身近な医療問題を専門医が語るコーナーの第2回。
今回は誰にでも起こりうる「突発性難聴」がテーマ。
予防が難しいこの症状、大切なのは発症後の対応だった。
text:大場俊彦 構成:羽田祥子(編集部)

ある日突然聞こえなくなる

「突発性難聴」とは健康で耳の病気を経験したことのない人が、ある時、突然に耳が聞こえなくなる病気をいいます。
 通常は片側の耳(まれに両耳)で発症し、聞こえなくなるのと同時に、耳鳴りやめまいを起こすこともあります。よく外来で耳の聞こえは大丈夫だが、耳が詰まった感じがする(耳閉感)ので耳垢を取ってくれという患者さんがいます。でも、調べてみると耳垢もなく鼓膜も正常で、実は難聴を起こし、突発性難聴だったということがよくあります。
 年齢は40~50代に多いのですが、20代、30代といった働き世代にも最近は多く見られます。原因はまだよくわかっていませんが、今のところ、種々のウイルスによる感染や耳の中の血液の循環の不良により起こると考えられています。その他にも、最近ではストレスや過労が引き金になっている可能性があるようです。再発する可能性はほとんどありません。再発する場合は原因として耳の奥の「蝸牛」というカタツムりそっくりの組織が水ぶくれを起こした「メニエール病」や、耳の神経に腫瘍ができる「聴神経腫瘍」などが考えられるので、頭部MRIによる画像診断を含めた精査が必要です。

耳が聞こえなくなったら、とにかく耳鼻科へ

 では、耳が突然聞こえなくなったらどうしたらいいでしょうか。この場合、まず耳鼻科に直行することです。耳鼻科にしか聴力検査装置はありませんし(検診に用いる簡易の聴力検査装置ではわかりません)、耳の中に耳垢が詰まっているかどうかもわかりません。とにかくまず耳鼻科に行くことです。なぜこれほど念を押すかというと、耳の細胞は一度駄目になると再生しないからです。発症してから約1週間前後が治療に反応し耳が回復する時期。体に負った浅い傷が一度化膿しても治癒するのとは違い、耳は悪くなるともう治りません。
 銀座という場所柄、よく舞台の俳優さんが突発性難聴を発症し当院を訪れます。舞台俳優は替えが利かないので、舞台が終わってから治療してくれと言われますが、それでは手遅れになることもあります。ある時、有名な俳優さんを診察しました。その方は片方の耳が元々悪かったのですが、その時、発症したのは正常な方の耳。さらに気付いたのが運悪く舞台の途中ですぐには治療できず、正常な方の耳も難聴を患ってしまいました。結局、その方は俳優の仕事を続けられなくなり、表舞台から去ってしまいました。

重要なのは「安静」 思い切って入院も

 治療はまず安静にすることです。薬はステロイドの内服や点滴がメインとなります。ステロイドが何故効くかはまだよくわかっていませんが、私の経験上、薬物投与のみで安静にしない人は予後が悪いことが多いです。
 当院では数日間、薬物投与しても改善が見られない患者さんには、入院を勧めています。実はクリニックでの外来での点滴と、入院での点滴の内容には大差ないのですが、入院すると外の世界から隔絶されるからか、治療効果は外来のみに比べ高い傾向にあります。また、病院によっては高圧酸素を投与する場合がありますが、施設が限られ、オプショナルなものと考えてよろしいかと思います。
 入院は楽なものです。ひたすら点滴をして、1週間ほどボーっとしていれば大抵は治ります。ですから、僕は入院する患者さんに日頃ゆっくり読めない漫画を買って読むことを勧めています。皆さんはどのような漫画を選びますか? 僕だったら横山光輝の『三国志』でしょうか…。

大場俊彦(おおば・としひこ)

慶應義塾大学大学院医学研究科 博士課程修了 博士(医学)
(社)日本耳鼻咽喉科学会認定専門医
慶應義塾大学医学部助手、東京都済生会中央病院を経て、慶友銀座クリニック院長岐阜県出身。1月31日生まれ。