生。愛知県出身、東京都在住。旅で写真を撮り始めたことを機に、フォトグラファーを志す。ポートレート写真家・山岸 伸氏に師事し、2011年6月に独立。人物、風景を主に被写体とし、活躍の幅は広告、雑誌、WEBなど多岐に渡る。

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