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ジャック・ウェルチと守・破・離

ジャック・ウェルチと守・破・離

そのビジネスで勝ち目がなくなった場合、どのような対応をするのが正しいのか。日本の電機メーカは選択を迫られている

守・破・離とは

 2011年度の電機大手の連結業績は大きく二つに分かれた。パナソニックが7700億円の赤字転落、ソニーが4600億円の連続赤字、シャープが3760億円の赤字転落、一方、日立、東芝、三菱、富士通は黒字であったがいずれも減益であった。
 武士道の心得として、日本の格闘技において、「守・破・離」とは昔から言われてきたことだ。これは格闘技に限らず、あらゆるスポーツや芸術に当てはまることであろう。
 簡単に説明すると「守」とはまず型を覚えそれを忠実に守ることだ。その後、「型にはまる」ことを避けるために、その型から外れることもしなくてはならない。柔軟性が求められる。それが「破」であり、そこを超越すると「離」の段階に到達する。そこでは「型通り」にやることも、それを破って自由にやることも自由自在にできる段階に到達する。「型通り」に行ってきて成功体験が続くと、必ず弱点が出てくる。一つの方向しか見ることができなくなって、脇が甘くなる。
 一つの例として写真の媒体を見てみよう。写真の媒体は長いことフィルムであった。いくつものメーカが世界で名乗りを上げていたのだが、今や写真の媒体としてはメモリ一辺倒である。
 世界に冠たるメーカはご存じの通り、富士フイルムとコダックであった。しかし富士フイルムはフィルムメーカとしての実績に立脚して広い分野で大きな存在感を示し、業績も好調である。一方のコダックは今年、連邦破産法の適用を申し出る始末だ。
 この二つのメーカの差を見るとき、富士フイルムの見事なまでの守・破・離が見えるのだ。このあたりの事情はネットなどでお調べいただきたい。

誰が一番早く手を引くか

 翻って我が国の電機大手の昨年度の業績はどうであったか。
 そこにはテレビ製造に対する過度の「守」の姿勢が見えるのではなかろうか。それに加えて技術に対する過信も見えるのではなかろうか。私は電機業界に関しては全くの門外漢であるので、的外れなことを言っているかもしれない。しかし、事実として1980年代にアメリカでテレビを製造していたのはゼニス社一社だけであったと聞いている。
 ゼニス・エレクトロニクスといえばアメリカでは絶大なブランド力を誇ったメーカであるが、今やLGの子会社になってしまった。
 技術革新への乗り遅れもあっただろう。しかし1980年代の怒涛のごとき日本メーカの侵攻の前にはなす術もなかった。GE、RCA、ウェスティングハウスなどはとうに日本メーカの製品をOEMで売っていたにすぎなかった。
 これら三社を代表とするアメリカの大手メーカは変身が速かった。勝ち目がないとわかると、守も破も離もへったくれもなく、そのビジネスを投げてしまったのである。もちろん日本とは事情が違い、雇用に対する大きな自由度を持っているアメリカ企業だからできたのだと言われるかもしれない。
 しかし雇用を守るために会社自体が倒産したのでは本末転倒である。日本航空の復活だって雇用の大きな犠牲の上に成り立ったのだという事実は忘れてはならない。

 ジャック・ウェルチは幾多の名言を残した最高のカリスマ経営者だが、彼の言ったことの中に「Six Rules」というのがある。その最後のものは

“If you don’t have a competitive advantage, don’t compete.”

というものだ。私はこれを「負け戦は逃げろ」と超訳したのだが、電機メーカの昨年度の実績を見る限りにおいて、どうも負け戦を無理して戦っているように見えて仕方がない。高級技術を駆使したテレビに対する世界の需要はどのくらいあるのか、そういうところを見ているのかどうかが私にはわからない。
 100インチのテレビを買う人もいるであろう。そういう人は「金に糸目をつけない」のかもしれない。だが大量生産をして製造コストを下げて、「売れるもの」そして何よりも「利益が出る商品」を考えるときではなかろうか?
 誰が一番早くテレビから手を引くか、たとえ満身創痍になっても、それが勝ち残るキーではなかろうか。


石原憲一(いしはら・けんいち)
1962年慶應大学卒業(英文学専攻)。日本Olivettiに入社し、ソフトウェア統括部長、子会社社長を経て、1982年GE(ゼネラルエレクトリック)社にて商用ネットワーク部門を担当、電通国際情報サービス常務取締役を兼任。1999年に退職後もGEに嘱託として残り、同時にKDD、シェル・サービス、JetFormの顧問やコンサルタントとして2003年末まで勤め、現在は長野県の森の中で隠遁生活中

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