心の記憶を辿って
北海道美瑛町にある丘の、四季折々の景色を何十年にも渡り撮影し続けた一人の写真家がいる。前田真三だ。美瑛の美観を織りなしたのが土地の人々であるならば、その美を世に広めたのは紛れもなく彼であろう。東京出身の前田は、美瑛の美しき風景に出会うや否や見惚れ、この町に移住を決めてしまう。
それほどまでに彼の心を突き動かした風景を一目、見てみたかった。そうして、撮影機材をこれでもかとザックに詰め込み、真冬の北海道へと向かったのだ――。
早朝から宿を抜け出し、日が暮れるまでカメラを構え続けた。氷点下20℃の中でただ一人、寒い寒いと手をかじかませながら黙々と撮った。
あの時、僕が見た美瑛の景色は息を呑むほどに美しく、どれほどこの場所に留まりたいと思ったことか。
明け方、夕方と、時間によって様々に変わる雪の表情を見た。真っ白な大地と真っ青な空の狭間で静かに主張する木々を見た。
余計なものを徐々に削ぎ落とした先にあるように、美しきものはシンプルの中にこそあるのかもしれない。美瑛の美しさは、今も変わらずそこにあり続け、今も僕を魅了して止まない。
花村謙太朗 / Kentaro HANAMURA
昭和59年3月4日生。愛知県出身、東京都在住。旅で写真を撮り始めたことを機に、フォトグラファーの道を志す。ポートレート写真家・山岸伸氏に師事し、2011年6月に独立。人物、風景を主に被写体とし、活躍の幅は広告、雑誌、WEBなど多岐に渡る。