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階段や山は上に行くほど危険

さまざまな事象に当てはまる「無能レヴェル」。あなたはどこまで昇れますか?

時代や国で異なる出世事情

 前回は「突如、あなたの上司が中国人になったら」というややスリリングなことでまとめたのだが、もう一つの可能性として、あなたが昇進することもあると付け加えた。
 昇進はすべてのサラリーマンにとってうれしいことであろう。家へ帰れば妻子がお祝いをしてくれる、周りは昇進記念のゴルフコンペをやってくれる、こんなにうれしいことはない。
 昔は「末は博士か大臣か」といって、やはり出世や昇進を寿(ことほ)ぐ傾向が強かった。立身出世は一種の人生の目的でもあった。
 だが最近は事情が異なるようである。出世や昇進は必ずしも歓迎されるばかりではないようになってきた。もっとも、落語の方では「どうか棟梁なんかに出世しないように」と祈る大工の八つぁんもいたのだが。
 昇進すれば、それだけ責任が重くなる。他人、他部署、部下との付き合いに神経をすり減らさなければならない。手当のない残業が増えるなど、家族サービスがおろそかになる。特に最近の若いサラリーマンは家庭を大事にする傾向が顕著になってきたので、少しばかりの高い給料は、家族団らんに比べれば、価値の低いものになってきている。
 これは最近の日本の傾向であるのだが、残業が例外である先進諸外国においてはごく当たり前のことである。大体、残業は能力のない奴がやることと相場が決まっている。遅くまで働くのは立身出世を夢見るエリートだけということなのである。

「無能レヴェル」

 ところが40年以上前に、カナダ人のL.J.Peterという人が『ピーターの法則』という本を書いて、出世することに対して警鐘を鳴らした。この本は『パーキンソンの法則』や『マーフィーの法則』と並んで実に興味深い本であるが、日本ではこの2冊ほど評判にはならなかったようである。
 趣旨としては、個人の能力には限度がある。したがって平社員として働いていて有能と思われても、係長や課長に昇進したら有能に働くという保証はない。それは階段の一段ごとに言えることであって、部長としては優秀であっても取締役になった途端に無能をさらけ出す可能性もある。
 このように、人間はある昇進段階に達すると「無能レヴェル」に達してしまう。これはもちろん、人間個人に当てはまるだけではなく、企業、団体、国家、果ては地球全体にも当てはまる。
 無能レヴェルに達すると個人には消化性潰瘍、高血圧、アルコール中毒、吐き気と嘔吐、性的不能など26種類の症候が現れてくる。
 企業に置き換えてみる。ある企業は50人で10億円の売上を上げていた頃はうまくいっていたのだが、それが100人で20億円を売り上げようとすると、うまくいかなくなってしまった。すなわちこの企業は10億円の売上を突破しようとした段階で無能レヴェルに達してしまったのである。
 人間が無能レヴェルに達して、無様な姿を見せないようにするためにはどうしたらよいかを、この本は面白おかしく書いている。
 自分の人生の先を見極める一つの指針として、一読を勧めたい。

註:『ピーターの法則』には続編が2冊『ピーターの知恵』と『ピーターの先見術』があるが1冊目だけで十分に思う。1冊目で彼は無能レヴェルに達したと言ったら叱られるかもしれないが。


石原憲一(いしはら・けんいち)
1962年慶應大学卒業(英文学専攻)。日本Olivettiに入社し、ソフトウェア統括部長、子会社社長を経て、1982年GE(ゼネラルエレクトリッ ク)社にて商用ネットワーク部門を担当、電通国際情報サービス常務取締役を兼任。1999年に退職後もGEに嘱託として残り、同時に KDD、シェル・サービス、JetFormの顧問やコンサルタントとして2003年末まで勤め、現在は長野県の森の中で隠遁生活中

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