前回は温暖化発生の原因や、発生量を削減する「緩和」対策と変動する気候に合わせて生活するための「適応」対策、京都議定書の内容、中長期的目標設定など、気候変動問題の基本事項を、JICA気候変動対策室室長代理・須藤智徳氏にわかりやすくレクチャーしていただいた。今号では具体的な対策や日本の役割などについて引き続き須藤氏にお話を伺った。
text: 羽田祥子(編集部) 資料提供: JICA

気候変動対策室 室長代理 須藤智徳氏

「緩和」策支援と国別「適応」対策

 開発目的と温室効果ガス削減の相乗利益(=コベネフィット)をもたらすコベネ事業は緩和策のひとつである。インドのオリッサ州では植林セクター開発事業が行われ、植林事業により森林が再生された。地域の環境改善と貧困削減の効果とともにGHG(温室効果ガス)が削減された好例で、JBIC(現JICA)の円借款が活用された例である。
 CDM(クリーン開発メカニズム)も地球全体でGHG削減効果と削減費用低減に貢献している。現在1800件程度の登録プロジェクトがあり、年間3億トンの削減につながっている。しかし今後先進国は京都議定書よりもさらなる温室効果ガス削減に取り組むことが求められることから、その目標達成のため、クレジットの取り合いが予想されている。CDMのマーケットを広げていくことが必要である。途上国政府が売却利益を貧困削減や地域開発に投資することにより開発効果も生み出される。ODAとCDMは途上国に貢献する点で共通の目的を持っている。

 バリのヌサドゥア海岸は、円借款で海岸保全事業を行った。現地では道路の骨材にサンゴを使うため、海底のサンゴが大量に使用され、潮の流れが変わって波が増大し、海岸線が消えかけていた。ヌサドゥアは日本人も多く訪れる高級リゾート地。海面上昇は観光収入に大きなインパクトを与え経済的な打撃を与える。人工海浜に近い形で海岸を復活させるとともにサンゴ礁の移植・養殖作業を行った。「島嶼国での海面上昇対策として対応できるスキームです。ただモルディブだと防波堤のほうがいいなど国の状況によって変える必要があります」。
 低海抜国オランダは1000年に一度の大規模な洪水にも耐えられるよう様々な対策を施している。またイギリスは53年のロンドン大洪水でテムズ川沿岸に大きな被害を受け、その教訓からテムズバリアと呼ばれる堰を建設した。テムズ川は海に向かってラッパ状に流れ込んでおり、冬に北極圏から襲う嵐による高潮がテムズ川を逆流する形でロンドンを襲うのだ。そのため気候変動対策に対して国民の関心が高く、積極的な対策をとっている。

昨今の気候変動により干上がった大地

炭素マーケットが基軸に?

 炭素マーケットの今後の動きにも注目したい。「イギリスはロンドンを炭素マーケットの拠点にしようとしています。02年にイギリスがEUに先駆けて排出権取引をはじめ、05年にはEUが域内での排出権取引を開始しました。現在ロンドンは排出権取引市場の中心です。将来、排出権は金や銀などと同じように影響力の大きなマーケットになると思います」。
 排出権は、世界共通の中立性の高い基軸になると見込み、イギリスでは早くから整備されたという。まだ排出量削減数値目標を負っていない中国やインドも将来の市場を見据えている。中国は炭素マーケットを国内3カ所に設置した。数値目標がないうちからカーボン市場を整備し、将来の取引需要に備えておこうという戦略だ。

長期的取り組みがJICAの強み

 援助活動には常に長期的で現実的なビジョンが必要となる。「通常の技術協力でも案件を発掘して実施に移して途上国に根付くのに5年、本当に定着するには10年かかります。円借款であれば計画から、設計、資金調達、建設、完成まで平均7年。事前調査を含めれば10年以上かかることもあります。50年、100年先にどう影響を与えるかを考えなければならないのが開発の仕事です。2020年まではあっという間です。25%削減するのならすぐにプロジェクトの形成を始めなければ間に合いません」。
 個人の感覚として10年は長い。50年前の社会には新幹線すらなく、50年後は想像さえできない。50年後を見据えつつ、5年の視点で地道な作業を積み重ねるのがJICAの仕事なのだ。
 世界において高い技術を持つ日本の役割は大きくなると須藤氏は語る。「高い技術がこれから売れる余地は広がっていくと思います。日本がこれから売るべきは頭脳、ソフトの分野ではないでしょうか。技術をさらに進化させるべきだと思いますね」。

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