東京大学が主催する、全国の受験生に向けた「主要大学説明会」が各地で行われていることをご存知だろうか。少子化による大学全入時代、学生の学力低下が危惧される一方で、優秀な頭脳の海外流出も問題視されている。質の高い学生をいかに獲得し、育てていくかが、今、日本の大学が抱える大きな課題となっている。東大副学長が語る、東大の新たな取り組みと目指すべき人材育成とは?

本郷キャンパスを象徴する建造物「東京大学大講堂(安田講堂)」

グローバル化に向けて

 一方、「これで東大は国内で一人勝ち」などと甘んじてはいられない、と小島副学長の表情は引き締まる。お隣の韓国、中国では、親が血眼になって欧米のトップクラスの大学に進学させようと躍起になり、その過熱ぶりは国家問題に発展しているほどだ。今、日本でも同じような現象がじわりと広がりつつある。このような「若き頭脳の空洞化」を東大はどう受け止めているのか。 「優秀な日本の学生が日本で勉強しなければならないという内向きな考えに囚われる必要はないと思います。グローバル化した世界の中で、私はこれは自然な流れだと受け取っています。むしろ、大学も世界を見ないといけない。優秀な学生を、日本だけではなく世界から取り入れなければなりません」。

 現在、東大では大学院を含めると97カ国から訪れている約2500人の留学生が学んでいる。大学院では多くの分野で国際的にも評価が高く、研究室では英語が飛び交い、グローバル化しているという。一方で、グローバル対応の遅れが懸念されてきた学部レベルにおいても、平成23年10月から教養学部に国際教養コースを新設。発展途上国を含めた国々から優秀な学生を取り入れて、徹底して英語で授業を行う。ユニークなのは、日本アジア研究や、日本が得意とするエネルギー、環境といった専門的な知識だけでなく、英語で日本語と日本学(歴史や文化)を教える点だ。外国人学生が将来、日本との架け橋となるための礎を目指すという。
「日本の企業もBRICsといった新興国に対して大きな関心を持っています。ここで学ぶ学生たちは、日本が将来に向けて撒くべき種だと考えています」。

安田講堂とともに本郷キャンパスの象徴である赤門。社会や教育環境の移ろいに伴い、最高学府と称される東大
も多様化やグローバル化などの変化を遂げようとしている

 このコースは主に留学生を対象としているが、他学部生も聴講でき、単位も認定される。日本人学生が新たな多様性に触れる貴重な機会となる。
 もちろん、日本人学生と留学生の交流があってこその多様化である。東大は両者の接点作りにも気を配る。キャンパス内で「アフリカ月間」「アジア月間」等と称し、その地域の国々から来ている留学生が英語でプレゼンテーションを行う機会を設ける。その後、フリーディスカッションの時間を取り、言語や文化の違いだけでなく、その国が抱える問題等についてもフランクに話し合うことで相互理解を深めていく。また、学生寮での共同生活を通じた国際交流を実現する。8人の学生を1グループとし、ベッドと勉強机が備えられた自室以外の設備は共同利用とする。自室には共同空間を通らないと入れない間取りとし、緩やかな共同生活の中で学年や国境を越えた絆を育む仕掛けだ。
「この寮のコンセプトに共鳴し、ぜひ応援したいと、財界や同窓会から支援の声が高まっています」。
 日本人学生に対する国際教育にも力を入れている。特に理系分野において、一流の研究が世界に認められるには、英語でのサイエンスライティングやプレゼンテーション能力が必須であることから、理系の学生全員に対して、少人数グループで熟練のネイティブ講師が念入りに指導するという取り組みも始まった。日本から世界一流の頭脳を輩出すべく、地道で質実な取り組みが積み上げられつつある。