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オデュッセイアvs.セイレーン

オデュッセイアvs.セイレーン

ビジネスで大きな成果を上げるためには「リスクに立ち向かうこと」と「勝ち目のない戦はしないこと」の2点が肝要だ

ビジネスで大きな成果を上げるためには「リスクに立ち向かうこと」と「勝ち目のない戦はしないこと」の2点が肝要だ

成功とリスク

 昨今のわが国では「平等教育」などという悪弊がはびこり、気力に欠けた若者が増大している。それでいながら両親がかわいがるものだから、余計に無気力になり、諦めが早い。人間も民族も所詮、不平等なのである。「平等」こそが望ましいと考える向きにはJ.J.ルソーの『人間不平等起源論』をお薦めする。
 しかし、昨今の日本を取り巻く状況においては、簡単に諦めたり譲歩したりしていては退歩あるのみなのだ。臆することなくリスクを取ることこそが先へ進む唯一の道であることを、この叙事詩の第12巻は示している。

 キルケーの館から無事脱出したオデュッセイアの一行は、次にセイレーンの誘惑を通り越さなければならない。どうしてもセイレーンの声を聴きたいオデュッセイアは部下の船乗りたちの耳を蝋でふさぎ、自らを船の柱に縛りつけさせてその声を聴くのである。
 ここで見られるのは、オデュッセイアが舟を漕ぐ部下たちにセイレーンの声を聴かせまいとする策略と、自らは聴きたいという欲望との相克である。部下を災難から守ると見るよりも、むしろ部下には聴かせたくない、聞くのは自分一人の楽しみにしたいというように私は読んでいる。そして、セイレーンの声を聴くという快感を得て初めて彼は、故郷イタカへの帰還に一歩進めることができたのである。
 本には書かれていないが、この時オデュッセイアは遠回りしてセイレーンの誘惑を避けることもできたはずである。
 だが、セイレーンの声をどうしても聴きたいオデュッセイアはリスクを取って成功する。同時に、この部分では戦っても勝ち目がないものは逃げるにしかず、ということも教えてくれている。カリュブディスとスキュラにはどう戦っても勝ち目がないのだから早く通り過ぎることにしたのだ。
 出世にしても、ビジネスで大きな成果を上げるにしても、一つにはリスクに立ち向かう勇気が必要なこと、もう一つは勝ち目がない戦は避けることが重要である。妻と戦って勝てる夫はそんなに多くはないはずだ。

ホメーロスと
ウェルチが示す教訓

 私は17年間正社員として、またその後4年間は嘱託として勤めたGEの総帥ジョン・F・ウェルチ(通称:ジャック・ウェルチ)を大変尊敬しているのだが、彼の6つのルールというのは最初のものを除いてあまり知られていない。6つのルールとは次のようなものだ。
(1)Control your destiny or someone else will. (2)Face reality as it is, not as it was, or as you wish it to be. (3)Be candid with everyone. (4)Don’t manage, lead. (5)Change before you have to. (6)If you don’t have a competitive advantage, don’t compete.
 この場においてオデュッセイアは見事に(1)と(6)を実践している。(6)はまた孫子の「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」にも通ずるのである。再度申し上げたいが、リスクを取ることと勝ち目のない戦はしない、古代ギリシャの叙事詩とジャック・ウェルチは期せずして同じ教訓を我々にもたらしている。


石原憲一(いしはら・けんいち)
1962年慶應大学卒業(英文学専攻)。日本Olivettiに入社し、ソフトウェア統括部長、子会社社長を経て、1982年GE(ゼネラルエレクトリック)社にて商用ネットワーク部門を担当、電通国際情報サービス常務取締役を兼任。1999年に退職後もGEに嘱託として残り、同時に KDD、シェル・サービス、JetFormの顧問やコンサルタントとして2003年末まで勤め、現在は長野県の森の中で隠遁生活中

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